29.野宿Ⅱ

 父は倒木の上に座ると、カバンの中から食料の入った袋を取り出した。


「それがマジックバッグですか?」


「そうだ。俺が冒険者の頃から使ってるやつだぞ?」


「容量はどれほどあるのですか?」


「これは中級だから二メートル四方だな。下級は五十センチ、上級は三メートル、最上級はなんと五メートル四方もある。そんなの持ってるの大商人くらいしかいないけどな。」


「大きいですね。」


 一度に多くの物を運ぶことが出来るマジックバッグは、商人には必須アイテムだろう。


「便利だがその分値が張る。この中級でさえ金貨五枚もするんだぞ?」


「え!?そんなにもするんですか?」


 この国の通貨には銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨が使われている。日本円でおおよそ左から十円、百円、千円、一万円、十万円、百万円、一千万円に相当する。


 つまり父様の持っているマジックバッグは日本円で五十万円に相当するのである。


「まあ、冒険者業やってると荷物の多さが命に関わることもあったからな。それで命を買えるのなら安いもんだったが。」


「そうなのですね…。」


 そんな話をしながら、父様は袋から干し肉と黒パンを出す。前世と違って食料の保存が困難なので、いくら貴族といえど野宿の時は贅沢が出来ないのである。


 かといって、硬くて嚙みにくい干し肉と物凄く硬くて噛めない黒パンをそのまま食べるのは五歳児である俺にはとても辛い。


 そこで俺はある物を準備した。


 話は少し前に遡る。



 ワイアット兄様から料理長の話を聞いた次の日、俺は彼に会いに行った。


 彼の名前はジョセフ。一流の料理人である彼は、俺が家族に内緒で夜に会いに行った時も次の日の朝食の仕込みをしていた。


「こんばんは。」


「おぉカルム様、どうなさいましたか?」


「いきなり来ちゃってごめんね。少し話があるんだけど…」


 そう言って俺は事情を話す。


「なるほど、つまりカルム様は成長期なので夜にお腹が空かれると。なので夜ご自分で簡単に食べられる料理が必要ってことですね?」


「そういうこと。」


「それなら私が毎晩作り置きしておきましょうか?」


「いや、それよりも…」


 俺はここで密かに考えていたことを話す。


「新しい料理、作ってみない?」


 

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