28.野宿Ⅰ
俺がステータスを取得してから数週間が経った。今日は王都で開催されるパーティーに参加するために屋敷を出発する日だ。
母様と兄二人、そして屋敷の使用人たちに挨拶し、馬車に乗って出発する。
「そういえばカルムは屋敷の外に出るのは初めてだったな。」
「鍛錬で屋敷の周りを走ったことはあります。」
「町に出るのは初めてだな?」
「はい。」
この国の貴族には、子供が五歳になるまでは家の外に出さずに大事に育てるという風習がある。そのせいで今日が俺にとって初めての外出になる。
俺はこの国、ひいてはこの世界についてほとんど何も知らない。なので五歳になってから今日この日を待ちわびていた。
「王都へはどのように向かうのですか?」
向かいに座っている父様に尋ねる。
「王都は俺達が住んでいるところから遠い。だから途中で知り合いの人達に世話になりながら一か月かけて行くんだ。」
「馬車で一か月間野宿というわけではないのですね。」
「当り前だ。一応俺たちは貴族だぞ。」
父様が笑いながら否定する。俺はそれを見て心底安心した。
元現代日本人だった俺は、はじめは屋敷での生活にも耐えきれないほどの苦痛を感じていた。最近では慣れたが、今でもため込み式の便所の臭いには辟易とする。野宿なんてまっぴらごめんだ。
「まあ一週間くらいは野宿もするけどな。」
最悪だ。オリヴィアが来なかったのはそれでなのか。ワイアット兄様の時は世話係も同行していたが、オリヴィアは体調不良を訴え屋敷にとどまった。どうせ野宿が面倒だからだろう。
そんなことを話しながら馬車は進む。
「まずはどこへ向かうのでしょうか?」
「今日目指すのは、うちの領と隣にあるグルーブ子爵領だ。今晩中に着くのは無理だから途中で野宿だな。」
嫌だ…。
「宿などは無いのですか?」
「ないな。なんだ野宿が嫌なのか?カルムはきれい好きだからな。まあちょっと我慢してくれ。」
「はい…。」
仕方ない…。
それから何事もなく馬車は進み、夕方になった。
「よし、今日はここで野宿だな。みんな各自準備に取り掛かるように。俺たちのは自分でするから大丈夫だ。」
父様の号令で馬車は止まり、皆それぞれ野宿の準備に入る。
「カルム、お前も手伝ってくれ。」
「分かりました。」
俺も野宿の準備を手伝う。父様はテントを、俺は焚火を用意する。
「おお、カルムは焚火も作れるのか!」
「本を読んで知りました。」
本当は前世で学校に通っていた時に修学旅行で学んだものだ。
俺は仕上げに自分のカバンから絵が描かれた紙を取り出し、その絵を具現化する。
「種火、『具現化』」
すると薪の下に置いた枯草に火が灯り、薪にも火が移っていく。
最近の鍛錬で分かったことだが、俺の『絵画魔法』は絵を描くだけなので他の人よりも容易に魔法を使うことが出来る。
火属性の魔法使いが種火程度の小さな火を生み出すには繊細な魔力操作が必要になるが、俺はそもそも規模の小さな絵にはそれほど多くの魔力を込めることが出来ないので魔力操作の難易度は格段に下がる。
俺はこの『種火』の他にも、困ったとき用や護身用に絵が描かれた紙をいくつか持ち歩いている。カバンの中身はほとんどそれだ。
「よし、出来たか。じゃあ飯にするか。」
そう言って父様はどこからか倒れた木を引きずってきてその上に座り込んだ。
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