26.鍛錬Ⅱ

「「疲れた…」」


 昼食のために食堂へ戻ると、俺と同じく生気が抜けたワイアット兄様がいた。


「お疲れのようですね。」


「カルムもな…。」


「どうされたんですか?」


「俺も午前中は魔法じゃなく剣術の鍛錬をしてるんだ。魔法使いは近づかれたら終わりだから近距離でも戦えるようにって…。でも俺には近距離戦闘の才能はないから…。」


「僕もです…。」


「お互い大変だな…。」


「はい…。」


 お互いの苦労を労いながら昼食をとる。


 この世界の食事は前世と変わらないくらい美味しい。


 こんがり焼けた肉をナイフとフォーク(みたいなもの)で切り分けると、そこから肉汁が溢れ出てくる。もったいないと急いで口に入れると、口いっぱいに広がる肉の旨味。そこに臭みなどは一切存在せず、ほのかに甘みさえも感じる。一口で肉の上等さと調理の繊細さを感じられる最高の一品だ。


「カルムって本当においしそうに食べるよな。」


「とてもおいしいので。」


「俺もそう思う。流石一流シェフだな。」


「シェフをご存じなのですか?」


「知らなかったのか?うちの料理長は父様が冒険者時代にスカウトしてきた有名一流レストランの元店長だぞ。」


「そうなのですか?」


「ああ。彼の息子が店を継いだ後、この屋敷の料理長をしてくれてるんだな。優しい人だけど料理には厳しい。いつもコックたちが絞られてる。」


「熱い人なんですね。」


「お陰で俺たちはいつもうまい料理を食べられて満足だけどな。」


「同感です。」



 美味しい食事で英気を養った俺たちは、午後からの訓練を開始した。


「よし、じゃあまず魔力というのは何か教えてあげよう。」


「あの…」


「どうした?」


「実は僕、もう魔力を感じることが出来ます。」


「なに、本当か?」


「ええ。」


「自分の体を流れる力を感じ取れるのか?」


「はい。」


「…天才か。いや、神童だな。」


 ワイアット兄様はそう呟くと、俺に提案する。


「じゃあ次はその魔力を操作してよう。」


「分かりました。」


「自身に流れる魔力を感じ取り、その流れを掴むんだ。」


「はい。」


 俺はこれまでこっそり続けてきたのと同じように、体全体に魔力が行き渡るように操作する、が、何故か流れが全く掴めない。どうしてだ?


「…できません。」


「ん?なんでだ?流れは感じ取れてるんだろ?」


「そうなのですが。」


「うーん、普通は流れを感じ取れていたらできるはずなんだけどな…。」


 ワイアット兄様は考え込んでいる。


「普通の人と違うところ…あ、ユニーク魔法のせいか?」


 何か閃いたようだ。


「ちょっとステータスを確認してみてくれないか?」


「分かりました。『ステータス』」


【名前】カルム・フォン・マンダリン

【種族】人族(人間) 【性別】男 【年齢】五歳

【称号】男爵家三男 神童

【レベル】1

【体力】55

【魔力】62

【筋力】29(38)

【敏捷】40(41)

【知力】231

【魔法適性】絵画魔法

【スキル】 叡智Lv.10(MAX)

      具現化Lv.1

      算術Lv.8

      絵画Lv.9 


 …少しステータス値が下がっているな。疲労によるものだろう。


「じゃあユニーク魔法の詳細について調べてくれ。意識すれば分かるだろうから。」


「分かりました。」


 俺は『絵画魔法』の欄を指でタップするように意識する。


 『絵画魔法』

 Lv.1 筆に魔力を付与し、魔力を含む絵を描くことが出来る。


 ほう、詳細を見ると魔法のレベルが分かるようになるのか。


「なんて書いてある?」


「『筆に魔力を付与し、魔力を含む絵が描くことが出来る。』と書いてあります。」


「そうか。…じゃあ筆を持って魔力操作をしてみようか。」


「え?そんなのでいいんですか?」


「試しにやってみろ。たぶんいけるから。」


「はあ。」


 俺は自分の部屋から絵筆を持ってきて、そのまま魔力を操作しようとする。すると、筆を握る手と自分の体全体の魔力の流れがより鮮明に理解できるようになった。筆に魔力を集めようとすると、簡単に集めることが出来た。


「ワイアット兄様ありがとうございます。出来ました。」


「本当にできたのか!試しに言ってみただけなのに!」


「はい。兄様のおかげです。」


「これでもう俺が教えられることは無くなったな。ここからは自力で鍛錬すると良い。」


「はい。」


「じゃあ俺は自分の鍛錬に入るから。カルムに追い抜かれないようにしなくちゃな。」


「分かりました。ありがとうございました。」


 去っていくワイアット兄様の背中を見つめながら、俺は自分の魔法について考えていた。


 

 

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