25.鍛錬Ⅰ

「さあ、鍛錬を始めるか。」


 朝食を食べ終えて動きやすい服装に着替えた俺は、兄様達と一緒に庭に出た。


 三人で準備体操を終え、俺のカリキュラムについて話し合う。


「じゃあ午前中は僕が剣術と体術を、午後からはワイアットが魔法を教えよう。」


「俺に任せろ!」


「よろしくお願いします。」


 そういえばワイアット兄様は最近一人称が’俺’になった。理由は知らない。



 鍛錬が始まった。


「まずはどれくらい動けるか試してみようか。」


「分かりました。では何をすればよいでしょうか?」


「ええと、まず屋敷の周りを五十周。」


「え?ちょっ」


「それが終わったら腕立て、腹筋、スクワット百回ずつ。それから徒手の型だね。」


 嘘だろう?この屋敷一周で500mあるんだぞ?×50で25㎞もあるじゃないか!?


「あ、あのう」


「さあ、よーいドン!ほら、スタートして!」


 何故か目を輝かせている。うちの長男は意外とスパルタな所があるんだな…。


「…分かりました。では、行って参ります。」


 そう言って俺は走り出した。



 屋敷の周りを走っていると、使用人や領内の兵士がたくさん声をかけてくる。


「あ!カルム坊ちゃん!鍛錬か?頑張れよ!」


「大丈夫ですか?お顔が大変赤くなっておられますよ?」


 本当にうちの家族は人々に好かれている。父様だけでなく、先祖代々この領地で民衆のために心血を注いできたんだろう。ああ、この家に転生して良かった。そういえば、ヒロさんや薫さんは今頃何をしているんだろうか。元気にやってたらいいが…。


「カルム、何をしているのかな?」


「う!?」


 振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべるオーウェン兄様がいた。


「何故足を止めているのかな?」


「いえ、少し休憩をと…」


「まだ三周目だよね?もう疲れたのかな?それともサボっているのかな?それならお仕置きしないと…。」


 その時、オーウェン兄様の瞳が妖しく煌めいた気がした。


「い、いえ!サボりなんてとんでもない!それでは!」


 俺は急いで走り出した。危ない危ない。あの目は何をしでかすか分からない人のそれだ。


 

 結局俺は十一周目でダウンした。それでも五歳の体で5㎞も走ったのだ。よく頑張った方だろう。


「うーん、カルムは体力がないんだね。僕が五歳の時は八十周くらい走れたんだけど…。」


「それはオーウェン兄様だからですよ。僕はそんな変た…天才じゃありません。」


「それならこれからは体力を付けることから始めようか。」


「分かりました。」


「はい、休憩終わり!次は腕立てするよ!ほら、準備!」


「えぇ…。」


 その日の午前中、俺は足腰が立たなくなるまでオーウェン兄様にこってり搾り上げられた。



 

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