20.絵画Ⅱ
箱から出てきたのは、キャンバス、パレット、イーゼル、絵の具のチューブ、筆など絵を描くのに必要な道具だった。
「へえ。かなり本格的ですね。描いたことあるんですか?」
「いや、何事も挑戦だと思ってね。」
俺は適当なことを言いながら絵を描く準備を続ける。
「よし、準備完了。何を書こうか?」
「じゃあ、私のこと書いてみて下さい。」
「オリヴィアのこと?」
「はい。それなら戻らなくていい理由になりますよね?」
「分かったよ…。」
はあ、このサボりめ。
それにしても、人物画か。
「じゃあ、そこに座って。」
「カルム様のベッドにですか?」
「うん。」
オリヴィアを座らせ、俺は正面にイーゼルを立て構える。
「絵の具は準備しないのですか?」
「取り敢えず今は鉛筆だけで描くよ。」
「そうですか。」
「じゃあ始めるよ。」
「はい。」
そして俺は描き始める。
卵型の整った小さな輪郭、小さな耳、腰まで伸びる淡い金の髪。一点の曇りもない肌や艶やかで瑞々しい髪は、荒れることを知らず日々の疲れを何者にも悟らせない。
「…本当に仕事してる?」
「…してますよ。」
していないのだろう。
くっきりと分かれた二重に長いまつげ。金の瞳は情熱的に輝いているが、目尻は気だるげに垂れている。
細く整った金の眉。額は少し広く、シースルーの前髪がかかっている。
…こうして見ると本当に整った顔立ちである。前世の女優やアイドルに引けを取らない。
「描けましたか?」
「顔だけね。」
「じゃあ見せてください。」
そう言ってオリヴィアはベッドから立って絵を覗き込む。
「え?どうしてこんなに上手なんですか?初めてですよね?」
「まあそうだけど…。」
「本当にそっくり。これ後でください。」
「いいよ。」
彼女はもう一回ベッドに座る。
「ほら、早く体も描いて下さいよ。」
「分かってるよ…。」
なんて自由な女性なんだ。
俺は体を描き始める。
ありきたりなメイド服。しわが明らかに少ないのは気のせいではないのだろう。華奢な肩、控えめな胸、細く長い腕、すらっと伸びるしなやかな指。
久しぶりに絵を描いて分かったことがある。それは、転生して全く新しい体になってしまったため、体が覚えていたことをすっかり失くしてしまっているということだ。頭では覚えているんだが上手く手が動かないということが多い。
まあこれが生まれて初めての作品なのだ。これから描き続けて一から覚えなおせばいい。
「出来た。」
「おお、すごい。カルム様は相変わらず神童ですね。」
「そんなことはないよ。ほら、これあげる。」
「ありがとうございます。早速部屋に飾ってきます。この額貰いますね。」
そう言って彼女は俺がワイアット兄様にもらった額を手に、部屋を出て行った。
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