19.絵画Ⅰ

 気絶から目を覚ますと、約三時間が経過していた。ぼやける視界を頭を振ってやり過ごし立ち上がる。地べたで寝転んでいたせいか、全身が固まって痛い。


 もうお昼の時間を過ぎていたので、急いで食堂へと向かう。


「お、カルムも来たね。じゃあ食べ始めようか。」


 食堂ではオーウェン兄様が俺のことを待っていた。


「お待たせしてすみません。読書に夢中になってしまって。いただきましょう。」


「大丈夫だよ、僕も体を流していたしね。何の本を読んでいたの?」


「勇者が魔物と戦うお話です。」


「ああ、あの物語か。勇者は魔物と戦う時火、水、風の三属性の『身体強化』を重ね掛けしてたって言うからね。だから受けてみたくなったのか。」


「はい、そういうことです。」


 嘘を交えながらオーウェン兄様と談笑を楽しむ。


「カルムは午後も読書?」


「いえ、少し疲れたので部屋で寝ていようと思います。」


 嘘である。


「はは。普段からは考えられないけど、まだ二歳だからね。よく寝るんだよ。」


「はい。」


 昼食を食べ終えると、オーウェン兄様は自室へ向かう。午後からは勉強の時間だ。ちなみに俺たち兄弟は、この間ワイアット兄様が五歳になったときにそれぞれの自室をもらった。夜も別々の部屋で寝ている。


 よし、俺も自分の部屋に向かおう、と見せかけて俺は父様の仕事部屋に向かう。


「サミュエルさん、居ますか?」


「はい、カルム様。どうされましたか?」


 部屋に入るとサミュエルは仕事机で書類を書いていた。


「…休憩されてますか?」


「旦那様が居られない間、不肖ながらこの私がこのマンダリン領を支えなくてはならないのです。」


「ご飯は食べてくださいね。」


「ええ。」


 俺は本題に入る。


「この間頼んでおいたものって届いてますか?」


「はい、届いてますよ。お部屋に届けさせましょうか?」


「ありがとうございます。お願いします。」


 そう言って俺は一足早く自室に戻る。


 しばらくすると、屋敷で働くメイドの一人が大きな箱を抱えてやってきた。


「ありがとう、オリヴィア。」


「いえいえ、大丈夫ですよ。」


 彼女は俺の身の回りを世話してくれているメイドだ。まだ十五歳なのにも拘らず、大人びて聡明な印象を受ける美少女だ。


「どこに置きますか?」


「机の横、そう、その辺りに置いてほしい。」


「はい。」


「ありがとう。」


 早速俺は箱の開封に取り掛かる。しかし、なぜかオリヴィアが部屋から退出しない。


「どうしたの?」


「戻ると仕事しなくちゃいけないのでここに残っています。」


「そう…。」


 彼女、実は結構サボりである。俺は前世の記憶があるため生まれてからあまり手のかからない子だったのだが、それをいいことに彼女はずっと俺の横で怠けていたのだ。


 気を取り直して開封を再開する。


「おお…。」


 箱から出てきたのは、キャンバス、パレット、イーゼル、絵の具のチューブ、筆など絵を描くのに必要な道具だった。




 




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