17.実験Ⅰ

「じゃあ行ってくるからオーウェンとワイアットは留守番頼んだぞ。」


「二人とも仲良くしてるのよ。」


「「はい。」」


 この国、ロージア王国の貴族には、子供が五歳のお誕生日を迎える年になると他の貴族にお披露目するという文化がある。王都の屋敷でパーティーを開くのだ。


 今年は我が家のワイアット兄さんも参加する。


「そんなことより鍛錬したいのに…。」


「文句言うんじゃない。お前の将来のお嫁さんが見つかるかもしれないぞ!」


「はあ…。」


 当の本人は乗り気でなさそうだ。それもそのはず、王都まで往復するだけで一か月はかかるらしい。時間の無駄使いもいいとこだ。


「荷物は持ったな。よし、では出発!!」


 父様の合図で馬車が屋敷から出ていく。


「「いってらっしゃいませ。」」


 俺たち兄弟と屋敷の使用人たちで見送った。


「カルムは一か月間何するの?」


「お兄様は何をされるのですか?」


「僕はいつも通り鍛錬と勉強かな。お父様が帰ってこられたら稽古をつけて頂く約束をしてるんだ。」


「いいですね。僕もいつも通り書庫で本を読んでいようと思っています。」


 真っ赤な嘘である。せっかく両親がいないのだから、普段はあまり出来ないことをしようと思っている。


「カルムはどんどん賢くなるな。」


「ありがとうございます。」



 お兄様と別れた後、俺はお兄様に言った通り書庫に来た。しかしただ読書をするためではない。魔法の本を読みに来たのだ。


 これまで家族の誰に聞いても、ステータスを取得するより前に訓練しても意味がないと言っていた。しかし、本当にそうなのだろうか。


 父様が以前「魔力量は血統に影響される」と言っていた。ということは魔力は授かるものではなく元々持っているものではないだろうか。


 今日はこの仮説を確かめるためにこっそり魔法の訓練をするのだ。


「よし、とりあえずこの本の一ページ目から始めよう。」


 俺は適当に選んだ『魔導書・初級』という本を開けて読み始める。


「えー、まず初めに魔力を感じる必要がある。魔力は体の細胞に含まれており、特に血液に多く溶け込んでいる、と。なるほど、魔力量が血統に影響される理由はこれだな。」


 俺は読み進めていく。


「体に流れる力を意識し…?俺は力なんて感じないぞ?おかしいな。」


 俺の仮説が間違っていたのか?


「いや、そんなはずはない。他にも方法はあるはずだ。」


 俺は考える。


「魔力を感じればいい、、、そうだ、お兄様に魔法をかけてもらおう。そうすれば俺も魔力が感じられるはずだ。」


 そう思い、俺は庭で鍛錬しているお兄様に会いに行った。


「オーウェン兄様、今よろしいですか?」


「いいよ、どうしたの?」


 ちょうど休憩中だったお兄様に頼み込む。


「本を読んでいるうちに気になることが出来たんですが…」


「うん。」


「『身体強化』とはどのような魔法なのでしょうか。」


「そんなの本に出てきたの?…まあ、説明するなら僕が使っている火属性の『身体強化』は体の代謝を上げて体力の消費と引き換えに爆発的な力を得る魔法だよ。」


「そうなのですか…。それを僕にかけて頂くことは出来ますか?どうなるのか気になって…。」


「かけて欲しいの?ううん、今はまだ僕の実力じゃ他の人にかけることは難しいんだ。かけてあげたいんだけど…。」


 この手も駄目だったか。どうしようか。


「あの、私ならかけて差し上げられますよ?」


 


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