10.長男の訓練
今朝俺が起きると、いつもは朝早くに仕事で自室にこもる父の顔が目の前にあった。
「おはようございます。お父様。」
「おはようカルム。今日も相変わらず可愛いなあお前は。」
「お父様、今日はお仕事はされないんですか?」
「ん?今日は闇の日だからな。仕事は午後からだ。」
「?闇の日って何ですか?」
「ああ、一週間が六日間あるだろ?それを一日目から順に火、水、土、風、光、闇に当てはめるんだ。今日は六日目だから闇の日ってことだな。」
そうなのか、知らなかった。この世界の一年は十二か月、一か月は五週間、一週間は六日である。というか一週間で休みが一日の半分しかないのか。領地貴族は辛いな。
「そうなんですね。ありがとうございます。」
「またひとつ物知りになったな!」
そんな話をしていると、同じ部屋で寝ていた兄二人も目を覚ました。
「「お父様おはようございます。」」
「二人ともおはよう。よく寝たか?」
「はい」
ワイアット兄様が目をこすりながら返事する。
「あの、お父様!」
「どうしたオーウェン?」
「今日午前中お休みですよね!では僕の訓練を見てください!」
長男のオーウェン兄様はもう六歳、去年ステータスを授かっている。ステータスを得てから、彼は家庭教師をつけてもらい日々訓練と勉強を続けている。俺もその家庭教師にいろいろなことを教えてもらった。
「いいね。お前が今どれだけ成長しているのか見せてもらおうじゃないか。」
ちなみに父様は若い頃から剣を嗜み、貴族家を継ぐ前は冒険者をやっていたらしい。冒険者とは、魔物を狩ったりもすれば町のどぶさらいをしたりする、何でも屋みたいな職業である。
「じゃあ三人とも顔洗って着替えておいで。さきに朝ご飯を食べちゃおう。」
「「「はい。」」」
食堂で母様も一緒に朝食を食べた後、庭で行われるオーウェンの訓練の見学に行った。
父様とオーウェン兄様は各々アップをしていた。どうやら決闘方式で行うらしい。
「本気で来るんだ、オーウェン。俺に全力を見せてみろ。」
「はい、お父様。」
「いいですか、オーウェン様…」
横でオーウェン兄様の家庭教師が何やらアドバイスを送っている。
「準備はいいか。」
しばらくたってから、父様が兄様に声をかけた。
「はい、お父様。」
二人は木剣を構える。
「よし、じゃあ来い!!」
「やあっ!!」
対決が始まった。
兄様はまず素直に父様の正面から切りかかった。六歳児にしてはかなり素早いほうだろう。正面から父様に当てようと何度も木剣を振り舞わす。
父様はそれを簡単にあしらいながら助言する。
「ただ闇雲に振り回すだけじゃ当たらないぞ!」
すると家庭教師も横から助言を飛ばす。
「オーウェン様!お教えしたことをそのままやりなされ!」
それを聞いた兄様は、落ち着いてフェイントを挟んだり巧みな足さばきで父様の周りを踊るように移動する。
「ははっ。いいぞ!!」
そう言いながら父様は軽く反撃し、兄様と距離をとる。
父様は息も切らしておらず、逆に兄様はかなり汗をかき肩で息をしている。
「でもまだ何かあるんだよな?」
父様が笑いながら兄様を挑発する。すると兄様はにやりと笑い返すと、こう唱えた。
「『身体強化』!!」
すると兄様の体が赤らみ、肌についている汗が湯気を立て始めた。
「おお、もう身体強化までつかえるのか!!」
父様は嬉しそうだ。
「では、行きます!」
「来い!」
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