幕外.アーテニア

 気に入らない人間がいた。その人間の両親は私を心から敬い感謝の言葉を日ごろから口にしていたが、その人間自身は私を敬わないどころか、私の悪口を堂々と言ってのけた。


 気に食わなかった。この男が私に跪き慈悲を願う姿を見てみたいと思った。あの男も死を実感すれば観念するだろうと思った。


 ある日、その男がまた私の悪口を言った時に、ついに神の力で罰を下してやった。人間の身の回りには放射線が溢れていて発ガン性物質もあったので、「癌が発生する確率」を上げただけで体中に癌が現われた。ついでに「癌が急発達する確率」も上げておいた。


 あとは奴が神である私に懺悔するだけだった。


 なのに、どれだけ待っても奴はに縋らなかった。それどころか病気の治療もろくにせず遊びまわっていた。


 おかしい。このままじゃ本当に死んでしまう。そうなればこの人間に頭を下げさせるどころか私が上位神に罰を与えられてしまう。


 そう思ってわざわざ奴の意識に入り込み、病気の治療を促した。


 しかし、奴はそれを断った。


 そして奴はそのまま死んだ。最後に「神に頼るな」という忌々しい遺言を遺して。


 そのせいで私は後始末に追われることになった。


「まさかこんなことになるなんて。サリー、魂の受け入れ先探して!早くしないとヘラーネ様に見つかる!」


 魂をそのまま世界のどこかに廃棄しようとも思ったけど、それはバレたら冗談じゃすまない程の大罪なのでやめておく。ちなみにサリーとは、私の部下のいわゆる天使である。


「何を隠そうとしているのですか?」


 突然そこにヘラーネ様が現れた。


「い、いや、なんでもございません。」


 彼女はいつもどこか機械的で何を考えているのかわからないので苦手だ。


「あなたのしたことはもう既に私に伝わっています。何を隠そうとしていたのですか?」


 っ!?おかしい!早すぎる!あの人間は今死んだばかりなのに!!


「そ、それは…」


「あなたがしたことは我々の規則に反することです。」


「…はい。」


「あなたの行いは日頃から目に余るものでした。今回の失態は偶然ではありません。それにあなたはそれを報告せず隠蔽しようとしました。上位管理神として、あなたにこのまま管理神を続けさせることは出来ません。」


 この立場管理神に就くのにどれだけ途方のない時間がかかったのか、それが一からやり直しと言われて、私は目の前が真っ暗になった。


「あなたを本日付で管理神の職から解任します。」


 何も言えない私の前で、ヘラーネ様は続ける。


「あの人間は、あの世界に送ることになりました。」


「…あの世界?」


「ええ。」


 まさか…


「奴一人送ったところで何か変わるとは思えませんが。」


「ええ、ですからあなたは彼の力になってあげて下さい。」


 なんですって?神界で神の仕事を一からするんじゃないの?


「な、なんで私が下界に降りて奴に協力しないといけないのですか!!」


「違います。あなたは彼に力を貸すのではなく、のですよ。」


 その瞬間、後ろから強い衝撃が襲ってきた。不意打ちだったのでまともに食らってしまったけど、これでも私は管理神まで上り詰めた身、一撃でやられはしない。


 何とか耐えて攻撃してきた相手を見ると、そこにはサリーが武器を持って立っていた。


「ど、どうしてサリーが!?」


「ああ、やはり天使の力では一撃は無理でしたか。管理神の立場についてからも精進して下さいね。」


「はい。」


 そのやりとりを聞いて理解した。サリーは天使から管理神になるために私を売った

のだと。ヘラーネ様が全て知っていたのは彼女が情報を流していたからなのだと。


「とはいえかなり弱りましたね。彼女も管理神になってまだ日が浅かったものですから…。あとは私がやりましょう。」


 そう言ってヘラーネ様が近づいてくる。彼女とは格が違う。逃げられない。


「それではアーテニア、さようなら。」


 ヘラーネ様に攻撃され、さらに体を変質させられる感覚が走る。


 かすかに微笑むヘラーネ様と笑いを押し殺すサリーを見ながら、私の意識は途絶えた。


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神は下界に干渉するには不自由がありますが、神界ではある程度なんでも出来ます。

あと天使と神にそこまで違いはなく、ただ位と力に差があるくらいです。

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