8.神界

「橘椿さん、この度は申し訳ございませんでした。」


 気が付くと、俺は真っ白な部屋に移動していた。目の前には頭を下げる女性がいる。


「ここはどこだ?また夢の中か?」


「いいえ、違います。あなたは亡くなられました。特別な事例なので、ここ、神界にお呼びしました。」


 顔を上げた女性が答えた。整った顔立ちの女性だ。造形美というか、無機質な美しさを感じる。


「神界?アーテニアあのガキはここにいるのか?」


「いいえ、あの子はいません。」


「なぜだ?あいつがこの世界の管理神なんだろう?」


「そうですが、この度粗相をしたもので。」


 ああ、しっかり怒られたんだな。異動にでもなったのか?


「そうか。ところであんたは誰だ?」


「申し遅れました。私はこの辺りの世界を管轄している、上位管理神のヘラーネと申します。」


「上位?管理神の上司か?」


「はい。この度は私の監督不行き届きで、大変ご迷惑をおかけしました。申し訳ございません。」


 女性が謝罪する。抑揚がなく機械的な謝罪だ。


「もういい。それよりどうしてこんなところに呼んだんだ?」


「説明いたします。あなたは、理由はどうであれ、この世界の自然の摂理から外れてしまいました。一度外れてしまった者は、二度と戻ることが出来ないのです。つまり、、あなたは輪廻転生の輪に戻ることが出来なくなりました。」


「じゃあどうすればいいんだ?このまま消えてなくなるのか?」


「そこで、あなたには私の管轄内にある別の世界の輪廻の輪に入っていただきます。   

 規則ではあなたは魂の浄化、つまり記憶の消去をしないといけないのですが、現在管理者の不在ということで特例としてそのまま転生という形になります。」


「記憶を持ったまま若返るのか?」


 また絵を描けるかもしれないな。


「はい、そうなります。」


「了解した。他に話はあるか?」


「ありません。」


「では早速転生させてくれ。」


「分かりました。」


 彼女がそう言って俺に手をかざすと、俺の意識はどんどん薄くなっていった。


「では、幸運を祈ります。」


「幸運かどうか決めるのはあんたたち神だろう。」


「……言い忘れていましたが、今回のお詫びとして特別なものをご用意させていただきました。後ほどご確認下さい。」


「そんなものいらな…」


 言い終わる前に、俺の意識は何処かへ運ばれていった。


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