2.癌

 目が覚めると、そこには知らない天井、もとい病院の天井があった。


「お、目ぇ覚めたか。ビビったぞ。家行ったら倒れてて意識ねえんだからな。」


 ついでに隣にヒロさんもいた。


「それは悪かった。救急車を呼んだのか?」


「そうだ。まあ脈あるし焦りはしなかったけどな。根詰めて絵描いた分疲れがたまってたんだろ。」


「点滴刺さってるが。」


「栄養剤だろ。」


「そうか。ありがとな。」


「いいってことよ。それより流石に明日合コン行けねえよな…。」


「もともと行く気なかったぞ。」


「もう嫁に頭数入れといてって言っちゃったからな…。」


「おい。」


 そこで白衣を着た中年男性が俺のベッドの前に立った。


「橘椿さん、お目覚めになられましたか。」


 ヒロさんが返事する。


「おう。」


「では少しお話をよろしいですか?」


 これには俺が返事する。


「はい。」


「私は担当医の林と申します。橘さんが眠っている間にいろいろ検査を行ったのですが…。」


 そこでちらっとヒロさんのほうを見る。


「俺は外しとこうか?」


「別にいい。というか俺いろいろ検査されてたのか?」


「されてたな。」


「どれぐらい?」


「何時間もだな。」


「言えよ…。」


 検査費用のことだろう。いくらかかるんだ?


 林先生が話を再開する。


「時間があまりなかったもので簡単な検査しか行えなかったのですが…。」


 ん?何時間も検査してたんじゃないのか?


「橘さん、落ち着いて聞いてくださいね。」


 何か体に異常でもあったのだろうか。まあさっきの体中の痛みを考えればそうか。


「はい。」


「橘さんの体に、癌が見つかりました。」


 やっぱり。


「はあ...。」


「まじかよ…。」


 項垂れる俺とヒロさん。


「体のどこにですか?」


「橘さん、落ち着いて聞いてくださいね。」


 林先生が念を押す。まだ何か言いづらいことでもあるんだろうか。


「はい…。」


「脳と、心臓と、胃と、大腸です。」


「はい?」


「え?…ちょっと待ってください。…心臓と、胃と、大腸と、それからどこですか?」


「脳です。正しくは脳腫瘍ですが。直近で健康診断など何らかの検査を受けたのはいつ頃ですか?」


 え?ちょっと待ってくれ。林先生が何か言っているが全く頭に入ってこない。は?何でいきなり癌が大量発生するんだ?


「俺の記憶が正しけりゃたぶんちょうど一年前くらいだな。こいつが時間がかかる作業に入るっつうから俺が半ば無理やり受けさせたんだ。」


 ヒロさんが何か言っているが全く頭に入ってこない。は?俺の体はいったいどうなっているんだ?


「その時に何か異常はありませんでしたか?」


「いや、なんにもなかった。数値が全部目安のど真ん中でつまらねえって笑ったからな。」


「そうですか…。」


「あの…」


「どうされましたか?橘さん。」


 大量の疑問が頭の中を駆け巡っているが、俺はとりあえずその中で一番大事なことを聞くことにした。


「治るんでしょうか?」


「…どの癌もかなり進行しています。完治は非常に厳しいものでしょう。でもあきらめないでください。私たち医者と一緒に」


 俺は話を遮ってこう聞いた。


「この際建前はいいです。医者としての本音を聞かせてください。余命はどのくらいですか?」


「…抗がん剤治療や延命治療を行って、、、もって半年でしょう。」


「もたなかった場合は?」


「…2か月がいいところでしょう。」


「延命治療を行わなかった場合はどのくらいですか?」


「…あまり大差ないでしょう。」


「そうですか…。必ず近いうちに俺は死ぬってことですね。」


「椿…。大丈夫か?」


「ヒロさん、、」


 俺は決意を込めてこう言った。


「合コンやろう、今すぐにでも。」

 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る