第8話

ーーどう足掻いても勝ち目が見えねぇ。


素人の俺からでも分かるほど圧倒的な存在感を放つ彼女機械女。少し振り返ったうちに目の前に立ち塞がったことからおそらく俺が手に負える相手ではない。機械兵は単純な機構だからこそ『分解』が効果を発揮したものの、彼女相手ではどうなるかわからない。


「再度警告します。6B-3-M002、至急「わ、わかった。ちょっと待ってくれ。」


敵、それもほとんど機械の相手に対して待てと思わず口に出してしまう。


「……再度警告します。」


愚かにも出したその言葉は一定の効力を持っていたようで、彼女は気持ち驚いたような表情をして警告を繰り返した。


ーーどうやら話は通じるらしい、とは言っても通じるだけで従ってはくれなさそうだが。 …会話と『分解』でどうにか隙をついて逃げ出すか?いやすぐに追いかけてくるだろう。ならいっそ全力で『分解』するにかけるか?しかし想像を固めるにも時間稼ぎが必要、できれば手で触れるための隙も必要か。とりあえず会話で時間が稼げるかどうかだな。


「…お前の名前はなんて言うんだ?」


「あなたが知る必要はありません。6B-3-M002、至急部屋に戻り、待機してください。」


反応を確かめるための軽いジャブ。それに律儀に返してくれるあたり時間稼ぎは出来そうである。


「そんなに急かさなくてもいいじゃないか、ここでお話してたって後ろの連中が追いついてくるだけ、結局俺は捕まるんだから変わらない。ならちょっとくらい付き合ってくれよ、なんだし。」


「否、あなたは同胞ではありません。6B-3-M002、部屋で待機してください。」


「ふーん、それは機心がどうたらって話か?それとも身体の話?」


探るように会話を続ける。


「あなたが知る必要はありません。5度目です、至急ーー」


「3-F001だろ、お前。」


これまでの状況を繋ぎ合わせて、1つの推論を述べる。荒唐無稽な話だが、この世界ではきっとそれがありえる。


「!」


明らかな表情の変化。機械がそれでいいのかと思わないでもないが、それは俺の推論がある程度当たっていることを意味する。


ーーおそらくは彼女、そして本来の俺は機械化人間なのだろう。いや正確には人間化機械というべきか。人間を素材とした機械、人間の柔軟さを持った機械、それを機械王は目指しているのだろう。


「心を持つ機械、そりゃあ確かにロマンがある、是非とも作りたい。んで、それに必要なのが俺のーー」


ーーそしてその人間由来の素材とは


「ーー魂だと。なるほど、俺のような第3世代が生まれたのも納得って訳だ。機械に適合できる魂、そりゃあそれ相応の素体が必要なんだろう、。」


魂、それは本当に存在する。でなきゃ


「…何故、何故そこまで答えられる。貴様はかつての私と同じ第3世代のはず。仮にレジスタンスと接触したとしても、そこまでの知識、思考力は持ちえないはず。」


明らかに先程までと様相が違う、おそらく不測の事態により『人間』の部分が大きく露出しているのだろう。


「さぁな、。案外お前にもあったかもしれないぜ?消されてしまっただけで。なぁ、お前は何のためにここにいる?」


哲学的な自己存在への問いかけ、それはおそらく最も人間らしい行動だろう。ゆえに機械と人間のツギハギである彼女は困惑する。


「消された…?何のため…?」


うわ言のように呟く彼女。隙だらけの絶好の機会。


ーー十分に時間は稼いだ、想像は既に固まっている。おそらくコアを外せば良いのだろう。


コアの場所は人間における心臓の位置だろう、おそらくプロテクトは厳重だが気合いと経験で突破する。


そうして機会をものにすべく、コアに触れるため接近する。


「私は、何故…?なんの、ため…?…何の、『全ては機械王様のために』。ーー反抗を確認、制圧します。」


そのワードを呟いた瞬間、彼女の右腕が跳ね上がり、変形した前腕部が俺の肩を撃ち抜く。


「…ッア゙ァ!」


痛い、痛い、耐えられる、でも意識が飛びそうだ。


ーしかし、


撃ち抜かれた衝撃で身体が吹き飛ばされそうなると同時に叫ぶ。


「『分ッ解』ッ!」


これまでで1番大きな倦怠感が身を襲う。視界が真っ赤に染まり、口内は鉄の味。しかし感じるのは何かを『分解』した確かな手応え。肩の痛みに耐えながら、吹き飛ばされるままに前を向き足を動かす。




「私ハ、私は?何のナンの何の何ノの」


背後から聞こえる音声、今度こそ詰み。ただでさえ不健康な身体を酷使し魔法も限界以上に使用、もはや相対する気力も残っていない。


ーー今度こそ終わりか。…もはや自分が歩いてるのかどうかすら分からない。今世ではせっかく自分が特別だと信じることが出来たのになぁ。…機械ごときに殺されるのも癪だし、最後に1発かましてやるか。…多分もう来世はなくなってしまうだろうが悔いはない。


おそらく『分解』をもう一度全力で使ってしまえば間違いなく死、魂すらも燃え尽きてしまうだろう。だが、と俺は自分の矜恃を守るべく右手を後ろに向ける。


「理ユゆゆゆゆユゆゆゆゆ」


「『分ーー』」


覚悟を決めたその瞬間、爆発音とともに辺りを砂塵が包む。


ーーあぁ、またデジャヴだ。…え?


突然の事態、降って湧いた幸運、原因はわからないが天は自分に味方したようで今度こそと逃げ出す。

意識を朦朧とさせたまま、反射的に機械兵のできるだけ少ない方へと足を向け走っていく。


ーどれだけ走ったのか、もしくは歩いたのか、とうに体力は限界を迎え気合いだけで身体を動かしている。しかしそれももう限界。


周りの景色すらわからないまま、俺は意識を失ったのだった。




ーーーー

あとがき

・感想、批評お待ちしております!ダレカノコメントがミタイナー(こんなクソ小説を読んでいるキミ!キミだよ!)

・昨日連続で投稿すると言ったな…あれは嘘だ。(難産)


主人公の性格ってこんなんだっけ…?ま、まぁほら、魂の剥離作業でぶっ壊れたってことで(多分そのうち修正します)

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