第7話
部屋を出て辺りを見渡すも何故か1機も機械兵はおらず、無駄に長い廊下が広がっている。
これ幸いと思う反面何やら不穏なものも感じる。しかし賽は投げられた、進むしかないと自分に言い聞かせ疾走する。
このまま誰もいなければいい思うも束の間、エレベーター前に2機の機械兵を見つける。
ーー2機か。…そもそもエレベーターへの乗り方を失念していた。
当たり前だが機械兵は自発的にエレベーターを使わない。つまりエレベーターにボタンなんて必要ないのだ。そのため俺が上の階へ上がろうとしてもエレベーターは動かない。
ーーならばどうにかしてエレベーターを動かさせる、例えば上階から機械兵の増援を呼ぶような事態を作ればいいわけか。
ある意味極限状態の中、自分の灰色の脳細胞がいつも以上の冴え渡りを見せる。
ーーであれば…俺が出ていくのは流石にマズイか、捕まってしまえば元も子もない。ならばーー
自分が何年も作ってきた機械兵、その構造はもはや知り尽くしている。故にとある部品を取り外すことを思い描き、手を向け呟く。
「『分解』」
2機の機械兵の内一方から小型の部品が転がり落ちる。
ぶっつけ本番ではあったが離れている物体への魔法行使は成功したようである。ただ、どうやら遠隔だと消耗があるのか先程まではなかった疲労を感じる。
取り外したのは発信機とその周辺機器である。機械兵の認識アルゴリズムは予め規定された状況に対する差異を動的に処理するものであり、また予期しない状況、物体に対して発信機を通じて応答確認することでそれが機械による産物か確かめるというものである。
つまり、発信機を無くした機械兵がどうなるかというと、
「警告シマ「警告シマス、…ERROR、ERROR。全身ノ武装ヲ確認。個体ヲ判別デキマセン。侵入者トシテ仮登録完了。制圧シマス。」」
こうやって同士討ちを始める。
信号の有無によって敵味方を判別するのは敵を誤認しないという点で優れているが、発信機を取り外された場合に弱い。とはいえ発信機は内部に埋め込まれているため、取り外される時はほぼ全壊して機能を停止いるのだが。
そうこうしているうちに『分解』されていない方が増援を呼んだのか、エレベーターが開き3機ほど機械兵が出てくる。
ーーさて、ここからどうするか。
おそらく数分もしないうちに機械兵は捕縛され、連れていかれるであろう。その時に同乗して脱出する必要があるが如何せん数が多い。
同士討ちを狙っても増援の数が増えるだけだろう。
ーーいや、今エレベーターはこの階にある。つまりさらなる増援を呼ぶ際に予め乗っておけばいいのか。
そうと決まれば今いる機械兵を無力化、もしくは出し抜かねばならない。
「『分解』ッ!」
そう言って分解するのはまたもや通信機、だけでなくレンズ可動部のギヤを無理やり1つずらす。
そうするとガッ、ガッと何かが詰まったかのように見当違いの方向を向きながら回転し始める機械兵。
その隙を縫って閉まり始めるエレベーターのドアに体を入り込ませる。そして瞬時に監視カメラを分解する。
ーー思ったよりも消耗が大きい。監視カメラの分解はおそらく意味は無いからやめておいた方が良かったか。
想定以上の消耗にままならさを感じながら、どこか身を隠せる場所はないかとエレベーター内を見回す。そこで目に入る天井のハッチ。天井と言えどもエレベーター、決して登れない高さでは無く意を決して入り込む。
その瞬間動き出すエレベーター、回り続ける機械兵が今になって救援を呼んだらしい。
よりにもよって今か、と思いつつも降りることはせずエレベーター上部にしがみつく。
数秒にも満たない上昇、しかしその負荷は大きい。これまでの疲労もあったのか少しばかり意識が飛ぶ。
そして次に目を開けた時にはエレベーターがまさに下降をし始めた瞬間。内部には何機もの機械兵、目の前には閉まりきったエレベーターの外部ドア。
時間が経つほど不利になる、ならばと俺は賭けに出た。
「『分解』ッ!」
そう叫んで閉まったドアに飛びついていく。
エレベーターのドアの構造など知らない、だけどそうする他はなかった。
しかしやはり部が悪かったのかビクともしない外部ドア、エレベーターはもう深くまで行っている。
えも言われぬ脱力感が身を包むも、諦めずドアに身を当てる。すると拍子抜けするほど簡単にドアが外れ、自分の身体が外へ転がり込む。
ーー今までにない脱力感。なるほど、想像が足りなきゃ消耗が大きくなるのか。
頭が状況を冷静に判断する。そして同時に身体は出口へ走り出す。
ーーおそらく今の音を聞きつけて機械兵がやってくるはず、あとはそれを誤魔化して街に入り込めばだいぶ楽になる、はず。
「警告ーー」
「『分解』ィッ!」
先程のドアが倒れた音によって機械兵がワラワラと集まってくる。その中の出口から向かってくる機械兵に対してその足の一部に触れ『分解』する。
発信機の『分解』は効果は大きいが消耗も大きい。ならばせめて追ってくる機械兵の先頭を遅くすることで後ろを詰まらせてやる、そんな目論見は見事にハマり大幅に距離を稼ぐことに成功する。
しかし現状は未だ絶望的である。有限の体力に無限の追っ手、1度捕捉から逃れない限りいつかは追いつかれてしまう。
どうしたものかと頭を捻っても、やはりネックなのは廃棄街への距離と己の体力。頼みの綱の『分解』もあと何度使えるかわからない。そんな中さらなる絶望が俺の前に現れた。
「警告します。6B-3-M002、あなたが部屋から出ることは認められていません。至急部屋に戻り、待機してください。さもなくば制圧します。」
人間のような、機械のような風貌。俺を新たな同胞と呼んでいた彼女は、心なしか悲しみをたたえた目で無機質にそう告げた。
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一旦切ります。もしかしたら今日中にもう1話あげるかも?
・感想、批評お待ちしております!
・♡や☆をくれた人ありがとうございます!ついでに批評してください(強欲)あとレビューも()
いつも以上に表現がくどい
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