第2話(仮)
この世界に生まれて早15年、管理監視も今は慣れ、得られたものは知識と諦念。機械王による情報統制、機械による管理と監視。生まれた直後は希望に満ちていた心も1年経てば嫌でも状況を理解した。
ー己という異分子を絶対に悟られてはならない、と。
そうして己を殺し続けたおかげかそれともこの体の出自のおかげか、今のところ待遇は悪くない。
十分な食事とギリギリの睡眠、死なない程度の労働とほんの少しの自由時間。まるで前世の社畜のような生活はここでは随分と上等である。前世も今世も変わらぬ社畜、前世が社畜でなかったならばとっくのとうに己の正気は擦り切れていたに違いない。
ーーあれ、そういえば俺の前世の仕事ってなんだっけ。確か機械系だったような…えーと、確かえ、エーーー
「警告、6B-3-M002、直チニ労働ヲ再開シテクダサイ。60秒以内二再開シナイ場合、罰則ガ適用サレマス。」
ーーエンジニアだ、システムでも何でもないただのエンジニア。
昔からの機械好きが高じて手に職にしてしまった。うだつの上がらぬ生活だったけれど、休日なんてないに等しかったけれど、機械をいじることだけは楽しかった。ブラックまっしぐらな会社もそれだけで許せるような気がしていた。…結局無理が祟って死んでしまったが。
「再度警告シマス。直チニ労働ヲ再開シテクダサイ。罰則マデ、10、9ーー」
無機質な音声が密室に反響する。
「…!」
いつの間にか止まっていた自分の手をすぐに動かし始める。罰則によって懲罰房行き、果てには廃棄なぞされてはたまったものでは無い。
ーーそうなってしまった者の断末魔を、知っているから。俺はまだ死にたくない。せめて、せめてーー
相も変わらずの厳しい監視、それも己の担当労働を思えば仕方がないとも言える。
俺の担当労働は機械の組み立てである。これだけ高度な文明ではそれすら自動化されていそうなものだが、おそらく機械王とやらの方針で機械が機械を組み立てることは出来ないようなのだ。さらに言えばこの『工場』に外の監視以外の機械兵が入っているのすら見たことがない。前世の映画みたくAIが人間を支配する、となることを防いでいるのだろうか。
なんにせよ機械を触らせてもらえることは自分にとっては僥倖であった。…かといって満足しているわけではないが。
ー基盤と機体、水晶レンズと演算処理部の接続。発信機、冷却装置、音声装置全て接続済み。
ー仮起動による動作確認。オールクリア。
慣れた作業、知り尽くした構造、それでも機械には飽きない。いや、飽きてはいけない。飽きてしまったら、きっと壊れてしまうから、きっと絶望に囚われてしまうから。
「ーー600機目ノ納入ヲ確認。6B-3-M002、労働ヲ終了シ管理塔3-002番ニテ待機シテクダサイ。」
「……了解致しました。」
6B地区第3世代男性4番、俺の今世の名称。
機械と同じように疑問を持たず従順であり、機械より器用で、機械より無知で、機械より無力。
都合のいい傀儡、それが本来の俺であり、俺が演じなければならぬ役である。
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