第2話 UNIVERSE

 私は山辺くんの渾身の一枚に、せいいっぱいの詩を寄せた。

 

 文芸部と写真部の共同出展は、予想以上の盛況ぶりをみせた。詩や短歌と写真の融合は物語性を強め、よりお客さんに多くの感動をもたらしてくれるのだということがわかった。共同出展は、きっとこれからの伝統になるだろう。

 私は共同出展の見張り当番をしている間、山辺くんの写真と私の詩の共作に目をとめるお客さんを、目にする度に誇らしい気持ちでいっぱいになった。


 約束の時間に体育館へ向かった。宏介が珍しく、演奏を見に来て欲しいとお願いしてきたからだ。いつもはそんなことを言わないのに、今日はどうしたのだろうか。

 体育館に入ると、大音量に凄い盛り上がりをみせていた。普段とはまるで別世界。プログラムを見ると、宏介のバンドのひとつ手前のバンドの演奏だった。私は人波を避けるように端っこから、ちゃんと宏介の唄う姿が見えるところまで少しずつ歩を進めて、宏介がステージに立つのを待った。

 宏介のバンドが出てきた。私の知らない宏介が、私の知らない英語の唄を唄っている。私は盛り上がる歓声についてはいけなかったけれど、宏介のステージに素直に感動していた。2曲、演奏したところで少し間があった。宏介は、ステージの途中だというのに、何故かさっきより緊張しているように見えた。ひとつ、深呼吸する。

「次の曲は、俺にとって大切な、オリジナルソングです。拙いものですが、どうぞ聴いてください」

 最初の観客を煽るようなマイクパフォーマンスとは打って変わって真摯な言葉。

「”UNIVERSE”」

 ”UNIVERSE”?私が山辺くんの写真に寄せた詩のタイトルと同じ。

 イントロのアルペジオはまるで流れ星みたい。



  木漏れ日の隙間から覗く青空は

  いつも少しうつむきがちな君の心の隙間みたい

  だいたいが大概大差ない

  他愛ないことで大騒ぎする喧騒はどこ吹く風


  なんにでもしゃんとして立ち向かう君と

  なんにでも斜に構える猫背の僕


  同じ景色見られたら

  同じ気持ちじゃなくてもいい

  只の一瞬を唯一の瞬間にして重ねたい

  君と


  こっちを向いて

  腕の中へおいで

  僕をときめかせるのは

  宇宙でただひとりだけ

  怖がらないで

  腕の中へおいで

  君を羽ばたかせるのは

  宇宙でただひとりだけ


  最初で最後の賭けにでるから

  僕のためにとっておいてよ


  黄昏時にも迷わないように

  君が好きって言ってくれた

  この声で君の名前を呼ぶから

  この声でありったけを唄うから


 宏介は、私が山辺くんに寄せた詩にメロディを付けて唄ってくれた。”ありったけを唄うから”は宏介のオリジナルだ。私は山辺くんの「居ない」とタイトルを付けられた写真と、私の詩にとっておきのメロディを付けてくれた宏介を想って、涙が溢れた。

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唄う輩 山本 日向 @tomatoishi

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