第2話「異形襲来」

遠くにいた黒い何かがだんだんとミカド達のいる

校舎からも形が目視出来る位に近づいて来る。


ミカドとイチカもシツキのいる

ベランダに出て目を凝らす。


「なんだ、あの生き物……見た事ねぇーぞ……」

「どうしよう、どんどんこっちに来るよ!!」


「すまない二人とも……僕はこうなる事を知っていた」


「どういうことだよ……」


「奴らがここに来るのもすぐだ、手短に話すよ

僕の言う通りに動いてくれればとりあえずは助かる」


ミカドとイチカは落ち着いてシツキの話を聞く。


「まず、今迫ってきているのは『異形いぎょう』、

正確には異形種いぎょうしゅという生物だ」


「その異形の目的も知っているのか」

ミカドは質問する。


「すまない質問に答えている時間はない、

僕の言う事をただ聞いてくれ」


「わかった……」


「異形の出現は終末を意味する、神の仕向けた怪物が

人間をひたすらに殲滅し続ける」


「そんな……助かりようがないじゃない……」


「大丈夫、必ず助かる……まずは僕がいつも居た

屋上の小屋に行ってくれ、あそこは異形が

侵入出来ない様にしてある」


異形と呼ばれる生物が数キロ先まで近づいてきている。


「ダメだ、もう時間がないな……

二人は早く屋上の小屋に!!

出来るだけ時間を稼ぐから!!急いで!!

詳しくは小屋で話す!!」


「おい!シツキ!!危なッ――、嘘だろ……」


シツキは二人に屋上の小屋に行くことを指示して

三階のベランダから飛び降りて異形の元に

人間とは思えない速さで走って行った。


「全然意味が分らない……」

「悩んでる暇は無さそうだな、

とりあえずシツキの言う通りにしよう」


ミカドとイチカは、にわかには信じられない発言を

信じて生きる為に急いで屋上の小屋に向かう。


しかし、異形の進行はシツキの思った以上に早かった。

シツキは異形の進行を遅らせようとするが数の多さに

圧倒されてしまう。


「クソッ!!油断した!!以前よりも異形の種類が

多い――間に合ってくれ!!」



異形は校舎に到達、ミカドとイチカは逃げ惑う生徒で

中々進めず、まだ屋上には辿り着けていなかった。


「ギャァァア!!」「ウワァァァア!!!!」

「ウグゥ――助け――」

異形は生徒を次々と襲っている。

校舎の至る所から鳴り止まない悲鳴が響いている。


ミカドは他の襲われる生徒に目もくれず

イチカに手をガッチリ握り、屋上に急ぐ。


「ミカド!!みんな死んじゃうよ!!!!」

「あぁ……」

「ミカドってば!!」

イチカは殺されていく生徒を見過ごせなかった。


「イチカ……あんな怪物に俺らがなんか出来るか……?

今は、他の奴らに構ってる余裕はない……

俺らだけでも助かるんだ」


「助けられる命もあるよ……」


ミカドとイチカ足が止まる。


「わかった……だが、立ち向かおうとは思うなよ……

異形の近くにいる生徒は諦めてくれ……」

「うぅ……」


ミカドとイチカは後ろを振り返ると逃げ惑っていた筈の

生徒たちはみんな横たわり、呻き声を上げている者、

異形に食い散らかされて無残な姿になっている者、

とても現実とは思えない光景に

イチカは放心状態になってしまう。


「最悪だな……」


最悪な光景と放心して微動だにしないイチカに

ミカドは絶体絶命の窮地に立たされた。


今、ミカドの目に付く異形は二種類。

気付いていないのか、すぐに襲ってくる気配は無かった。


横たわる生徒を貪っている異形は、楕円形で平べったく、

ヒルの様な体と無数の鋭い小さな歯を生した

大きな口を持ち、申し訳程度の四肢が見える。

全長は様々だが三〇センチから最大でも一メートル程。

数は三〇匹位。


もう一種類はシカの様な頭部に細く長い前足と、

ウサギやカンガルーの様に発達した後ろ足、

それと身体より長く生えた太い尻尾……、

明らか異質な獣感を放つ異形。


獣の様な異形は上体を起こし、一見二足歩行に見えるが

細く長い前脚も地面に着けて移動している。


目は無く大きく発達した耳で周囲を感知しているのだろう

それに気付いたミカドは動かなければヒルの様な異形の

咀嚼音で気付かれてないだろうと思いジっとしている。


獣の様な異形は別の獲物を求めて去っていった。


「とりあえずは一難去ったか……」

(あの獣は大耳の異形でこいつらは

ヒルの異形とでも呼んでおこう……)


ヒルの異形は生徒をあらかた貪り尽くし

満足したのか身体をボール状にパンパンに

膨らまし転がっている。


ミカドは今の内に逃げようとするが

イチカの放心状態が治らず動くに動けずにいた。


そうこうしている間に先ほど去っていた

大耳の異形が戻ってきてしまう。


(嘘だろ……こっちに来てくれるなよ……)


ヒルの異形の咀嚼音が静まってより緊張感が増す。


「ミカド……あれ……」

意識を取り戻したイチカが喋ってしまう。


大耳の異形はイチカの声を察知して、

発達した脚で地面を一蹴りして勢いよく飛んで来た。


ミカドは咄嗟にイチカの前に立ち、死を覚悟する――

しかし大耳の異形はミカドに触れる寸前に

跳ね返り頭部から血を流し倒れている。


「ウワッ!!」

下から何かが現れ腰を抜かすミカド。


「大丈夫?間一髪ね、間に合って良かったわ」


雪ヶ原ゆきがはら先輩!!」

「イチカあなたも剣道部の一員なら気をしっかり持って

そこの帰宅部をしっかり護りなさい」


突如現れ、異形を倒した黒髪ロングが良く似合う

美少女の名は『雪ヶ原ゆきがはらレイ』

焔高校三年で剣道部の部長。


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剣道部員歴代最強と言われる彼女は異形を木刀で倒して

生きながらえていた。


「帰宅部で何が悪い!!」

「誰も帰宅部が悪いとは言っていないわ、

ロクに鍛えてなさそうなあなたよりイチカの方が

剣道部で鍛えられてるから、大事な相方を

しっかり護りなさいって言いたかっただけよ」


頼もしい生存者の雪ヶ原レイと合流したミカドとレイは

再び、屋上に向けて異形を退けながら歩みを進め始める。

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