第12話


 昼休み終了のチャイムが鳴り、午後の授業を受け、放課後も特に何もすることはなく解散といった流れになった。カイはもう少し話したそうにしていたが、幼馴染コンビは、昼休みの出来事はなんのそのといった感じで、いつも通りに戻っていた。


 チカは一旦家に帰ったが、今日もNONBIRIでアルバイトをするためにまたすぐに家を出発した。

 店に着くと相変わらず客はほとんどおらず常連さんの姿が数人と、まだまだ店には馴染みきってはいない女性の姿が一つ。花咲雛乃である。雛乃は制服姿でカウンター席に座っており、軽く手を振ってチカを迎えた。


「やっほーチカ君。今日も来ちゃった」

「……ん、いらっしゃい」


 チカは雛乃と軽く挨拶を交わし、スタッフルームへ入った。エプロンを着用し表へ戻ると、雛乃は変わらずカウンター席でくつろいでいるようであった。


「……今日も、撮影?」

「ううん、今日は放課後ヒマだったから」

「……学校、いた?」

「ふふ、いたよーもちろん」

「……見かけもしなかった」

「まあ、うちの学校広すぎるからね~」

「…………確かに」

「あ、今度チカ君のこと探しに行こっかな~」

「…じゃあ、クラス教えない……」

「いいよ。すぐに見つけちゃうからね」

「……いいけど、一日一クラスだけ…どう?」

「それ楽しそう!やってみよ!」

「………ん、気長に待ってる…」

「すぐ終わっちゃったらごめんね?」

「…うん」

 

 チカはクッキーをお皿に盛り付け、雛乃の前に置くと、「…サービス」と一言添えた。


「わっ、いいの?ありがとっ!」

「……ん」

「……んっ…んん~!!これすっごいおいしい!」

「…でしょ?」

「これ手作り?」

「……ん、ボスのね…」

「へ~すごい!」

「…ね」


 雛乃は本当に美味しそうにクッキーを頬張っていく。チカは、微笑ましそうにその様子を眺めながらグラスを磨いていく。


「……そういえば…電車できたの?今日」

「うん、今日は電車だよ。でもお家からはすごく遠いってわけでもないんだよねここ」

「……へ~」

「ちょっと時間はかかるけど、歩いても来れるかも」

「……ふーん。じゃあ、すぐだね」

「うん、わんちゃんの散歩にちょうどいいかも!」

「……犬、飼ってるんだ…」

「うん!シベリアンハスキーがいるの。結構大きいんだよ?」

「…へ~、いいね」

「チカ君は、わんちゃん好き?」

「……ん、動物は結構、好きかも…」

「お~!じゃあ今度連れてくるね?」

「……ん、楽しみにしてる…」


 二人は出会ったばかりだとは到底思えないような空気感で会話を進めていく。チカと雛乃に自覚はないが、店の隅っこで空気になっているボスや他の常連から見ても、本当に長年寄り添っているかのような、どこか当たり前を感じさせるそんな雰囲気を二人は醸し出していた。それほどまでに、二人の相性は良かった。


 その後も、二人は何気ない会話を続け、少しずつお互いの情報を交換していくのであった。そして、二人によって作られたその雰囲気は、雛乃が店を出るまでは続いた。







 




 




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