第10話
鳥の鳴き声、どこかで犬の吠える声、さざ波の音。チカが目を覚ますと、そこには海があった。まだ完全に日は昇っていないが、少し空は明るんできていた。
状況は非常に簡単である。昨日、あのまま眠ってしまったのである。
「……………ふぁ~…………」
チカはあくびをし目を擦りながら状況を確認すると、やがて堤防から軽く飛び降り、何事もなかったように帰路についた。
チカにとってこのような事態は初めてではないのである。
家に戻ると、そのまま浴室へと行きシャワーを浴びた。風呂から出ると、髪はタオルで大雑把に拭いただけでドライヤーなどはせずに、自室へと戻りベッドへとダイブした。二度寝の始まりである。幸い学校までの時間はまだまだあるが、そもそも起きる気があるのかどうかは別問題である。
夢の世界へと旅立ってしばらく経ったころ、チカは落ちるのであった。夢から床へと。目を開けると鋭い三白眼がチカを見下ろしていた。ベッドから蹴り落されたのである。
「………龍、痛い…」
「さっさと準備しやがれバカチカ」
「……………ねむい……」
「知らねぇ。おいてくぞ?」
「……………もうちょっと……」
「電車とバイク、どっちが楽だ?」
「……起きる…」
「おう、早くしろ」
「……ん」
入学二日目にしてチカの中で定番となったパーカーにブレザー姿に着替え、洗面台で顔を洗い、すぐに家を出る。家の前には龍のバイクが停まっていた。
「じゃ、行くか」
「……ふぁ…」
「ったく、気が抜ける」
二人はバイクにまたがり、学校へと出発した。しばらく走った後、信号待ちでバイクが止まったときに、チカは気づいた。
「…………あ」
「どうした?」
「……かばん…」
龍は大きくため息を吐いたが、構わずバイクを進めるのであった。
やがて学園に近づくにつれ、同じ制服を着た姿もちらほらと見受けられた。
二人はバイクなのに対し、自転車や徒歩なので一方的に通りすぎるだけであったが。そうこうしているうちに学園近くの駐車場へと到着し、そこからは徒歩で学園へと向かった。
教室に入ると、二人はそれぞれ自分の席へと向かった。数人の生徒がチカに向かい声をかけたが、龍に対しては皆、どのように接して良いかわかっていなかった。しかしそんな龍に声がかかった。
「やあ、
そこにはイケメンが立っていた。イケメンは、龍に比べると少し身長は低いものの細身でモデルのようなスタイルをしていた。サラサラの茶髪をしており、なにより彼の顔はすごく整っていた。例えるならば王子様といったところだろうか。
「てめぇか、変人」
「僕は界斗。カイって呼んでくれって昨日言ったんだけどな」
「ああそうかよ。それでカイ、なんか用かよ?」
「用がなければ話しかけちゃいけなかったか?」
「チッ、好きにしろ」
「ああ、そうさせてもらうよ。まあ用はあるんだけどな」
「……てめぇうぜぇぞ」
カイは「あはははは」と軽快に笑いながら、龍の肩を叩くのであった。
「まあそう怒らないでくれ。友達じゃないか」
「なったつもりはねぇが?」
「いいや、なったさ」
「………マジでうぜぇ」
カイには強面の龍に対する怯えなどは一切なく、ボディタッチすら気安いものであった。龍に対しそんな、何のためらいもない接し方をする人はなかなかいない。
「それで、結局何の用だよ」
「ああ、君とは友達になっただろ?」
「……ああもう、それでいい」
「だから、次は君の幼馴染と仲良くなりたいと思ってね」
「……本気だったか」
「ダメかい?」
「いいや?勝手にすりゃあいいじゃねぇか」
ずっと爽やかな笑顔を振りまいていたカイであったが、龍の返答に少し驚いた表情をした。
「…てっきり、反対されるかと思った」
「オレはあいつの親じゃねぇよ」
「ははは、だったら紹介してくれるかい?」
「ああ、いいぜ?」
そこでカイは本気で驚いた表情に変わった。対して龍はどこかからかうような顔をしていた。
「…驚いた。そこまでしてくれるのか」
「てめぇが頼んだんだろうが」
「冗談半分だったから…でも、それならお願いしようかな」
「ああ、んじゃ行くか」
心なしかウキウキした様子でチカの席へと向かう龍と、どうしてそこまでしてくれるのか理解できていないカイ。そんな強面とイケメンは、多少の視線を集めながら窓際の席へと向かった。
チカは相変わらずボケーっとした顔で窓の外を見ていたが、龍に声をかけられ、視線を教室内に戻した。
「バカチカ、ちょっといいか」
「…………ん?」
「こいつがお前と友達になりたいそうだ」
チカは、そこで初めてカイの姿を認識した。カイは一歩、歩み寄ると、爽やかな笑顔で自己紹介するのであった。
「やあ、初めましてチカ君。僕はカイ、
名前を聞いたチカは、珍しく目を大きく見開いて、カイを見つめたまましばらく固まるのであった。それを不思議そうに眺めるカイと、してやったり顔の龍。
こうしてチカとカイは初対面を果たした。
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