第4話
自身も想像だにしていなかった雛乃との衝撃的な邂逅を終え、チカはようやく本来の目的地である、御門学園高等部の大きな校門を通り抜た。
その校舎は、とにかく大きく綺麗であった。白をベースとし、所々に綺麗なガラスがコーティングされている。カクカクとした建物だけでなく、曲線でできたなんとも芸術的な建物や螺旋階段のようなものも入り交じり、校舎というよりも美術館とでもいったほうがしっくりくるであろう前衛的な巨大建造物がそこにはあった。
そんなすごい建物をしり目に、チカはまるで興味を示さずに歩みを進めた。
やがて校舎の玄関ともいえるであろう下駄箱にたどり着いた。そこは下駄箱とは思えないほどの広さで、これまた豪華な、吹き抜けになっているメインエントランスを囲むように、いたるところにロッカーのようなものが点在していた。
しかし、自分のロッカーの場所など知る由もないチカは、少しの間ボーっと突っ立ったまま考え込むと、やがてポケットからスマートフォンを取り出し、電話をかけた。相手はもちろん龍である。しかし、呼び出しが始まり2コールほど鳴ったところで、無慈悲にも電話は切られた。しばらく画面を眺めていると、トークアプリに通知が来た。龍である。
『さすがに今は出れねえよ、アホ』
『ついた』
『おせぇよバカ、今どこにいんだ?』
『ロッカー』
『とりあえず何とかして1-Aまで来い。俺とお前、同じクラスだったからよ』
『ん』
いかにもらしいやり取りを終えたチカは、ロッカーを数個開け空いていた場所に靴をしまうと、靴下のまま校舎の中に足を踏み入れた。何せカバンすら持ってきていないのだ。上履きなどあるはずもない。
チカは気にした様子もなくエントランスを進んでいく。エントランスは大理石をふんだんに使っており、本当に美術館のようであった。所々に観葉植物や、学校にあるとは思えないようなソファが置いてあったりした。
やがて左右に分かれている大きな階段までやってきたチカは、一瞬立ち止まると、すぐに左の階段を上り始めた。上り終えた先を少し歩いていくと、教室が立ち並ぶ廊下に差し掛かった。その廊下の奥のほうに、チカの目的地である1-Aの小さな看板はあった。チカは小さく「当たり」と溢すと、教室に向かい歩みを進めた。
教室に向かうまでの窓からは、かなりの広さがあるであろう芝生のグラウンドが見られた。現在グラウンドには人っ子一人いないため、よりそう感じられたのかもしれない。グラウンドはネットで囲まれており、サッカーゴールが数個と、陸上のトラックのようなものがあり、綺麗に整備されているように見えた。
やがて1-Aの前までたどり着いたチカは、一瞬のためらいもなくドアを開いた。
教室の中は広めの構造をしていた。前方にある黒板こそベーシックなものであったが、そのほかは白と黒を基調にされており、生徒が座るデスクもそのようなデザインであった。
生徒は全員が着席しており、黒板の前にはいかにもキャリアウーマンといった女性が一人立っていた。教室中の視線はチカへと集まったが、当の本人はまったく気にした様子もなく、「…ついた」と呟いた。
そこで黒板の前に立っていた女性から声がかかった。
「よう、問題児。入学式をすっぽかした気分はどうだ?」
女性は若干呆れたように、問うた。女性が期待していたのは、もちろん謝罪の言葉であり、寧ろそれ以外のことは求めていなかった。ただ一言、遅刻してすみませんと。その一言だけもらえれば、特段咎めるつもりはなかったのである。しかしチカは、雛乃との鮮烈な出会いに思いをはせてしまった。問題児だの、入学式をすっぽかしただのはわきに置き、チカは己の今の気分とだけ向き合ったのだ。その結果…
「……あーっと……うん、最高って感じ…」
予想だにしていなかった返答に、女性は目頭を軽く抑えると、大きなため息を吐いた後、チカに言うのであった。
「お前は放課後居残り、反省文だ」
「…………え…」
「当たり前だろ馬鹿者」
「……えぇ…」
こうしてチカの教室デビューは幕を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます