第2話
彼女はゆっくりと、チカに歩み寄った。
チカの、いきなり訳のわからない、理解できるはずもないそのつぶやきを、彼女は受け取ったのだ。そもそも届ける気さえなかったそのつぶやきは、なぜか彼女のもとへ届いてしまった。
「結婚?するの?私とキミが?」
まさか返ってくるとも思っていなかった返答に、チカは軽く目を見開いた。普通は否定や拒絶をしても何らおかしくもないだろうチカの言葉に、彼女は茶化すでもなく、ただただ疑問を返したのだ。
彼女はチカを見ていた。微笑みを携えながら、これでもかというほど真っすぐに、チカを見ていた。
チカは、そこで初めてしっかりと彼女の姿を見た。改めて目に映る彼女は、とにかく美しかった。チカと同じ学園の制服に身を纏っているものの、同年代とは思えぬほどに大人っぽく、整った目鼻立ちにすらっとしたスタイル。風に吹かれて少しはねている綺麗な栗色のロングヘア。そんな彼女に見とれながらもチカは、言葉を探した。
「…あ~…えーっと、んー………うん、俺とキミが」
最初はためらいつつ、目線を転がしながら言葉を探したが、結局最適な言葉は見つからず、しかし最後にははっきりと言い切った。
すると彼女はほんの少し目を見開くと同時に、笑みを深くした。
「まさかいきなりプロポーズされるとは思わなかったなぁ。」
「…ん……いや、プロポーズではないかも」
「違うの?だったらなあに?私、早とちりしちゃった?」
「……なんかわかんないけど、なんとなくそう思ったんだ」
「私と結婚するって?直感みたいなこと?」
「…うん。それだ、直感。そんな感じ」
「そんな感じか~。なんだか不思議で、面白いね」
「………うん、そうだね」
ゆらゆらと揺れる桜並木の真ん中で、ふたりは話をした。初対面とは思えないほどに楽し気に、まるで古くからの付き合いのようにゆっくりとゆったりと、言葉を交わした。そこだけはどこか時間の流れがゆっくりになっているような、そんな空間がふたりの周りには出来上がっていた。
「…ごめん、なんかいきなり変なこと言って」
「ううん、別にいいよ。確かに変だったけどね」
「うん……ごめん」
「ふふっ、あやまらないでよ。それとも、最初の言葉は取り消しとく?」
「………ん、それはいいや。まだよくわかんないけど……嘘はない」
「嘘はない、か。なんかいいね、それ」
「…そう?」
「うん」
「……そっか」
「うん、そうなの」
チカにとって、彼女との会話はとても新鮮なものであった。悪友曰くマイペース宇宙人なチカは、本人の性格や気質的にも、なかなか人との会話においてテンポが合うことがないのだ。チカ自身それを特段気にしているわけではないのだが、自覚はある。だからこそ、初対面でありながら話していて心地良い相手というのはチカにとっては珍しく、新鮮であった。
そしてもうひとつ、チカには確信に近いことがあった。それは、彼女もこの会話に心地良さを感じているんじゃないかということ。それが何故かはわからないが。
「ねぇ、一つ聞いてもいい?」
「……なに?」
彼女は楽しそうに微笑みながら聞いた。
「キミはだれ?」
聞かれたチカもまた楽しそうに微笑みを携えて答えた。
「…ん、えっと…俺は、
「私はねぇ、
ふたりは楽しそうに笑った。
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