第2話

「ここだ。ここを掘ってくれ、岩田」

 先生に続いて裏山を登ること30分。なぜか先生は少しも迷うことなく進んで行き、ある木と木の間を指差して言った。埋めた時の目印にみんなで集めて積んだ石は、10年の間になくなっていたのに、先生の言葉には少しの迷いもない。

 半信半疑のまま、男子達が交代で言われた場所を掘っていると、ガチンと高い音がした。

「あ! あった!」

 その周りの土を丁寧にどけると、古びたお菓子の缶が出てきた。苦心して缶を開ける。中の手紙は丁寧にビニール袋に包まれていて、全く汚れていなかった。

「それじゃあ、出席番号順に呼ぶから。呼ばれたら取りに来い。1番、石井。2番、岩田。3番、内田。……」

 名前を呼ばれた人は、嬉しそうに手紙を受け取って戻ってくる。

「うっちゃん。まだ開けないの?」

 うっちゃんこと内田歩ちゃんは、受け取ったばかりの手紙を胸に抱いたまま開こうとしない。見ると、男子は早速開いて見ているけれど、女子は遠慮してまだ見ていなかった。

「ナベちゃんも、もらってからにする」

 出席番号順だから、私は最後だ。うっちゃんは、いつも最後の私を気遣って待ってくれる。


「俺、何書いたか覚えてるぜ!」

 杉下くんが、受け取ったばかりの手紙を開き、たかだかと手紙を掲げて大声で言った。

「『4年4組39人の絆は、永遠に不滅です!』」

「ははっ、俺も同じこと書いてる。『4年4組39人の絆は、永遠に不滅です!』」

 笑いながら、岩田くんも手紙を見せた。俺も私もと、次々と見せられる手紙の1枚目には、同じようなことが書いていた。

『4年4組は、最高のクラス。39人はずっと仲良し』

『奇跡の4年4組。39人はずっと仲間』

『4年4組の39人は、かけがいのない仲間です』

 ああそういえば、杉下くんの音頭で1枚目の手紙は、みんなそんなことを書いたような気がする。

「39番、渡辺」

 私の名前が呼ばれた。少し緊張しながら受け取る。

 手紙を開きながらうっちゃんのところに戻る途中、再び先生の声が聞こえた。

「40番、ワタベ」

「えっ?」

 思わず後ろを振り返る。周りのみんなも、不思議そうな顔で先生を見ている。

 4年4組は39人のはず。39番の私が最後のはず。




「ワタベ……」

 どくんと胸が鳴った。その名前が、記憶のどこかに引っかかった。

「何? いいのか? …………そうか、分かった」

 先生が何か言っている。まるで、誰かと会話するように話してる。

「渡部の手紙は、俺が代わりに読もう。自分にじゃなく、10年後のみんなに宛てた手紙だそうだ」

 そう言うと、先生は最後の手紙を開いて読み始めた。

「10年後のみんなへ。わたしのことを覚えていますか? わたしは、渡部真美子です」

「ワタベマミコ?」

「誰?」

「そんな奴、4組にいたか?」

「覚えてなーい」

 あちこちから、嘲笑混じりの声が上がる。

「渡部、真美子……」

 思い出した。そうだ。4年の時、私は最後じゃなかった。私の後ろには、渡部真美子ちゃん……まみちゃんがいた!



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