第3話
「わたしは生まれつき体が弱く、1、2年の時は、学校を休んでばかりでした。だけど、3年生になる頃にはとても健康になって、あんまり休まなくなりました」
「せんせー! 4年4組の集まりで、なんで3年のやつの手紙読むんですかー?」
杉下くんが、よく通る声で笑いながら言った。みんなは、杉下くんに笑って賛同する。
そうだった。4年4組はこういうクラスだった。リーダーの杉下くんがみんなを引っ張って、みんなは杉下くんに従って……
みんなを無視して、先生は手紙を読み続ける。
「4年生は、1日も休まないことが目標でした。だけどそれは、叶いませんでした」
突然、息が苦しくなってきた。
「6月の運動会。障害物競走に出るはずだったわたしは、お腹が痛くなって出られませんでした」
どくんどくんと、心臓が激しく鳴り出す。
「お弁当の後、わたしは志村さん達に囲まれ、こんなことを言われました。『ビリになるなら出ないで』『これ以上4組の足を引っ張らないで』『あんたのせいで負けるじゃない』
志村さん達に責められているうちにすごくお腹が痛くなって、障害物競走に出られませんでした」
そうだ。4年4組は、最優秀クラス賞を狙って、放課後残って練習までしていた。塾で練習に出られない子には、自主練しておけと杉下くん達が強く言っていたのを、何度も見た。
「わたしは、ビリになっても走りたかったです。一生けん命走りたかったです」
「なによそれ、私が悪いっていうの?」
志村さんが、不機嫌そうに言った。
「私が走って1番になったから、最優秀クラスになれたんでしょ?」
そういえば、足の速い志村さんは、他の子よりずっとたくさんの競技に出ていて、不思議に思ったのを思い出した。全員で踊るダンス以外は2種目づつのはずなのに、4種目くらい出ていた気がする。
「10月の大縄跳び大会と球技大会。杉下くんは、わたしに何度も休めと言いました」
「言ってねーよ! 先生、俺そんなこと言ってねーからな!」
杉下くんが声を荒げて言った。
そうだ。杉下くんは、こういう人だった。普段の杉下くんは、明るくて楽しくて面白いけど、気に入らないことがあるとすぐ声を荒げ、暴力的になる。だから大人しい子達は、密かに彼を恐れていた。そして、私も……
「大縄跳び大会も球技大会も、わたしは出られませんでした。武内くんに突き飛ばされて、足をケガしたからです」
「ちっ、違う! 突き飛ばしたわけじゃない! ちょっと押しただけなのに、勝手に転んだんだろう!」
武内くんは、杉下くんの腰巾着の1人だ。
「そうだそうだ」
「言いがかりだ」
「タケは悪くない」
腕を組んで不敵に笑っている杉下くんの周りの男子が、武内くんをかばって声を上げる。武内くん達は、今でも杉下くんの取り巻きをしているようだ。
男子が固まって先生に反抗する姿は、10年前と全く変わっていないように見えた。
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