16 カラーギャング2

 カラーギャング達はまんまるに無視されると、ターゲットをトネに変更した。二人はトネの後ろに、一人はトネの隣に跪き、まったく表情が見えない暗黒の顔をトネの顔に触れるか触れないかの場所までぴったりと寄せた。トネは眉をひそめ、不快を表す表情を見せた。


「完璧に無視をしないとカラーギャングの思う壺だよ」


 ノンノンがお茶を啜りながら低い声でアドバイスをした。


「こいつらは構って欲しいだけなんだ」


 ノンノンのアドバイスに被せるように、カラーギャングの罵倒が始まった。


「お前は全然可愛くない!」


「お前は全然可愛くない!」


 トネは虚無の顔をして正面を見据えた。


「お前はどうしてそんなに可愛くないんだ? お前はお前でお前自身が可愛いと思ってるだろうけど、世間は全然そうは思わない! 」


「全然そうは思わない! 全然そうは思わない! 」


 後ろの二人が同調した。新しいパターンだった。ノンノンとまんまるには同じ事しか言わなかった。もしかして、パターンが尽きて簡略化されていたのかも知れない。


「胸も小さい!」


「胸も小さい!」


 トネがピクリと頬を強張らせた。


「尻はどうだ立ってみろ!」


「立ーて! 立ーて!」


 後ろのカラーギャング二人が囃し立てた。トネが持ってる茶碗と箸が小さく震え、動揺している様子が伺えたが、ノンノンのアドバイスを受けて、何とか平静を保っていた。目つきがだんだん凶悪になっていく。


「もっと可愛く振る舞わないと男と結婚ができない! 子孫繁栄しなけりゃみんなが迷惑だ!」


「みんなが迷惑だ! みんなが迷惑だ!」


「SEXしろ!」


「SEXしろ! SEXしろ!」


「SEXしろ!」


「SEXしろ!」


 トネは驚くほど丁寧に静かに茶碗を置き、すっくと立ち上がると、跪いているカラーギャングの顔面に鋭い膝をかち込んだ。


「ギャー」


「暴力反対! 暴力反対!」


 後ろのカラーギャングが抗議したが、トネはそのままうずくまっているカラーギャングに激しい足蹴を浴びせた。完璧に目が据わっていた。


「あぁ……」


 ノンノンがため息をついた。


 ガラガラ、と引き戸が開き、新たなカラーギャングが現れた。


「不潔、汚い、臭い」


 先頭のカラーギャングが指をさしながら言った。声はしっかりとした若者の男の声だ。


「不潔、汚い、臭い」


 後から入ったカラーギャング二人も続けた。トネはカラーギャングの一人を踏みつけながら、鬼の形相で新カラーギャングを睨んだ。小屋の中はカラーギャングでいっぱいになり、新しいカラーギャングはまたノンノンに対していちゃもんをつけ始めた。ノンノンは前回のようにスルーをし、まんまるも無事スルーを達成したが、トネはまたしても激しい抵抗をみせ、キツいヘッドロックをかました所で三度ガラガラ、と引き戸が開いてカラーギャングが現れた。


「不潔、汚い、臭い」


 先頭のカラーギャングが指をさしながら言った。声はしっかりとした若者の男の声だ。


「不潔、汚い、臭い」


 後から入ったカラーギャング二人も続けた。


 一人のカラーギャングを踏みつけながら、もう一人のカラーギャングにヘッドロックを掛けたまま、新たに入ってきたカラーギャングを暗黒の目つきでトネは睨みつけた。小屋はぎゅうぎゅうになり、満員電車くらいになった。真っ赤な服装に身を包んだ小さい人間がたくさんいる風景は不気味だった。


「これ以上カラーギャングが入ってきたら、小屋が爆発してしまう」


 ノンノンが弱音をはいた。


「何言ってるのよ」


 トネが低い声で言った。


「数の暴力に屈する訳にはいかないわ」


「SEXしろ! SEXしろ!」


 トネは振り返りざま、カラーギャングにエルボーを喰らわせた。


「ゴフッ」


「暴力反対! 暴力反対!」


 ガラガラ。


「不潔、汚い、臭い」


 先頭のカラーギャングが指をさしながら言った。声はしっかりとした若者の男の声だ。


「不潔、汚い、臭い」


 後から入ったカラーギャング二人も続けた。


 僕はなるべくトネの邪魔にならないよう、室内の片隅で膝を抱えて夜更け過ぎを待った。




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