15 カラーギャング1

格子窓から見える外はすっかり夜更けで、少し吹雪いていた。我々はノンノンにお茶に続いてお茶漬けとたくあんを振舞われていて、心底暖まっていた。たくあんと白菜の漬物は大きな鉢にたっぷりと盛られていて、見るからに美味そうだった。まんまるはスプーンで食べた。


「お箸も使えるけど、今日はスプーンで食べる」


とまんまるがお茶漬けを啜りながら言った。時折、パリパリとたくあんを噛む気持ちがいい音を立てた。ペンギンもたくあんを食べるのだ。トネは小さく一口たくあんを齧り、音を立てないようにお茶漬けを啜った。茶碗はざらりとした触り心地で、長年使われていたようにも思えたが、箸はつるりとした見るからに安っぽい白いプラスチック製で落ち着かなかった。


「カラーギャングって何者なの?」


「カラーギャングはカラーギャングだよ」


ノンノンが低い声で答えた。器用に箸を操ってたくあんをポリポリと齧って、続けた。


「あいつらの言う事を聞かなければ無害だよ」


「まんまるあいつら嫌い」


まんまるがくちばしをカツカツさせながら大きな声をだした。


「あいつら何でも悪口を言って指図してくるんだ。あれしろ、これしろってさ」


「よく分からないな」


僕は思わず笑いそうになった。そんなのは無視すればいいじゃないか、それに会わなければいいじゃないか。それを見透かしたようにノンノンが言った。


「もうすぐ来るよ。無視しないと、ずっとやつらの言いなりになっちゃうかもだから、気を付けて」


「来るって、何が」


「カラーギャング」


僕とトネは目を見合わせた。来る、って、ここに?

その瞬間、ガラガラと勢いよく引き戸が開き、外の吹雪と共に、本当にカラーギャングが現れた。


カラーギャングの見た目は普通の小柄な人間のようだった。赤いロングコートとつばの短い大きなハットを纏い、赤いオーバーサイズのマフラーを巻いていた。顔は黒く塗りつぶされて見えない。僕は茶碗と箸をもったまま呆気にとられて固まってしまった。こちらの世界でニンゲンの形をしたのは初めて見たし、それにカラーギャングは。狭い土間に三名ほど同じ格好をしたカラーギャングが入ってきて、しかも最後の一人は丁寧に後ろを向いて引き戸を閉めたのだ。もしかしたら女性なのかもしれないが、分厚いコートに覆われては性別も何も分からなかった。


「不潔、汚い、臭い」


先頭のカラーギャングが指をさしながら言った。声はしっかりとした若者の男の声だ。


「不潔、汚い、臭い」


後から入ったカラーギャング二人も続けた。同時に喋るので一人ひとりの声は判別し辛い。テレビで証言する関係者Aの合成音のようにも聞こえる。三人はきょろきょろと辺りを見回し、靴も脱がずに上がってきた。板張りの上で、よく磨かれた革靴が不自然なほど大きな音を立てた。そして一人がノンノンの横にしゃがみこみ、暗黒の顔のを近付けて言った。


「片付けろ」


「片付けろ、片付けろ」


見た目はまったく判別が付かないが、三人のカラーギャングの中では序列があるようだった。最初に入ってきたカラーギャングが一番先輩なのかも知れない。ノンノンはまるで何も見えないかのように悠々とお茶漬けをかき込み、もくもくと咀嚼した。


「片付けないとずっと不潔、汚い、臭い! みんなの迷惑になる! みんなの迷惑になるのは良くない! お前のせいでみんな困ってる! 早く片付けろ!」


「早く片付けろ!」


ノンノンの顔の近くでカラーギャングは大きな声を出したが、ノンノンは全然動じなかった。カラーギャングは同じ事を何度も繰り返したが、事態は一向に変わらなかった。ノンノンは目を線のようにして遠くを見ている。あまりに妙な光景だった。やがて、カラーギャングはまんまるに目を付けた。ノンノンから離れ、一人がまんまるの隣に跪き、二人が後ろに立った。まんまるは普段と同じような顔をしていたが、明らかに目が怒っていた。ぬいぐるみにも表情があるのだ。


「小さい!」


「小さい!」


カラーギャングは何かに対して罵倒しなければ気が済まない性格のようだった。


「どうしてお前はそんなに小さいんだ! 牛乳を飲め!」


「牛乳を飲め!」


後ろの二人も繰り返した。僕は思わず吹き出しそうになった。まんまるが屈辱そうにくちばしを小さくカタカタ震わせているからだ。


「お前が小さいと子供用の手袋が一つなくなる! 迷惑だ! みんな迷惑している! 謝れ! みんなに謝れ!」


「謝れ! 謝れ!」


後ろの二人も繰り返す。まんまるは悪口を言われて頭に来ているのか、白い胸がややピンク色に染まっていた。その後も何度か罵倒されたが、何とかスルーできた。カラーギャング達はつまらなさそうにまんまるから離れた。彼らが次に目を付けたのはトネだった。トネは茶碗を片手に、もう片方に箸を持ったままじっとりとした目でカラーギャング達を射抜いた。とても柄が悪い目つきで。

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