第13話 はじめてのくちづけ

 かっかと燃えるようだったアデリアナの頬の熱がようやくおさまったのは、穏やかな春風に吹かれながら回廊を抜け、王族の庭園への入り口が見えてきた頃のことだった。


 その間、アデリアナとルーファウスは何も喋っていなかった。時折通り過ぎる貴族や女官たちにじっと繋いだ手を見つめられたりしながら、ただ歩いていた。

 アデリアナの耳に聞こえるのは、さやさやとやさしい木々の葉が立てる音や小鳥の声、そして傍に控えている近衛隊長のジリアスが唇の端から漏らすたいへん憎らしい笑い声だけだった。


 つと立ち止まってアデリアナが睨むと、ジリアスはわざとらしく両手を挙げて、けれどもくく、と肩を震わせて笑うのをやめない。むっとして、アデリアナはこちらを振り返ったルーファウスを見上げる。


「噂になってるわ、きっと」


 アデリアナは精一杯の抵抗を示すように、繋いだままの手を上下に振ってほどこうとした。とはいえ、アデリアナの力では、しっかりと握られたルーファウスの手を振りほどくことは難しい。


 図書館の閲覧室には、それなりの人がいたのだ。司書たちだって、王太子がいるらしいと聞いてわざわざ覗きに来ていた。神官長のゼゼウスにも信奉者が多いので、そっと後を付いてきた人がいたのも知っている。対してアデリアナはそう目立つ娘ではないはずなのだが、あの場では確かに視線を集めてしまった。

 それに加えて、先程から寄せられては離れていった行き交う人々の視線は、さすがのアデリアナにもひしひしと感じられる強さをしていた。腕を取るのではなく、手を繋いでいるせいもあるだろう。

 たぶん、もう手遅れだろうが。いま、王城ではぜったいに、自分たちのことが噂されている。


 だが、ルーファウスは相変わらず不思議そうな顔をしている。うわさ、とその唇が小さく呟いた。もしや自分だけがおかしいのかという気持ちが芽生えて、アデリアナは困惑する。


「わ、わたしたちが仲良くしてるって……」


 なんとなく恥じらいの気持ちがあって婉曲的な言い回しをすると、ルーファウスはなあんだ、と朗らかに笑った。


「私たちが仲がいいことなんて、みんな知ってるさ」


 そうじゃない、そういうことを言いたいのではない。でもまあ、確かに、王太子殿下にわざわざ王太子殿下本人の噂をお耳に入れようとする者もいないだろうけれど。

 などとアデリアナが思っていると、ジリアスが堪えきれないといったようにひいひいと笑い出した。

 社交界の噂によれば、ジリアスはちょっと野性的な魅力のある素敵なおじさまとして淑女の憧れを集める存在のはずなのだが、アデリアナにはちっともそんなふうには思えない。

 ジリアスは、昔からアデリアナのちょっとした言動をものすごく面白がるのだ。アデリアナとしては普通なことであっても、ジリアスはそれはそれは盛大に笑う。馬鹿にされているとは思わないが、あまりにも笑いの沸点が低すぎて心配ではあった。近衛隊長なのに、と。


「ジリアス! もう、さっきからなんなの? あなた、いつもわたしの前で笑うけれど、ほかでもそうなの?」

「いえ、そんなことはないはずですがね。殿下はよい主ですが、姫様の前だとちょっとおかしくなられるのがこう、面白くてですね。いやあ、久々に見るとまた破壊力が」


 あいかわらずジリアスの説明はよく分からないわね、とアデリアナは思った。確かに先程はびっくりしたけれども、ルーファウスはべつに変ではない。たぶん、ジリアスとアデリアナは、ジェラルドとはまた違った意味で噛み合わせがわるいのだ。そうアデリアナは思っている。


 アデリアナがちらりと見ると、ルーファウスは微笑ましそうな顔をして視線を合わせてくれる。


(わたしは王太子殿下あなたの評判のことを言っているのよ)


 とは思ったが、ルーファウスに微笑まれると、何となくまあいいのかしら……という気持ちがしてくる。アデリアナは、ルーファウスの笑みに弱い。ちなみに、困った顔にも弱い。


 ひとしきり笑って満足したのか、ジリアスは近衛隊長らしく真面目な顔をしてみせた。


「では、俺はここで失礼いたします。お庭には念入りに人払いをしておりますから、静かですよ」


 行ってらっしゃいませ、と深々と腰を折ったジリアスに見送られて、ふたりは王族のためだけに整えられている庭園の門をくぐったのだった。

 


 王族の庭園は、女神とその王配の孫にあたる王がはじめに造らせたと伝わっている。

 王族と、王族が連れた者のみが足を踏み入れることを許される庭園は、建築と造園に見識が深かったという王のこだわりで知られており、庭園に招かれることは一種の特権の証として認識されている。数日後に迫った王妃殿下主催のお茶会も、ここで開かれるという話だった。

 とはいえ、王太子のご学友を兄に持ち、また、王妃殿下の親友を母に持つアデリアナにとっては、幼い頃からよく訪れていた場所だった。


 昼下がりの長閑な光が照らす庭園には、よく手入れされてつやつやと輝く緑や、株の数を絞ることで大きな蕾を開かせた花がやさしく風にそよいでいる。

 葉の苦いような青さ、幾重もの花びらに覆われた花の甘い香り。やさしい土と風のにおい。ふたりしかいない庭園は、そういった穏やかな静けさで満ちている。いまいるのとは反対には白い石造りの噴水があり、人工的に造られた池には花が浮かべられているのをアデリアナは知っている。


「……久しぶりに来たわ」


 ぽつりと呟くと、隣でルーファウスが笑った気配がした。


「小さい頃はよくここで遊んだね。塔に行った帰りとか」


 花と緑が縁取る小道を歩きながら、ふたりはいっとき、幼い頃に思いを馳せた。

 アデリアナは、図書館からずっと繋いだままの手を見つめた。あの頃は背丈が今よりも低かったし、ルーファウスの手だってこんなに大きくはなかった。ちいさな手を握り合って、幼い目にはうんと広く思えた庭園を冒険するような気持ちで走り回っていた。


「あなた、ここではちょっとやんちゃだったわ。近衛が張りついていなかったせい?」

「そうかもしれない。騎士の前にいるとき、私は王太子でいてやらねばならないから」

「でも、小さい子供だったわ。だからわたし、あなたの王子様面をくずしてみたかったの」

「あなたは昔からそうだったね。私よりも私の心にやさしい」


 繋いだ手を引かれるようにして、アデリアナはルーファウスの顔を振り仰ぐ。

 まばゆい紫の瞳が、春の光を吸い込んだようにきらきらとアデリアナを見ていた。

 その端正な顔も、近衛騎士たちに鍛えられているという身体も、いまやすっかり幼さを脱ぎ捨てて立派な大人のかたちをしている。ふっくりと軟らかい頬の名残なんて、もうどこにもない。でも、そのやさしい笑みは昔から変わらない。思わず目を奪われてしまう瞳の鮮やかさも。

 握られた手の指を、指の腹でそっとなぞられる。好きだよと囁かれたような気がしてどきりとしたけれど、それはアデリアナの気のせいだった。見つめていたから、ルーファウスの唇はやわらかに結ばれたままだと知っていた。


「おいで、ちょっと休もう。喉が渇いただろう?」


 そう言ってルーファウスが足を進めたのは、鳥籠を模した四阿あずまやだった。

 そこは、女神の王配候補であったと伝わる五人目の若君が遺した詩から形を取ったと伝わっている。白く塗られた四阿には扉のような形の入り口が設けられており、天井はあるが壁はない。庭園を眺めながらお喋りを交わすためだけの場所だ。


 四阿に近づくと、女官が立っていた。ルーファウスが礼を告げたのに、静かに目礼して立ち去っていく。あらかじめお茶の用意を頼んでいたらしい。四阿の中央に据えられた円い小机には、お茶請けとして冷やした紅茶と小さく切られた果実が並べられていた。

 ふたりは、作り付けになっている椅子に隣り合って腰かける。繋がれていた手が離れて、アデリアナは少しだけほっとして、少しだけさみしい気持ちになった。

 王城の女官が淹れたのだから当然のことかもしれないが、よく冷やされていた紅茶は渋みもなく、あえかに花の香りがして爽やかに喉を通る。

 屋根のある四阿の中にいると、春のやわらかい影に包まれているようで心地よかった。


「ねえ、聞かせて。ほかの皆さまとは、どんなお話をしているの?」


 ひと息ついたアデリアナがそう訊ねたことには、もちろん昼食のときの会話が影響している。

 そうだなとルーファウスは言って、小皿に盛られた果実を見た。食べたいのかしらと思ったアデリアナが小皿を寄せると、ルーファウスは添えられていた金のピックフォークでシェリカの実を刺して口に入れる。


「イゼットとは、あなたと私が学舎のベンチで眠っていたときの話をしたな。彼女にとって、何だか思い出深い出来事だったようだよ。あとは、あなたたちみんなで図書館に行った話もしてくれた。それで、勉学のおさらいがしたくなったからとおすすめの本を訊かれたよ。さっそく借りて読んだと言っていた」

「わたしにも、おさらいがしたいって言ってたわ。何を薦めたの?」

「最近出た数式についての本。彼女、数学の成績が良くてね。ギージス先生のお気に入りだった」


 へえ、とアデリアナは頷いた。

 ギージスは、アデリアナも教わった学舎でも古株の数学教師だ。いかにも堅物そうな見た目の教師で、幼いルーファウスに数学を手ほどきしていたこともある。

 ちなみに、ときどき一緒に授業を受けていたアデリアナが「白いお髭のお爺さん」と言ってしまったことをしっかり覚えていて、学舎で顔を合わせたときに意味ありげに髭を弄られた。一見堅物そうだが、茶目っ気のある教師なのだった。


「ガートルードは……本当に熱心だね。恩寵のせいもあるんだろうけれど、いつも刺繍と女神の話を聞かせてくれる。あなたがシシリア嬢の写本のことを教えてからは、空いている時間は閲覧室か自室で針を手にしていると言っていたよ。夜になると、女官に強制的に寝室へ連れて行かれると言って笑っていたけれど」

「そんな方だから、あなたの飾り帯でわたしが預かっていた栄誉をお渡しすることにしたのよ。ガートルード様の刺繍、うかつに褒めることが憚られるほどの出来なのよ。ほんとうにお好きなんだわってわかるの。……ねえ、おいしい?」


 アデリアナが訊ねると、ルーファウスは微笑んだ。


「うん。たぶん、城の温室で育てたものだ。シェリカの温室栽培は少し前までうまくいっていなかったんだけど、この時期だと自然のものよりも甘みが強く出ている。随分苦労していたようだから、あとで感想を言いに行くよ。……まあ、研究主任が実の生るたびに私のところに持ってくるものだから、何回か試食してはいるんだけどね」


 そう言って、ルーファウスは何かを思い出したように笑った。


「ガートルードは、ちょっとあなたに似ている。彼女は刺繍のことを話すとき目がきらきらするんだけど、本の話をしているときのあなたと一緒だなといつも思う」

「だって、好きなんだもの。そういうものよ。……ん、」


 シェリカをさしだされて、アデリアナは唇を開いた。

 たぶん、アデリアナに合わせてのことだろう。小さく切られたシェリカは、その大きさでもわかるほどみずみずしく甘い。つやつやとした橙色の皮が特徴的なシェリカの旬は夏だが、暑い季節に食べたときのような心地よい酸味としっかりとした甘さが口の中で広がる。自然と、笑みがこぼれた。


「おいしいわね」

「うん。もうすぐチェリスカは旬が終わるな。今年はチェリスカが豊作で、ジャンもよく使うんだ」

「今日のお昼にもゼリーが出たわ」


 そう言うと、今度は丁寧に種を抜かれたチェリスカがさしだされる。

 さしだされるままに口を開き、アデリアナはもぐもぐと甘酸っぱい果実を咀嚼する。


 ルーファウスは昔から、なぜかアデリアナにものを食べさせるのが好きだった。慎み的にはどうなのかしらと思いはするのだが、とくに本を読みながらお菓子をさしだされる心地よさは一度知ってしまうと忘れられないもので。まあいいのかしら……? と思いながら、アデリアナは親鳥が雛に与えるように食べ物をさしだされるのを受け入れているのだった。


「ティレシアはよく躾けられた良家のお嬢さんなんだけど、負けん気が強いところが面白いなと思う。彼女とはいつも花合わせをするんだけど、なかなか強いよ。自分のことをひねくれてると思っているようだけど、戦い方はとてもまっすぐでね。あんまり真剣なものだから、つい手加減するのを忘れて負かしてしまう」

「そういえば、ティレシア様に花合わせが強くなれるような本はないかって訊かれたから、駒の並びを解いて女神の花を取り出す問題集があるでしょう、あれをお薦めしておいたわ。ほら、あなたの贔屓の指し手の」

「……私もおさらいしておくとしよう。ティレシアとユイシスは、本当に仲がいいんだね。二人は互いのことを私に訊くよ。ユイシスは父君も二人の兄君も王立騎士団に所属しているから、稽古を見たいと言っていた。だから散歩の予定を変更して、騎士団の視察をすることにしたんだ」


 くすくすと笑うアデリアナの口に、ルーファウスはまた一切れ、今度はシェリカの兄妹種であるリリカを運んだ。


「仲が良くていいなって思っているのよ。視察、楽しかった?」

「うん。ユイシスは元気な人だね。馬場が見たいと言うからその足で行ったんだけど、ドレスで厩舎に入っていこうとするものだから、周りが慌てていた。面白かったからそのまま行かせたけど。彼女とのピクニックは、たぶん馬を指定されるな。黒毛の馬が好きらしくて、私のアシュリーが狙われている」

「アシュリーが? でも、彼女はあなた以外乗せたがらないでしょ」


 アデリアナはルーファウスの愛馬を思い浮かべる。しっとりとした黒毛と青い目を持つアシュリーは、すこぶる矜持が高くてルーファウスの言うことしか聞かないのだ。ルーファウスも三日に一度は自らアシュリーの世話をしているというが、厩舎長もずいぶん手を焼いていると聞く。

 アデリアナがアシュリーに会って挨拶すると、いつもルーファウスが望むから仕方なくといった風情で、しぶしぶ鼻先を手のひらに押し当ててもらえるのだが……それでも馬丁には尊敬の眼差しを向けられるのだから、日頃の様子が忍ばれる。


「挑戦してみたいらしい。丁重にお断りしたけどね、私もいやだから」

「馬が好きなのにあなたとアシュリーの間に割り込もうとするなんて、面白い方ね。わたしだってそんなことしないのに」


 口を曲げてみせるルーファウスに、アデリアナは思わず笑ってしまった。

 ルーファウスは、愛馬のアシュリーのことになると少々頑なになる。先王である祖父に贈られて以来、それはそれは大事にしているのだ。

 たとえば、そう。ゼゼウスの前の神官長とルーファウスは、かつて式典の際に王太子が乗る馬についてひと悶着したことがある。子供の頃から滅多なことでは不機嫌を表に出すことのなかったルーファウスが珍しく気分を損ねたことを隠しもしなかったので、アデリアナもよく覚えていた。

 前の神官長は、何かとルーファウスを白馬に乗せたがったのだ。その方が、ルーファウスの見目によく映えるからと言って。ルーファウスはアシュリーのことを馬鹿にされたと言って、随分長い間拗ねていた。その間、アデリアナは何度も遠駆けに付き合わされたのでよく覚えている。


「あなたのことは気に入っていると思うけどね。彼女、ほとんどの馬から好かれるジリアスにも挨拶すらしないから」

「そう? なら光栄だわ。彼女、気高い貴婦人みたいよね。

 ……ユイシス様は、ご自分だけ予定を変更してしまったことが恥ずかしかったのかしら。あなたからお散歩の話を訊いてほしくないみたいだったわ。訊いちゃったけど」


 ああ、とルーファウスが頷いた。得心がいったというように。


「あなたが話を聞きたがったのはそれでか。お昼かな? 私の話をしたんだろう。……私がどう言われているのかは、深くは訊かないけれど」


 詳しくは聞かないという態度のルーファウスに、アデリアナは微笑んだ。

 今度は自分がルーファウスにシェリカをさしだしながら。


「皆さま、あなたのことを悪く言ったりなんてしてないわ」


 目を伏せるようにしてシェリカを口に入れたルーファウスが、甘さを愉しむようにゆっくりと咀嚼する。紅茶に口をつけたアデリアナは、四阿を吹き抜ける風に目を細めた。


「たぶん、ユイシスがあなたに聞かれたくなかったのは、彼女があなたの話をしたからだよ」

「わたしの?」

「うん。彼女は、あなたが耳飾りを褒めてくれたと言っていた。それから、あなたがした提案についてもね。さっそく家に手紙を書いたと言っていた。きちんと話が進んでから、あなたに言いたいんだと思う」


 ああ、とアデリアナは思い出す。

 武家の出のせいか、自身も淑女としては活発なところのあるユイシスは、家族からかなり可愛がられているようだった。ただその可愛がり方は少々武張っているようで、彼女に与えられる装身具は武具をモチーフに花を合わせた大ぶりのものだったりする。

 二人でお三時をいただきながら、ユイシスはしょんぼりと「王妃殿下のお茶会に付けていけるものがない」と打ち明けてくれたのだ。家族が自分のために作ってくれた装飾品が好きだし、気に入っているのだとも。

 だからアデリアナは、この頃大ぶりのものが流行っていることだし、ドレスではなく装身具を主役にすればいいのではと提案したのだった。聞けば、それらはユイシスの家が代々抱えている、もとは武具を専門にしていた彫金師によるものだという。それに、確かに令嬢のものとしては少々珍しいがよく出来ていたし、王妃殿下の目にも適いそうな品だと思ったのだ。


「べつに、特別なことを言ったわけじゃないのよ」

「騎士向けに、恋人へのお揃いの贈り物として売り出せばいいと言ったんだって?」


 アデリアナは微笑んだ。騎士の得意とする武具と恋人の好きな花を組み合わせた装身具を売り出せば、需要が見込めそうだと思ったのだ。


「素敵じゃない? いつもは華奢な装飾品をつけている恋人が、ちょっと大ぶりで無骨な耳飾りを付けるのよ。一緒にいないときもお互いを想っているみたいに、自分が一番得意な武具と恋人の好きな花をあしらったものをね。絶対売れるわ。それに、武芸で知られたルドン侯爵家のお抱え彫金師によるものよ? 恋人からのお守りということで騎士に贈ってもいいと思うし……」


 ロマンス小説にありそうな贈り物であるし、それなら少々無骨で大ぶりなほうが「騎士からの贈り物」として分かりやすくていい。アデリアナが仕切るなら、ついでにロマンス小説の作家に依頼して本を書かせるところまでやるのだが、さすがにそこまでは言わなかった。


 それで? と言って、ルーファウスが小机に肘をついた。

 お行儀がわるいルーファウスの様子に、アデリアナは思わずにこにこしてしまう。アデリアナは、そんなふうにルーファウスの王太子らしくないさまが垣間見えると嬉しくなってしまうのだ。


「あなたは彼女たちの前で、私のことをどう話したの?」


 どうって……と、アデリアナは昼食のときと同じように戸惑った。

 その沈黙を味わう間も、ルーファウスはアデリアナの唇に果実を運んだ。唇を割って入ってくる果実は甘くて、よくよく冷やされてはいたけれど、そろそろ温くなってきている。甘い果汁が喉をすべり落ちていくのを感じながら、アデリアナは眉を下げる。


「たいしたことは話していないわ。皆さま、ほかの方のことをあなたに訊ねたりするのね? そのことにちょっと驚いたこともあって」

「あなたはほとんど訊かないね。でも、彼女たちはみんなあなたの話をしてくれるよ」

「どうして? わたし、なにか話題に上るようなことをしていたかしら」


 アデリアナがそう訊ねると、ルーファウスは微笑んだ。

 肘をついたまま、アデリアナを下から見上げるみたいに見つめる。そうすると、睫毛の繊細な動きと細められた瞳とがほのかに艶めいて見えて、アデリアナはどきりとする。


「それはね、みんな私があなたを好きだと知っているからだよ」


 え、とアデリアナは口ごもる。

 その手に握られたままだったピックフォークを、ルーファウスがそっと小皿に置かせる。そうして、ルーファウスは小机についていた肘を離した。風にそよいで揺れる髪を、梳くように撫でられる。


「……そうなの? ほんとうに?」

「うん。彼女たちの一月を貰うわけだから、私としても話さないのは不誠実だと思ってね。前にも少し話したけれど、彼女たちにはそれぞれ私個人から相応の礼をすることにしている。

 たとえば、そう。ガートルードの恩寵については、実は以前からアスコット伯爵から相談を受けていたんだ。あなたが推薦しなければ、私がゼゼウスと引き合わせようと思っていた」

「わたし……余計なことをした?」

「いいや、あなたがそうしてくれてよかったと思っている。私がお膳立てしたのなら、ガートルード嬢はただの御礼と思って、却って恐縮しただろう。彼女は自己評価が低いところがあるからね。彼女はこれまでにも、何度もあなたが刺繍の本を教えてくれたことを嬉しそうに話していたし……たぶん、あなたが推薦してくれたから、素直に受け取れたんだ。アスコット伯爵からは御礼の手紙をもらうだろうけれど、あなたの推薦だと言っておくよ。

 私からは、シシリア嬢の写本を進呈しようと思っている。いま、新しく写させているところなんだ。写本師も、彼女の熱心な様子を見ているから快く請け負ってくれた」


 心配そうな顔をしていたアデリアナは、話を聞くうちにほっと息をこぼした。その手を取って、ルーファウスは軽く握る。


「私は自分の都合で彼女たちの時間を貰うけれど、その御礼は私がきちんとするよ。だから、あなたは彼女たちには気兼ねしなくていいし、普通に付き合ってほしい。彼女たちも、それでいいと約束してくれている。責めるときは私を責めるそうだから、安心して」


 アデリアナはこくんと頷いた。責めるときというのが少し気に掛かったが、あまり深く触れないでおくことにした。明日イゼットに訊いてみようかしら、そう思う。


「わかったわ。それで皆さま、わたしにあなたのことを色々聞くのね」

「うん。私も、あなたたちが仲良くしてくれると嬉しい」


 やさしく見つめられて、アデリアナはほんの少し目を伏せた。そうしたほうが、何となくいいように思われた。ルーファウスの瞳は好きだが、この頃アデリアナはあの瞳に見つめられると、どこか落ち着かない気持ちになる。

 そうして捕まえられたままの手を見つめていると、ルーファウスはアデリアナの名前を呼んだ。どうしたのとでも言いたげに、指が手の甲を撫でる。


「あなたはどう? 花園入りは楽しい?」


 訊ねられて、アデリアナは頷いた。

 花園入りは、思っていたよりもずっと楽しい。アデリアナにも友人がいないわけではないが、こんなに長い期間生活を共にしたことはない。それに、ルーファウスとこんなに日を置かずに会うことも、この頃はそうなかった。


「わたし、皆さまのこと好きだわ。それに、王城の図書館にも通えるし……」


 そこで、アデリアナは先程、閲覧室の窓を越えさせられたことを思い出した。


「……あなたのせいで、しばらく行けないけど」


 むっと唇をとがらせると、ルーファウスが小声で笑った。そんなの、誰も気にしないよと。


「わたしは気にするの!」

「普通に行けばいいと思うけれどね。また窓を越えたくなったら、いつでも言って。迎えに行くよ」


 もうもう、とアデリアナが拗ねたように言うのを、ルーファウスは微笑ましそうに見つめる。そんなふうに見つめられても、アデリアナはまだ許せそうにない。まだ、つい今し方の出来事だ。


 ふいに、アデリアナはなぜだが、よく分からないままに囁いた。

 それは深く考えるまでもなく、すんなりと口からこぼれ出たものだった。

 きっと、ルーファウスがアデリアナに遠回しに言ったからだ。ほかの娘たちとは何でもないのだと。


「……あなたが窓から連れ出すのは、わたしだけ?」


 ルーファウスは少し驚いたように目を開いて――その反応に、アデリアナは我に返った。

 いまアデリアナが口にしたのは、二人目の若君に抱き上げられた女神が言ったとされることばだった。

 二人目の若君は女神の指に唇を押し当てて、もちろんだと答えたという。そうして、女神の長い金の髪をかきやって、今度はその花のような唇にくちづける。

 あの場面が一番はじめの花園入りを描いた物語や演劇において人気高いのは、そのせいだ。


 ――こんなの、まるで、くちづけをねだっているみたいだ。


「ちがう、ちがうの。ごめんなさい、その」


 思わず手を引こうとするが、ルーファウスの手はびくともしない。

 アデリアナが慌てていると、ぱっと離された。そう思ったら、指の間に指を絡めるようにしてふたたび握られてしまう。

 すいと近づいたルーファウスの顔は、少しだけ拗ねたような顔をしていた。


「ちがうの? 残念だな」


 そうして、ぴしりと固まったように伸びたままの指先に唇が押し当てられる。

 研究者がくちづけの懇願と呼ぶ、二人目の若君の仕種をなぞっているのだ。そんなことまで思い出してしまって、アデリアナはうろたえた。

 そんなアデリアナの顔を覗き込むように、ルーファウスの身体がもう少しだけ近づいた。

 ねえ、と囁く声が耳朶に触れたとき、アデリアナは何故だか無性にどきどきしてしまって、短く息を止めた。


「あなたにくちづけたい。嫌だと言われたらしないよ」


 ルーファウスがあのときのやり直しをしようとしていることに、アデリアナは気づいた。

 反対の手で髪をすくい取られながら、アデリアナはもう一つ、気づいてしまった。自分が、嫌と思ってはいないことに。

 そんな自分に戸惑って、アデリアナは逡巡とともに視線を彷徨わせる。

 アデリアナを、伏せた瞼の下、光に透ける睫毛の間からきららかな瞳が見ている。

 それはひどく注意深いようにも、ただひたすら甘いようにも思われた。


 ――ルーファウスが、アデリアナだけを見つめている。

 夢を見ているようなまなざしで見つめられると、胸が甘く塞がれてしまうような気持ちがした。

 いま、ルーファウスは、まるで幻や夢をなぞっているみたいにアデリアナを見ている。アデリアナのことを、何か、とてもきれいで素敵なもののように思っているかのように。

 その瞳に見つめられると、それだけでアデリアナは自分が何かとくべつ素敵なものになったような気がしてしまう。そんなこと、あるはずがないのに。


 でも。アデリアナは願うように思った。

 もっと、見て。その瞳で、もっとわたしを見てほしい。いろんなことがどうでもよくなってしまうくらいに。


 アデリアナが黙ったままでいるので、ルーファウスは空いているほうの手のひらで、ちいさな頬を覆うように包んだ。あたたかさに、アデリアナはほうっと息をつく。手のひらがやさしくすべらされて、細い首筋に落ちる。顎を上向けられるようにされると、いつかのように吐息が触れるのを感じた。


 アデリアナは思い出す。ルーファウスが疲れていたあの日も、そうだった。

 あのとき、自然と顔が近づいて、アデリアナの瞼はくちづけを待つように閉じたのだった。どうぞと自らさし出すようにして、待っていた。無意識に、そうされてもいいと思っていた。


(わたし、なんてずるいんだろう) 


 胸の奥が痛んで、苦しくなる。


「……いいの?」


 どうしよう。そう思いながらも、アデリアナはこれ以上ルーファウスの顔を見ていられなくて。あのときのように、そっと瞼を下ろした。返事は、できなかった。


 そっと押し当てられた唇は、柔らかかった。少し、乾いていた。

 ふんわりと瞼が開いて、やさしく離れた唇を追って視線を合わせると、アデリアナの胸はもっと苦しくなった。

 目の前の男のひとは、その瞳にアデリアナを閉じ込めて、あまりにも幸せそうに微笑んでいた。


 ――胸のずっと奥のほうで、ことりと何かが動いたのが分かった。

 何か、うんと重たい金の鎖のようなものが、ひとくさり形を喪って、さらさらと零れてゆくのが分かる。それが何なのか分からないのに、そうであることがどうしようもなく分かってしまう……。


 不思議な違和感は、けれども再び訪れた唇にやさしく封じられた。

 触れるだけのくちづけは、口に含んだ砂糖菓子が溶けていくのにも似た密やかさをしていた。そして、物語で読んでいた以上に甘やかだった。少しだけ、ふたりで分け合った果実の味がするような気がした。触れては離れ、近づいては重なるくちづけのその都度に、アデリアナは薄紙を剥ぐように自分がむきだしになっていくように思われた。


 ひとつ、くちづけられると幼い頃からずっと見とれている恩寵の光がきらきら眼裏によぎったような気がした。

 もうひとつ、くちづけが落とされると泣きそうな気持ちが胸の中に溢れてあふれて、アデリアナはもうどうしたらよいかわからなくなった。

 

 ほんとうは、どうしたらいいのかわからないわけではなかった。

 だって、もう分かってしまった。


(わたし、ルーファウスのこと……きっと、好きなんだわ)


 どうしよう、とアデリアナは思った。


 その間も、触れるだけのくちづけはやさしく訪れる。手の間に差し入れられたルーファウスの指が、たしかな力を込めて手を握りなおすのに、けれどもアデリアナの指にはうまく力が入らない。それでも、縋るように握り返すと、背中を抱き寄せられた。


 どうしよう。アデリアナはうまく働かない頭で懸命に考えようとする。

 アデリアナには、ルーファウスに秘密がある。あの、くり返し見る夢のことだ。

 いつかルーファウスとそんな会話をしたように、アデリアナは秘密を打ち明けることが必ずしも愛情に必要なことだと思っているわけではない。

 でも、あの夢はルーファウスにも関わるものだ。だからこそ、あの夢のことは絶対に言わないつもりだった。ずいぶん前に、そう決めたのだ。打ち明けなかったらぜったいに怒られると分かっていて、でも、絶対に告げるつもりはなかった。

 ……でも、彼のことを好きになったのなら、黙っていてはいけないように思われた。


(でも。わたし、ルーファウスが好き)


 でも、でも。くり返し自分にいいわけをしながら、アデリアナはようやくのことで、握られているのとは反対の手でルーファウスの胸をそっと押した。


「ルー、わたし……ん、ん」

「なに?」


 口を開こうとすると、息を、ことばを盗むようにくちづけが降る。

 それを何度かくり返されて、アデリアナはルーファウスの胸をたたいた。


「や、もう、わざとね? ルーファウス」

「ごめん、嬉しくて」


 そう囁かれ、頬とこめかみに唇が押し当てられる。

 ばか、とアデリアナは甘えるように言った。ルーファウスはぜんぜん馬鹿ではないけれど、ときどき馬鹿みたいに甘くなる。まるで彼自身でアデリアナを砂糖漬けにしようとしているかのように。


 あんまりルーファウスが優しく見つめてくるものだから。その顔が、ひどく愛しげな笑みをするものだから。秘密のことをどうするのか、まだ決められていないのに。

 だから、胸がいっぱいになってしまって。気づけば、アデリアナは思っているのとは違うことを口にしていた。


「ルーファウス。わたし、あなたのこと、好きなんだと思う……」


 それは、ひどくずるいことばだった。

 ルーファウスは何度も好きだと告げてくれているのに、アデリアナはそんな曖昧なことばしか返せないでいる。ほんとうなら、もっときちんと告げなければいけない。そう思うのに、ほろりと気持ちが溢れてこぼれてしまった。

 自分のどうしようもないずるさに泣きそうな気持ちになりながら、アデリアナはルーファウスを見つめた。

 見つめた先で、ルーファウスは静かに目を瞠った。

 ややあって、ため息がかすかに、ふるえながら漏らされて。眦から透明な涙がひとつ、宝石のようにまろびでた。


「ルーファウス、泣いてるの……?」


 指で濡れた目元に触れると、熱い涙が肌の上で溶けた。

 ルーファウスは、いつも淡く微笑んでいるような子供だった。

 その見目は誰よりも子供らしい愛らしさをしているのに、心はずっと大人だった。

 もしかすると、アデリアナがルーファウスとちゃんと喧嘩をしたことはないのかもしれない。勝手に刺繍を飾り帯に使われたときも、猛烈に怒ったのは怒ったけれど、ルーファウスがにこにこしながらごめんねと言うから許してしまった。近衛騎士たちが彼を王太子としてしか扱わないのに腹が立って勝手に泣いてしまったときも、ルーファウスは誰のことも叱らなかった。喧嘩というよりも、いつだってアデリアナが癇癪をおこすように泣いたり、怒ったりしていただけだ。

 ルーファウスがアデリアナの前で泣いたことは、一度もない。一度も、なかった。


 そんなルーファウスが、いま、はじめてアデリアナの前で泣いている。

 涙だけを流すその泣き方は、とても静かだ。

 泣き方を初めて知ったみたいに無垢で、透明な涙だった。


(……かわいいひと)


 いとおしさがこみ上げて、アデリアナはそっと濡れた頬を指でたどった。

 でも、涙はぽろぽろと流れてくる。ルーファウス自身も、戸惑っているようだった。金の睫毛を瞬かせながら、何と言っていいのかわからないみたいな顔をしている。

 アデリアナは衝動的に、あのときルーファウスにそうされたように、その頬に唇を寄せた。


 ルーファウスは、正しさの下に優しさを押し込めているようなひとだ。

 いつだってルーファウスはアデリアナに優しいけれど、いつも心を抑えようとしている。心を昂ぶらせて、恩寵の力が暴走してしまわないように気をつけているのだ。アデリアナにはちっとも効かないのに。


 でも、正しさばかりを飼っているわけでもなくて、ルーファウスはときどき、ものすごく凶悪になる。とても甘くて、わるくて、心臓にわるい。たしかに彼自身が創り上げてきた王太子らしさはないかもしれないけれど、でも、ひどく魅力的だった。


 そういうあなたを、もっと見せてほしい。アデリアナはそう思う。

 

 この腕はべつにたくさんのことができるわけではないけれど、かなしいことから守ってあげたかった。それが叶わないのなら、傍にいて抱きしめてあげたい。

 ただ、優しくしてあげたかった。それがどんなに身勝手なことだとしても、アデリアナはルーファウスにひたすら優しいものをあげたかった。

 だから、花園入りで好きなひとができたなら、応援しようと思った。誰かの隣で、安らいでほしかったから。その様子を一目見たら、もうそれでいいと思っていた。


 ――なのに、もういまは、それだけでは満足できなくなってしまっていた。


「……ありがとう、ごめん。嬉しくて、びっくりしてしまった」


 ルーファウスが繋いでいないほうの手で目元を押さえる。

 ややあって首を振り、目元を赤くしたまま、はにかむようにアデリアナを見つめた。


「ずっとあなたが、あなたの心が欲しかった。だから……」


 どちらともなく唇が重なって、また離れた。


 好きなんだと思うと告げてしまったけれど、思うということばは、たぶん必要なかった。必要ないと、アデリアナにもわかった。


(好き。ルーファウス、あなたが好き……)


 下の唇を挟むようにくちづけられたとき、きちんと伝えよう、そう思った。

 そのとき。……ふと、遠くのほうで低く叫んでいるような声を聞いた気がした。

 突如、胸が詰まるような息苦しさに襲われて、アデリアナは息を呑む。


 ――


「……っ、」

「アデリアナ?」


 ぎゅっと眉を寄せて、アデリアナは浅く息をくり返す。


 好きなのに。アデリアナは泣きそうになった。

 好きなのに、好きなはずなのに。きちんと気持ちを伝えようとすると、見えない手に口を塞がれているみたいにことばが出て来ない。想いを込めたことばが心の中に生まれるだけで、どうしてだか、ひどく胸が痛くなるのだ。それはルーファウスに触れられたときの甘酸っぱいような切ないようなそれとは違って、肌の内側からざりざりと鋭い何かで削られながら心臓を強く握り込まれるような、そんな痛みだ。


(すき、好き。……ルーファウス、あなたがすき、なのに)


 胸の内で唱えるたびに、痛みは抉るように深くなる。

 それでも、アデリアナは祈るように、縋りつくように思う。あなたがすき、と。くり返し。


 訪れる痛みを、アデリアナは震えることで耐えようとした。

 霞む視界に、ルーファウスが見えた。胸元を握りこむアデリアナを、苦しそうに見つめている。


(どうして、あなたがそんな顔をするの)


 息苦しさに、アデリアナはルーファウスの胸にうずめるように頬を寄せた。ルーファウスがアデリアナの名を呼びながら背を撫でてくれるのに、きつくきつく目を閉じる。


 頭が重く痛んで、ちかちかと光が瞬いた。喉が息苦しくて、ルーファウスに握られたままの指先が冷えていくのを遠く感じた。

 

「ルー、声が聞こえるの。私を、ひどく怒ってる……」


 ルーファウスが、何かを言っている。けれども、よく聞こえない。


 耳の奥で、唸るように。低い声が、わんわんと鳴っている。

 悲しい声だ。知っているかもしれない声だった。不思議とそう思った。


 ――


 あなたは誰?

 そう思ったところで、胸に一際強い痛みがはしる。

 その衝撃に打たれて、アデリアナは意識を失った。


 意識が途切れる一瞬前、なぜだろう、ルーファウスが謝っているような声が聞こえた。

 あなたはちっともわるくないのに。

 さっそく悲しませてしまったと、アデリアナはさみしく思った。



 ――そうして、またあの夢を見る。

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