14話 再会したエドアルド皇太子
「そろそろ、お着きになりますよ」
外交官が呼びに来て、ユーリ達は屋敷の玄関に向かう。
「なかなか、姿が見えないなぁ」
先触れの竜騎士は到着したのに、エドアルド皇太子の御一行はなかなか姿が見えない。
「おかしいですね、私はスピードをあげて先にお知らせに来ましたが、数十分後にはお着きになると思ってましたが……まさか、何か事故でも……」
自国の皇太子が到着しないので、大使館付きの竜騎士は狼狽える。
「それは無いでしょう。マゼラン卿や、ラッセル卿、パーシー卿が一緒なのだから大丈夫ですよ」
ジークフリートに言われて、そうですねと少しは安心したが、見習い竜騎士になりたての三人が問題でも起こしたのかと気を揉んでいると、待ちかねていた竜達が上空に見える。
「ああ、良かった! 少し遅れましたが、無事に着かれたみたいですね」
7頭の竜達がバサッバサッと舞い降りるのを、グレゴリウス達は出迎える。
「すみません! お待たせしたのでは無いでしょうか?」
エドアルドは、出迎えたグレゴリウスに礼儀正しく挨拶する。
「いえ、ようこそイルバニア王国へ。お疲れではありませんか?」
エドアルドを屋敷の中にと導こうとしたが、ユーリの手を取ってキスをする。
「お久しぶりですね。お元気で、お過ごしでしたか?
相変わらず、お美しいですね」
再会した途端、ユーリに猛烈アタックし始めてるエドアルドに、イルバニア王国の出迎えたメンバー全員がウンザリする。
「ようこそ、イルバニア王国へ。少し遅くなられたので、心配していましたのよ」
ユーリは、エドアルドや、ハロルド、ユリアン、ジェラルドと久しぶりだと挨拶する。
「ハロルド卿、ユリアン卿、ジェラルド卿、見習い竜騎士になられたのですね。おめでとうございます」
勿論、ハロルド達はグレゴリウスとも挨拶したが、可愛い令嬢の出迎えに喜んだのは一目瞭然だ。
「マゼラン卿、少し遅くなられましたね? 何かあったのですか?」
皇太子や若い見習い竜騎士達がワイワイ再会を喜びあっているなか、指導の竜騎士達は礼儀正しく牽制しあう。
「いや、少し勘違いしまして、お恥ずかしい次第です」
鉄仮面のミスなど珍しいと外交官達は興味を持ったが、それ以上は口に出しては聞かなかった。
ユージーンはマウリッツ公爵家の跡取りとして、一行を屋敷の中に招待したが、後ろからついて来る皇太子達から大声があがる。
「え~? 間違った屋敷に降りたのですか」
フランツはエドアルドが遅れた理由をユーリに詫びているのを聞いて驚いてしまった。
「説明されていた屋敷と、上空から見たらよく似ていたのです。降りたものの出迎えの人が居ないので、直ぐに間違えだと気づきましたけどね。間違ったなんて恥ずかしいから直ぐ飛び立ちましたが、屋敷から人が出て来たのに無礼なことをしました。どなたの屋敷だったのでしょう? 後で、謝らないといけませんね」
フランツは近くの領地の屋敷でマウリッツ公爵家とよく似た屋敷ねぇ? と考える。
「屋敷は、上空から同じように見えたのですよね? だったら、フォン・アリスト家の屋敷ですよ。うちの屋敷と同じ時期に建てられてますからね。設計者が同じだったのかも知れませんね」
え~っと、見習い竜騎士達が騒いでいるのを、大人達はやれやれと肩をすくめていた。
「あの屋敷はフォン・アリスト家の屋敷だったのか。
ひぇ~、竜騎士隊長の屋敷に間違えて降りたのに、お詫びもしないでスルーしちゃったの?」
ハロルド達がヤバいと、騒いでいる端で、ユーリはフォン・アリスト家の屋敷ってなにかな? と不思議そうな顔をしている。
「ねえ、フランツ、フォン・アリスト家は領地を持っているの? 知らなかったわ~」
ユーリが驚いているのに、グレゴリウスとフランツがビックリしてしまった。
「リューデンハイムに入学した時に言っただろ。早期引退したいけど、大食いのイリスを養わなきゃいけないから、お金貯めなきゃとか言ってた時に。フォン・フォレストと、フォン・アリストの跡取りだから、お金の心配なんかしなくて良いって」
フランツの言葉で、そういえばと思い出す。
「昔のことじゃない、忘れていたわ。それに、多分フォン・アリスト家の跡取りなんかじゃ無いわよ。そんなの一度も聞いたことないもの」
無責任なユーリの返事にグレゴリウスは呆れたが、外国の賓客の前なのでこの話は後にしようと屋敷の中に入る。
「何だか揉めてましたね。ユーリ嬢はフォン・アリスト家の跡取りなのでしょうか?」
ハロルド達は微妙な感じのユーリと、グレゴリウスとフランツの会話に気づいた。
昼食の後、少しゆっくりとしてからユングフラウに出発したが、エドアルドをカザリア王国の大使館に送った後で、ユーリ達は王宮に着いた。
「エドアルド皇太子殿下の国王陛下への挨拶には、ユーリは来なくて良いだろう。晩餐会の為に着替えないといけないからな」
ユージーンはドレスに着替えなくてはいけない負担を考えてくれた。
「そう、じゃあ家に帰るわね。私はエドアルド皇太子と晩餐会に出席するのね。お祖父様とカザリア王国の大使館に行くのかしら? それとも、直接、王宮に来れば良いの?」
ユージーンは、エドアルドがユーリを迎えに来るのは避けたかったのが、令嬢が迎えに行くのは礼儀に反していると困りながら説明する。
「カザリア王国の大使館から迎えの馬車が来るだろ。
大使夫妻とエドアルド皇太子殿下と一緒に晩餐会に来る事になる。レーデルル大使夫人が同行なさるから行きは問題は無いが、帰りはアリスト卿と一緒の方が良いだろう」
わざわざ迎えに来て貰わなくても良いのにとユーリは不満を言ったが、令嬢をエスコートするという意味は送り迎え付きだけど、外務省は送りだけは死守したのだ。無防備に寝てしまうかもしれないユーリを銀狐の大使夫妻と、エドアルドに送らせる事だけは避けたのだ。
「帰りがお祖父様と一緒なのなら、行きも一緒で良いのに、めんどくさいのね」
ぶつぶつ言いながらユーリが外務省を出て行くのを見ていたグレゴリウスは、あっしまった! と話し忘れたと叫ぶ。
「ユーリはフォン・アリスト家の跡取りだと知らないのでは?」
ユージーンとフランツは顔を見あった。
「ユーリって賢いのか馬鹿なのかわからないな。風車、算盤、布を縫う機械を発明出来るのに、なんか常識がゴッソリ抜けてるんだもの」
ユージーンは、後で説明しておきますと答えて、皆で歓迎式典に移る。
外務省を出たユーリは、昨日の午後から国務省に出ていなかったので、少しだけと言い訳しながら自分の部屋に寄る。
日曜、月曜の午前中に頑張って片付けた予算案は、他の実習生が各部署に返却してくれていたが、机の上には新たに提出された予算案が山になっている。
「晩餐会は8時からだから、定時までなら大丈夫よね」
ユーリは晩餐会の為にドレスに着替える時間だけでなく、身体を休息させようとしてくれたユージーンの厚意を無視して予算案のチェックを始めた。
「チェック済みの予算案です。まだ残ってますが、明日片づけます」
シュミット卿はエドアルド皇太子が到着した日に、出迎えに行ったユーリが見習い実習しているのに驚いた。
「今日はエドアルド皇太子殿下の歓迎の晩餐会のはずだが、ここにいて良いのか?」
ご婦人の着替えには時間がかかるものだと知っているシュミット卿の言葉に、大変だわ! とバタバタと出て行くユーリだ。
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