第57話 心の融解、少女の決意
マリーさんと別れてどのくらいの時間が経ったのでしょう。
あれからずっと答えは出ません。
タケルさんを犠牲にするのは嫌。
父さんを死体のままにしておくのも嫌。……いえ、どちらも詭弁ですね。
本当は、自分の願いを捨てられないだけ。
この広い世界を自分の足で歩いて回りたい。そんな、ちっぽけな願い。
——戦わないことで救われる命もある。
その言葉が胸を締め付けて、息が苦しくなります。
願いを取るなら、約束を犠牲に。
約束を取るなら、願いを犠牲にする覚悟をしなければなりません。
分かっている。分かっているのに、臆病な心が決意を脆くしていきます。
「……タケルさん」
呟いた瞬間、小さな揺れを感じました。
少し遅れて何かが崩れ落ちる轟音。
「嘘……」
此処からでは何が起きたのか見ることはできません。
でも、見なくても分かります。
彼が戦っているのだと。
マリーさんからは魔法具で封印されていると聞いていましたが、一体どうやって破ったのでしょう……。
いえ、そんなことより……。
「まだ、戦うんですね……」
——一緒に戦おう。一緒にあいつらぶっ飛ばそうぜ。
ベルデイレでの優しい言葉を思い出します。
あの時も……。いえ、彼は最初からずっと私との約束を守るために戦ってくれていました。
家族も、友人も失って、理不尽に不死を押し付けられても尚、彼は前に進むことを諦めた事はありません。
私も、知らないうちに彼に支えられ、彼を頼っていたんです。
あぁ、そうでした。私の願いはもう私だけの願いじゃありませんでしたね。
——これは、私達の願いです。
だから、彼が戦っているのに私が諦める訳にはいきません。
心はもう凍らない。
決意はもう揺らがない。
私達の旅は、まだ始まってすらいませんから。
「私も、戦います……!」
確かに戦わないことで救われる命もあるでしょう。
けれど、戦わなければ奪われるだけです。
傷を負って、血を流し、心削ったその先に求めた願いがあるのなら……。
私は喜んで血を流しましょう。
手始めに、彼に倣って私も脱獄と行きましょうか。
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