第15話 食後の一幕
その後、朝食を平らげた俺はクロに案内されるまま街を歩いていた。
これからギルドと呼ばれる場所に行くそうだが、それなりに歩くそうだ。
まぁ、そんなことを言われても今の俺には街並みを観察するくらいしか暇つぶしが無い。
「ほんと、デカい街だな」
何度見てもそう思う。
裏路地生活をしていた三日間ずっと徘徊していたがそれでもまだ知らない場所が殆どだ。
今はクロの家から一本隣の通りを歩いているが、この通りでも色んな店が出回っていてそれに呼応するように人通りも多かった。
油断すると迷子になりそうだ。
「此処は王都ですからね。国一番の都市ですから、商人もそれを買う人も随一です」
「王都ってことは、後ろに見えるあれが城か?」
既にはるか後方にあるデカい建物を指す。
もう何キロも離れている筈だが、街のどこに居てもあの建物は目に入る。
白い塀に囲まれ三本の巨大な塔と幾つかの小さな塔が立ち並んでいて、かなり威圧的で近寄りがたい。
なんて、そもそも城に行く機会がないか……。
「えぇ、アーベント城。此処、王都・アーベントを治める王様が住まう城です」
「へぇ……」
本当に居るんだな、王様。
「そんなことより、色々聞いてもいいですか?」
「んあ、何だよ改まって」
「今の私達に足りないのは相互理解です。だから、色々お話しましょ」
「確かに、ビジネスパートナーみたいな関係だもんな」
「ビジ……なんて言いました?」
「ん、あぁ、相棒って意味だよ」
「……ふむ、悪くない響きです」
「そうかい」
気に入ってくれたなら何よりだ。
「それで、聞きたいことってなんだ?」
「タケルさんってどこから来たんですか?」
「……お前、一番答えにくい質問を初っ端にするな」
「まぁまぁ、良いじゃないですか」
「良くねぇから言ってんだよ。はぁ……此処とは別の世界だよ」
「別の世界……」
「信じられねぇか?」
「いえ、驚きはしましたけど疑ってはないですよ」
「……お前、もう少し疑う事を覚えたほうがよくねぇか?」
「何も鵜吞みにしてる訳じゃありませんよ。魔法について知らないこと、文字が読めないこと、色々踏まえて納得してるんです」
「それならいいけど」
あと、できれば文字が読めない部分には触れないでいただきたい。
今の俺には割とデリケートな部分だから。
「それで、その世界で何してたんですか?」
「何、か。普通に仕事して、仕事して、仕事して……」
「うわぁ……」
「おいコラ引くんじゃねぇ」
自分で言ってて悲しくなったんだから、露骨に引くな。
寂しい奴とか思うんじゃない。
「家族とかはどうしてたんですか?」
「さぁな、親の顔なんて見たことねぇよ。それに、友人も死んだしな」
何の感情も込めずそう答えると、急にクロの顔が曇った。
俺からすれば大したことじゃあないが、クロからすればそうじゃあなかったらしい。
「……すみません」
「何で謝る」
「いえ、私も同じですから。そういう事を聞かれると辛かったので……」
「そうだったのか……」
「ふふ、似た者同士ですね。貴方の事を放っておけない気がするのも納得できた気がします」
どこか寂しげに笑うクロを見て、俺は少し複雑だった。
「……嫌な共通点だな」
「そうかもしれませんね。でも、この共通点があったから私達は出会えたんだと思いますよ。そうじゃなかったら、私は今ここに居なかったかもしれませんから」
「お前を助けたことを言ってんのか? 前も言ったけど、あれは……」
「どんな理由があろうと私が助かったことには変わりないんですから、もっと胸を張っていいと思いますよ?」
ふっと笑うクロに俺は息をついて肩を竦めることしかできなかった。
口でこいつに勝てる気がしない。
ほんと、そういうところも不二とそっくりだ。
「今度は俺から聞いて良いか?」
「どうぞ」
「お前、何で冒険者とかやってるんだ?」
「そんなに変ですか?」
「いや、お前の言う仕事の中にはこの前の二人組の時みてぇな状況もあり得るんだろ? わざわざそんな危険を冒さなくても、お前の魔法なら医者でもやってた方が安全なんじゃないか?」
これは率直な疑問だった。
魔法が戦闘向きじゃないなら、わざわざ戦闘が有り得る仕事をしないほうが自然だ。
なのに、こいつは自分の意志で危険な橋を渡ってる。
そこが引っかかっていた。
「そうかもしれませんね。でも、夢なんです」
「夢?」
「はい、この広い世界中を見て回るのが私の夢です。だから私は冒険者をやってるんですよ」
「……そうか」
そうですよ、と言いながらクロは笑った。
どんなことであれ、夢があるのは良いことだ。
今までそういったものを探す余裕も無かったせいか、自分の夢を堂々と語れるクロが少し羨ましい。
「タケルさんもですよ」
「あ?」
「タケルさんは私の相棒なんですから、私と一緒に世界中を見て回るんです。きっと楽しいですよ」
「……あぁ、そうだな。楽しくなりそうだ」
本当、こいつには口で勝てそうにない。
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