第二章 屍は洞穴で眠る

第13話 罪人の目覚め

 ぼんやりとした意識の中、ケイネス・ゼーラは意識を呼び起こした。

 まどろむ意識の中、彼は身の回りを一瞥する。

 闇に溶ける黒いローブ、長い間手入れをされていない好き勝手に伸びた赤い髪。

 そして、自分と一匹しかいない空間。

 部屋の天井にはランプが付いていて、部屋を照らしていた。

 けれどその光は頼りなく、心許ない。濡れた岩の壁がその明かりによってぬらりと照らされる。

 ケイネスが居るのは洞窟に出来た空洞だった。


 どちゃり。


 水分を含んだ音が空洞に鳴る。その正体を探れば、積み上げられていた死体が積まれていた場所から滑り落ちていた。

 それは人の死体だった。

 死体は胸に孔を空けていて、本来そこにあるであろう心臓は抜き取られていた。

 光を失い、何も映さなくなった目がケイネスを見る。


「……ふん」


 座っていた椅子から立ち上がり、ケイネスは死体の瞼に手を当てる。

 それは罪人の野望の犠牲となった者への鎮魂。

 しかし、それは罪の意識から行ったことではない。

 寧ろ逆。犠牲となったものへの感謝だ。

 自分の前に並べられた食材たちに手を合わせることと似ている。

 この程度の事で罪悪感に苛まれていてはこの先の未来はない。

 なぜなら、彼が手にしようとしているのは『禁忌』なのだから。


「ぐぅぅぅぅ……」


 ケイネスの隣で一匹の獣が鳴いた。

 大人の男性と大して変わらない大きさの獣は鎖で壁に繋がれていて、口と足には枷が嵌められていた。

 ケイネスは獣に近づくと首元に顔を埋めながら抱きしめた。

 まるで、家族を愛するように。


「もう少しだ……。もう少しで私の悲願は成就する……」


 狂った罪人の呟きに獣は寂しげに喉を鳴らした。

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