第12話 生き返ったら不死でした
「がっはぁ……ッ!」
心臓を握りつぶされるような感覚と共に目が覚めた。
呼吸も今の今まで止まっていたんじゃないかと思えるほど苦しい。体中が酸素を求めている。
荒くなった呼吸を落ち着けながら、体のあちこちを触ってみるがイールの腕が刺さっていた胸元に穴が開いていることもなく、怪我一つ無かった。
辺りを見ても俺が寝転がっているベッド以外には何もない部屋が広がっていた。
すぐ横にある窓からは穏やかな日の光が差し込み、外を見れば見慣れない街と多くの人々が目に入った。
どうやら、イールの言っていた通り生き返ったらしい。
「……あの野郎」
思い出すとため息が零れてしまう。
与えられた情報が多すぎて、理解がまだ追い付いていない。
誰か助けて欲しい。
その時、ドアが開く音が聞こえた。
「…………」
ドアを開けたのはクロだった。
俺を見るや否や、信じられないものを見たような顔をしている。
するといきなり俺の方へ駆け出した。
「気が付いたんですか!?」
「あ、あぁ、何とかな」
「体はどうですか、痛い所とかないですか?」
「あぁ、問題ない」
「そう、ですか……」
クロは一安心した顔で、近くの椅子に腰を落とした。
「……大丈夫か?」
「大丈夫ですよ、ちょっと安心して力が抜けただけです」
よく見ればクロの目元にはクマがあった。
あまり寝ていないのだろうか。
笑ってはいるが、その笑みにも疲れが滲み出ている。
よほど心配を掛けてしまったらしい。
「余計な心配をかけたみたいだな」
「いえ、大丈夫です。それに巻き込んだのは私ですから……」
「それこそ気にすんな。言ったろ、俺がそうしたかったからって。それに謝るのは俺の方だ」
クロに向き合って頭を下げた。
「悪かった。何度も助けてくれたのに、俺は結局お前の思いを全部踏みにじった」
イールの前ではああ言ったが、それでもやっぱりクロにはきちんと謝りたかった。
イールの思惑がどうであれ、俺の生き方が矛盾していても、こいつの思いを踏みにじるのは許されないと思ったから。
「これで許されるとは思ってない。でも、改めて謝りたいんだ。だから……ごめん」
「……ふふ」
小さな笑い声が聞こえた。
チラッと頭を上げてみると、クロが口に手を当てて笑うのを必死に堪えていた。
だが、それも限界だったらしくさっきから小さく笑いが漏れている。
「……おい」
「ふふ、ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃなくて……ふふふ」
「だったらもうちょい取り繕えよ」
「だから、違うんですよ。くふっ、」
涙が浮かぶほど笑ったクロは息を整えながら、でもやっぱり吹き出しそうになりながら絞り出すような声で、
「意外と可愛いところがあるんですね」
そんなことを口走った。
「はい?」
可愛いって、お前、男に言うセリフじゃないだろ。
しかし、俺の内心を知ってか知らずかクロは満足そうに首を縦に振っていた。
まぁ、乙女心についてはおいおい勉強していくとして。
そんなことより、聞きたいことがある。
「なぁ、クロ。俺が倒れてから何があった?」
「そうですね、ゆっくり話します」
その後、クロから俺が倒れた後の話を聞いた。
二人組を騎士団に引き渡し、心臓を貫かれた俺を必死で治そうとしたこと。
でも、傷は塞げたが一向に俺の意識が戻らなかったらしい。
後で聞いた話だが、俺が倒れてから丸一日経っているそうだ。
どおりで体が痛い訳だ。
「世話掛けたな」
「気にしないでください。意識が戻ってよかったです。私の魔法じゃ、死者を生き返らせることは出来ませんから」
「……そのことについてなんだが」
「はい?」
正直、言うべきなのかかなり悩む。
いきなり「俺、不死になったんだよね~」とか言われて信じられる訳がない。
というか俺だって信じられない。
それなら、最初から言わないほうが良いんじゃないのか……。そう思う。
でも、たとえ信じてもらえなくても、こいつにだけは嘘をつきたくなかった。
「俺が不死になったって言ったら、信じるか?」
「……どういう事ですか?」
疑問符を浮かべるクロに、俺は自分に起きたことをありのまま伝えた。
イールという神を名乗る奴に生き返らされたこと、無理やりに不死を与えられたこと、包み隠さず話した。
荒唐無稽にも聞こえる俺の話をクロは真剣に考えてくれた。
「信じますよ」
「……本気か?」
「心配しなくても疑ったりしませんよ。それに、私も疑問でしたし」
「そうなのか?」
「さっきも言いましたけど、私の魔法じゃ死者を生き返らせることは出来ません。タケルさんは心臓を貫かれてましたから、正直私の魔法だけじゃ完治は難しかったんですよ」
「……ふむ」
「傷の治りかただって変でした。地面に零れた血の一滴までもが時間が戻るみたいにタケルさんの体に戻っていたんです。だから、外部からの影響も考えてはいたんですけど……。まさか、そこまで大ごとになっているとは思いませんでした」
「まぁな。俺だって信じらんねぇよ」
半信半疑ではあるが、実際に見たクロがこう言うのだ、イールの言っていたことは事実だろう。
現にこうして生き返っているわけだしな。
それなら、不死についても同様と考えるのが自然だ。
自然ではあるが、それで腑に落ちるかと言われればそれはできない。
クロを助けて死ぬはずだったのに何とも面倒なことになってしまった。
「はぁ……めんどくせぇなぁ……」
「あの」
「ん?」
「良ければうちに来ませんか?」
「……何でそうなる」
「助けて貰ったお礼、とでも思ってください」
「だから、気にしなくていいって言ったろ。これ以上お前に迷惑はかけられん」
それに倫理的にもヤバいだろ。
これでも一応二十歳を超えているのだ。
見た感じ、クロは未成年だろうしそんな子の家に転がり込むとか傍から見れば犯罪者だ。
「別にそんなこと思いませんよ、こう見えても成人してますから」
「……お前幾つだ」
「十六ですよ?」
「バリバリ未成年じゃねぇか!」
「この国では十五を超えたら成人扱いなんです!」
マジかよ。
「それに、私にだってメリットはありますよ」
「……どんな」
「私の仕事を手伝ってもらいます」
「仕事?」
「冒険者ですよ、色んなところに行っていろんな仕事をします」
「便利屋みたいだな」
「そう捉えて貰って構いません。もちろん仕事の報酬も半分お渡ししますよ?」
「……三割でいい。二割は家賃分でどうだ?」
「あー、私が年下だからって遠慮してますね? 半分でいいですよ持ち家ですし」
「……四割、これ以上は引かない」
「もう、変なところで真面目ですね。いいでしょう、それで手を打ちましょう」
「じゃあ、少しの間だけ世話になる」
かくして、俺は冒険者を名乗る少女に拾われることになってしまった。
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