001ー2,事案 無限のBBQ
「肉肉しいな」
「十中八九、魕の仕業。BBQには困らないな」
「未だに膨張し続けてる、血溜まりもどんどん拡がってる...はぁ、この手のヤツにはもう見慣れたな」
「新人じゃないんだ。早く始めるぞ」
封鎖された山奥の小屋に2人の男。''表向き''行方不明者の捜索で調査に来た。
「これは...例のあの魕か?だったら俺らの手に負えんぞ」
「同感だ。てことで、簡易的なデータだが本部に送っておいた。簡易的でもこれなら直ぐにあの野郎の仕業ってわかるだろ」
左側(さがわ)・右寄(うき)の両名は警察内部に潜入しているエージェントの内の1組。こういう類の異常事態にいつでも出動できるように細工した部署に所属している。
「生命反応が…ざっと50は超えてるな」
「森奥の小屋にしては多いな。こんなクマでも出てきそうな場所でよ」
「ふぅん、クマか。左側、これクマかね?」
「...クマだろ、多分」
「食べようとして取り込まれたのかね」
クマの歯が全部、ヒトの指になってる。無駄にケアされている。女性のものに違いない。それが向日葵のように生えてる。
「ゴッホもゲッソリだな。よくよく見てみると根を張ってるな」
「肉だけじゃなくてちゃんと骨もあるな。骨格なんて構成できてないのに...要るのかね?てか、ゴッホは向日葵だったらなんでも描くおじさんじゃねぇよ」
「ゴッホのおじさんについては置いておいて、骨とかに関しては身体を増やすと言う命令にしか従ってないんだろ。どんな形でとかは必要ないんじゃないか?」
「まるで家畜だな。頂く奴のための都合に合わせて改良されてやがる。今回はただ、増えればいいって改良されたのか」
「その代わり捕食者に需要がある限り繁栄を約束される。今のコイツらみたいにな」
右寄が盛り上がっている肉塊を足でつつく。ぶちゅと緩く破裂する。どのようになっても生き、成長し続ける肉、それが今の彼ら。
「やっぱりな」
「どうした?」
「これ、見ろ」
観測装置の生命反応の数が増加して行っている。もちろん、このようことは有り得ない。
「肉が融合したりして魂の数の把握に手間取って数値が特定できてないのかと思ったが...違ったな。上下してるなら分かるが、増加しかしていない。それに94なんて、そもそもここら最近のこの地域の行方不明者数の17名。あまりに合わない」
「モニターを見る限りじゃ一体化はしてないな。完全に独立した状態で絡み合ってる...脳波の反応からして意識や五感はそのままっぽいな」
「生命反応が増えてるのは、まぁ恐らく行方不明に男女両方あるからして」
「受精、細胞分裂その後とんとんとんだな」
「そんな感じだろうな。どこが生殖器だかわかったものじゃないけど」
「このままじゃ永遠と増え続けるだけだな。とっととBBQにしちまった方がいいだろ」
「そうだな、珍しいものもなかったし。これまでの17件と変わらないな。恐らくあの魕の仕業だ。この後の仕事は現場処理だ」
「記憶処理もしないとなぁ」
「遺体のフェイクも用意しておかないと」
「スキンケアはクマによる獣害か?」
「我国始まって以来、最大の獣害だな」
「北海道でもないのにな」
検査用器具で肉をつつく。
「あのクソみたいなトカゲの痕跡探せって言われてもな、痕跡だらけでどれをどうすれば...」
「これまでの調査票と同じだよな、にくにくしかったですって」
「余りにも異常値が振り切り過ぎて、扉すら見つからん」
「この空間自体が扉なのかもな」
「有り得るな。念の為、チャカ抜いとくか」
カチャ。懐から銃を抜く。明らかに一般警官の持つものじゃない。1番似ているのはデザートイーグルか。しっかりサプレッサーまで付けてる。ここまで言われる巨大な拳銃をどうやって懐にいれてたのだろうか?
「撃ってみるか?1発」
「新しいことをしてみないと調査にならないし、やってみるか」
「スイーツバイキングの威力ならそれなりのレスポンスがあるだろ」
左側がセキュリティを解除する。
「やっぱり3発にするか」
「確かにそれぐらいしないといけないかもだな。撃ちすぎるなよ?システィナ達の祈りもタダじゃない」
「あれ、どれぐらい体力使うのかね」
「もういいから、とっとと撃てよ」
「はいはい、では【加護は時に刃となる】」
ギュリッンッギュリッンッギュリッンッ
3回の発砲音の後、
ぎゃああああああああああ!!!!!
と言う悲鳴の合唱が小屋全体からあがる。不協和音が耳を突く。
「相変わらず発砲音、慣れないよな」
「それより今の悲鳴で民間人にバレてないよな。サプレッサーつけた意味ないじゃないか。シマシマテープで区切ってはいるが...」
「お、レスポンスだ。肉が引き下がってたな。金属片?」
「いや、肉が金属になってるな」
「おおー立ち上がってきた、どんどん金属の部分が多くなってきたー」
出来上がったのはBBQコンロだった。長方形のタイプ。肉からできたとは思えないほどしっかりと整った形をしている。
「これで焼けってか」
「何で火つけんだよ」
上から油が滴り落ち、自然発火する。
「おーオートマチックー」
「バチ当たるぞ?」
肉がどんどん集まってくる。いや、迫ってくる。
「おいおいおい、結構ヤバめじゃねぇか?」
「確かにな...チャカの弾数って24で1リロードだっけ?」
「無造作に撃てるんじゃねぇの?」
「こんな時にふざけんなよ左側。俺たちはレベル2だぞ?その程度のレベルで箱舟に直接アクセス出来ねぇよ。今回の事件も今のところレベル2案件だしな。どちらにしろセキュリティに引っかかる」
「じゃあ、24発撃つ度に隙ができるって訳か」
「ロスタイムは一般の拳銃よりかはマシだよ」
「問題は、このチャカは点でしかダメージを与えることしかできないってところだな...」
「トラウマメーカー持ってくればよかったなぁ。あの威力の散弾さえあればどうにかなりそうなのに」
「アレ暴発するんだろ?最早威力じゃなくて危険性でレベル3に登録されてるとか、トラブルメーカーの方が正しいとか言われてるぞ。そんな危険物権限があっても使いたくねぇよ」
そう言っている間にも2人は合計69発は撃っている。流石にこの短時間での発砲の経験は少ない。腕と鼓膜の痺れがキツくなってきた。
「くそ!もうリロードかよ!」
「...余裕がなくなってきたな、この仕事やってるといつかはこうなると思ってたが......実際対面するとキツいな、これ!」
「あぁ!もう!全部ただの肉塊じゃねぇか!弱点もクソもあったもんじゃねぇよ!こんなチャカで通じるわけねぇだろ!!」
生臭く鈍い音、虚妙で短い音、そして罵倒に悲鳴。様々な音が入り乱れたその小屋は、趣味の悪いオルゴールと化していた。
ッゴゥン。空気を割る音が響いた瞬間、
ッッッッッッッッッゥゥゥゥゥゥ!!!と赤子が100人居ても出せぬであろう悲鳴があがる。
中に居た2人も肉片と共に吹き飛ぶ。意識はあるが血みどろだ。
「おー生きてら生きてら、生きてんねぇ、ははは。自分の血だか被った血だかわかんねぇな。衛生面大丈夫か?てか、良くレベル2が2人で切り抜けたなぁ。チャカだろ、それ?」
「え?」
「誰だ?...魕?」
「魕はないだろー。角ねぇじゃん。お前らと同じ穴にいるヤツだよ。エージェント空蝉だ。レベルは3」
「...」
「本当に同業者居たのか...」
「いやそれにしても凄いな、お前ら。正直生きてないと思ってぶっぱなしたから危なかったな。ははは。本部には一応生存反応はあるって話だったけど十中十二ほど死んでると思ってたからさー」
「「は?」」
「てか、とっとと出ろよ。次、撃つぞ?流石に死ぬと思うけど?」
急に現れた空蝉と名乗る白髪に革ジャンを着た巨漢は手に持っている銃をリロードする様な動作をする。例のトラウマメーカーである。2人は慌てて逃げ出した直後、トラウマメーカーをぽっかり空いた穴に放り投げた。
「え?」
「なんで?」
床に着地もとい着肉するのとほぼ同じタイミングでトラウマメーカーは焼石の如く真っ赤に染まり、爆発した。肉は飛び散り各々で燃え盛っている。
「ぼ、暴発どころじゃねーぞ!!」
「あぁ、あれは上のイメージ工作だぞ。実際はただの爆発。ちなみに6発撃てば確実に爆発して、最悪の場合は撃たなくても爆発する」
「飛んだ欠陥品を持ってきますね。そんなのもたされるんですか?レベル3って。結構、雑に扱われてるんですね」
「いや、そんな危険物扱えるからレベル3なんだよ。おい、今レベル2で良いやって顔したな?ま、お前らじゃどう足掻いてもレベル2だよ」
「なんならそれがいい」
「事後処理だけでいい」
「つまらん奴らだなぁ。出世してナンボだろ」
と言う流れがあり、今回の事件は山小屋にあるガス管の管理不足による火災と言う名目で幕を閉じた。あれほどの爆発があったにもかかわらず無傷だったバーベキューコンロは回収され本部の研究材料になるという。是非とも解析してもらいトラウマメーカーに使用して貰いたい。
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