第9話

「地球が揺れてる」9


 米軍基地を横目に進むと金網の基地内には兵隊の姿をしたゾンビ達が無数に彷徨いている。晋太郎はゆっくりと路上に停まっている車を避けながら夕焼けに照らされて目的も無く彷徨いているゾンビを眺めた。


 国道沿いのコンビニ、元コンビだった建物はガラスが割れていて商品棚がバリケードにされているが内側へ倒されていて恐らくゾンビの群れにやられたのであろうと思われる。


 不思議なのがこの都市部において野生動物をよく見るようになってきている。それは何を意味しているのかは解らないが廃墟と化した街並みに動物が居るのはほのぼのしているのと同時に再生を感じる。


 晋太郎が車から降りて道路脇でオシッコをしている。それを銃を構えながら渚が警戒していると、久し振りに聴くヘリコプターのプロペラ男が聞こえてきた。

 空を見上げていると都心方面からヘリコプターが一機こちらへ向かってきている。中型の機体なのが見て取れる位低い位置で飛行していてヘリコプターは晋太郎達に近づいて生きている。ヘリコプターは晋太郎達の真上にきてスライドドアが開いて自衛隊員が手を振っている。渚がそれに答える。すると自衛隊員がリュックを落としてきた。そしてヘリコプターは飛び去っていった。


 晋太郎はリュックを拾って車に乗り込んだ。


 リュックには缶詰とミリメシ(袋を開けると自然と温まる)が10袋と地図が入っていた。地図には避難所とヘリコプターによる救出日時が書かれていた。


 晋太郎達は一番近そうなホテルへ向かうことにした。


 政府による救出活動は継続されていたのかもしれない。ただ、このパンデミックを把握してからじゃ無いと対応策が組めなくていつもの日本の対応になっていたと言うことなのかも知れない。


 ホテルへ向かう途中に渚は少し寂しくなった。


 もしも、パンデミックが無くてあのままの日常を送っていたら晋太郎さんと会うことは会ったのかな、それとも違う人と会ってなんとなくの妥協して付き合って別れて同じ日常を繰り返していたのかな、救助されて安心して晋太郎さんとも疎遠になるのではないか何日間?何週間?何か月?経ったのか解らないけど晋太郎さんと過ごす日々の濃厚さに生きてる実感がある。死と腐敗を隣に置いた生活の中で私にとって晋太郎さんは必要不可欠になっている。こんな世界なのに晋太郎さんは冷静で笑う余裕さえ与えてくれた。でも、この地図のホテルの屋上で待つヘリコプターに乗り込んだらこの生活が終わってしまう。


 東急アウトホテル


 ホテルの前に付くと数人の自衛隊員が駐車場の死体をトラックに積み込む作業をしていた。三階の窓からはあちこちに狙撃手が顔を出していた。

 隊長がこちらへ寄ってきて敬礼をしている。

「この2年間よく生き残って下さいましたね。必要な荷物を持ってホテルへお入りください。数日後になりますが救助ヘリが迎えに来ますので」

「ありがとう」

晋太郎は車から荷物が詰まった大きなリュックを背負って自衛隊員がくれたリュックと銃を渚に持たせた。

 エントランスに入ると赤十字の腕章を付けた隊員が検温を求めてきて確認してから最上階1204の鍵を渡してきた。


 晋太郎と渚は部屋に入ると二人ともなんだか全身から気が抜けてしまった。

 自衛隊員の当たり前のような活動に安心と言うよりも呆気にとられてパンデミックが起きている事がそんなに大した事では無いのかなと思うくらいであった。映画やドラマのような人間同士の争いや奪い合いは全く無いのである。


 しかし、窓から見える景色は一面荒れた街並みになっている。


つづく

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