第8話

「地球が揺れてる」8


 晋太郎達はDVDでゾンビ作品を見ている。


 東京郊外のこの辺りはゾンビも少ないから比較的安全であるが暇である。


「生き残った人達は何処かでベースキャンプ作って共同生活してるのかね?」

「どうだろうかね。パンデミック前に戻すのが平和なのかこのまま人は天敵の居る世界で野生に戻るのが運命なのか…」

「私達は運が良いのかな?」

「微妙だよな…メル友から始まって嫌なことあってそこに俺が首を突っ込んでそしたらパンデミック起こってね」

「私は間違えなく運が良いけど晋太郎さんにとって一緒に居るのが私って…どうなんだろうって思ってた」

「どした?」

「晋太郎さんにとって私は魅力的じゃないよね」

「ん?なんで?」

「だって私を抱こうとしないから」

「それね…毎日思ってるけどね。俺はおっさんだし渚さんは若いから…後は愛しちゃうじゃん」

晋太郎はタバコを咥えて続けた。

「もしも渚さんを愛してその後に何かあって失うとしたらと思うだけで苦しすぎるんだよね」

「そんな事思ってたんだ」

渚は晋太郎に寄り添った。

「こういう事を思うだけで自分が嫌になるんだよな、気持ちの証なんて無いし言葉の保証なんて無いのにね、それを求めてしまう自分がガキみたいってね」

「結構、哲学者なんだね」

渚は晋太郎の腕を抱き締めた。


 次の日ー。

 晋太郎は車のバッテリーを繋いでエンジンを掛けた。

「おはよう」

渚が二階から声をかけた。

「おはよう。少し遠出をして生き残ってる人間を探してみないか?」

「え?」

「俺達意外に自力で生き残ってる奴等はどうしてるのかと情報が仕入れられたらなと思ってさ」

「危なくない?」

「もし生き残りを見つけてヤバそうな奴等なら殺す」

渚は着替えて一階に降りた。

「一応二日分位の食料を積んでおくよ」

「うん」

二人で荷物を積み込んだ。


 近所の養鶏場の扉を全部開けて鶏を全部逃がしたらその養鶏場付近で鶏達は生き残っていてあちこちの草原にタマゴを見つけることが出来るようになっていた。物資を調達しに入った住宅などに居た犬も猫もペットとして飼われていた動物たちは全て逃がした。

 その野生化したタマゴを焼いて二人で食べた。


 食べ終わり食器を洗い。部屋を掃除した。出掛けたときに死んでその後にここを見つけた人に使ってもらうために出掛けるときは綺麗にするようにしているのである。死が隣に居る世界になり死が充満した空気の中で生きている実感がある。動かなくなった時計をなんとなく見てしまう。出掛けるときに腕時計をしてしまう。まだ過去の世界の名残の習慣をしてしまうのである。


 埼玉方面へ続く国道を走らせた。あちこちに車が止まっていてガラスは汚れていてあのパンデミックからの月日を伺わせている。時折、車の中にゾンビが藻掻いているのが見える。信号のある交差点付近に特に車が多く見受けられる。あんなに混乱した時でも日本人は信号を守っていたのかと思うとなんだか考えさせられる。交通ルールや常識を意識した人は死んで晋太郎さんみたいな少しぶっ飛んだ人が生き残れる。ここまで世界が崩壊したときに潜在能力が開花するものなのかな私はどんな能力が在るのかな、そんな能力は無いか…。

「おい!なに独り言言ってんだ」

「え?」

「全部聞こえてるよ」

ハンドルを握ってタバコを吸っている晋太郎がニヤけながら言った。

「心の声が漏れてるっつうの!」

晋太郎は笑っている。

「渚さんの能力は適応性じゃないか?直ぐに適応してパニックにならずに俺に付いてきてくれてるしね」

「それは晋太郎さんと居ると安心できるからだよ」

「そんな事無いよ渚さんの能力だよ。環境に馴染めるってのがね」

渚はなんだか照れくさくなってハイチュウを口に入れた。


つづく

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