第7話 伊賀流熊襲征伐『中国四国征伐』2
天正4(1576)年7月下旬 安芸国吉田郡山城
毛利輝元
「織田家は毛利家を滅するつもりだ。どうするのだ、輝元殿。臣従するとした身で、欲をかいた要求をした挙げ句の結末だ。」
「(小早川)隆景叔父上、毛利は中国を制しておるのです。その上、九州討伐の功が加われば、それなりの褒美を賜って当然ではありませぬか。」
「何故、我らに相談なく、そのような要求をしたのだ。しかも反対した安国寺恵瓊を幽閉するとは、謀反にも等しいぞ。」
「それは、この要求が認められれば、少しは
「失敗した時のことは、考えられたのか。」
「朝廷がお認めくださらなければ、それまでのこと。引き下がるまでと、 · · · 。」
「 · · 輝元殿は新政を理解しておられなかったのだな。新政には毛利家の当主などいないのだよ。過渡期として、領地の代官には命じられるが、あくまで仮のもの。いずれ新政を理解し、賢く熟す者に任されるのだ。
毛利の家臣に新政を理解している者がおるのか。その者達が役立つと思うのか。」
「隆景、言っても詮無いこと。ことはこれからどうするかじゃ。」
「毛利家を見捨てるしかありますまい。小早川家まで滅びる訳には参りませぬ。」
「さようだな。輝元殿、以後吉川家と小早川家は毛利家と関わりを持たぬ。ご自分の不始末はご自分で責任を取りなされよ。」
「なんですとっ。毛利本家を見捨てるのですか。」
「事の重大さも理解せず、我らに相談もせず勝手にお家を潰される輝元殿に、付き合うことはできませぬ。」
「
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天正4(1576)年8月上旬 安芸国厳島
柴田勝家
伊勢湊で待機していた我らは、秀吉の播磨制圧に続き但馬攻めに入ったとの報に、出陣した。明智勢も山陰に出陣している。毛利の軍勢を引き付けているはずだ。
出陣して三日目に安芸の厳島神社に来た。ここから上陸して、手薄となっている毛利の居城吉田郡山城に攻め入る。
この時、じつは小早川隆景が京の信長の下へ向かっており、吉川元春は但馬の秀吉軍と休戦を結ぶべく安芸には不在であった。
毛利輝元は報せを受け、1万の軍勢で居城吉田郡山城に籠城し、近隣の諸城に後詰を命じるが柴田軍の砲撃により、わずか二日で殲滅された。
幸い、信長の下に駆けつけた小早川隆景の弁明により、吉川家小早川家は無関係と認められ、従う国人衆とともに改めて新政への臣従を許された。
だが毛利家に従った家臣国人衆は、全て取り潰しとされ、ここに中国の覇者毛利家は消滅しだ。
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天正4(1576)年10月中旬 土佐国勝瑞城下
織田信忠
三好長治の居城勝瑞城は、全ての廓本丸が焼失し、城下の見性寺に仮住まいしている。
臨済宗妙心寺派の寺院であり、阿波三好氏の菩提寺である。
阿波で新政を始めながら、四国に勢力を広げる土佐の長宗我部元親の配下国人衆の新政への臣従を促し、その個々の人物を見極めているところだ。なかなかに難しい。
四国へ出陣する前に、藤阿弥殿から文を貰い、面接の問答集などを賜った。曰く、
一、戦の無い世で何を成したいか。
一、戦の無い世で自身はどんな生活を望む
のか。
一、自身はどのような人物になりたいか。
一、息子娘にはら、どのような生涯を送らせ
たいか。
一、武士のいない世では何の職につくか。
この順に語らせ、武士など要らぬ、虚しいと言えば新政についてこれるが、そうでなければ、戦国とともに滅ぶべき人物であると。
じつは俺も設問を考え、そして青くなったのだ。ただ、松姫といつも一緒に居られる生活を夢見て、悪くないなとほくそ笑んだのは秘密だ。
土佐を除く讃岐伊予の主な国人衆との面接を終え、長宗我部元親の討伐を開始する。
伊予からは、柴田勝家殿の第一軍団が吉川小早川の軍勢を従えて侵攻を開始、俺が選別した滅ぼすべき国人衆の城を、壊滅しながら進行している。
加えて第一第二軍団の水軍が合流して、土佐の海上を制圧、長宗我部の水軍を壊滅状態にして、我らの軍勢の移動に活躍している。
そう、我らは海上を移動し、長宗我部元親の軍勢を置き去りにして、手薄となった城を次々と破壊しているのだ。
長宗我部の軍勢は次々と逃げ込む城を失い追い詰められている。
城に残っていた女子供は、逃げ出して寺社へ庇われたが、武力を持つ寺には庇うことならずと通告し、逆らった寺は砲撃で灰燼に帰した。
武力のない寺にのみ、逃亡を許したのだ。
だが長宗我部の降伏は許さない。一族家臣は滅ぶまで好きに戦いをさせるのだ。
彼らはそれを望んだのだから。
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四国の制圧は、年明けの1月まで続いた。制圧した土地には、新政の準備をさせ、食料の配給を行い、城以外の道路橋住居の修理普請を行った。
それにしても、伊勢の代官配下の者達は、大活躍であるな。四国には50人ばかりたがすぐに土地の者を従え、八面六臂の活躍をしている。
彼らがおらなければ、新政などこれ程早く広まるまい。有り余る物資を与え、見る見るうちに豊かな暮らしに変えて見せる。誰もが納得せずにはいられないわ。
そして俺にとっては、とんでもない青天の霹靂が起きた。
それは暮れも押し迫った日に、伊勢の代官配下を纏めるために四国差配役が来られたのだがなんとそのお方は『松姫』殿だったのである。
傍には侍女兼護衛の伊賀くの一『紅雀隊』の11名が控えている。
「此度、四国の新政差配役を仰せつかりました藤林松と申します。末永くよろしくお願い致します。」
「ちょっ、ちょっと、姫様っ。それは早すぎますっ。」
「あらっ、お銀、間違えちゃったわ、どうしようっ。ううぅ。」
松姫と俺は、九年前の婚約の儀で対面しただけで、その後文のやり取りは幾度となく交わしたが対面はない。ましてその時の松姫は6才の幼子だ。
今改めて見た松姫は、途轍もなく愛らしく少女から大人になる色香さえ感じる。俺は身体が震えるのが止まらなかった。心から喜ぶということを初めて知ったのだ。
「疾風様から信忠へお伝えするよう言付かっております。『松姫は手強い故に、今のうちに慣れて置くように。』とのことにございます。」
「あら、松はおとなしい
「姫様、おとなしい女子はご自分でおとなしい女子などと申しませんわ。」
「えっ、彩葉、詩、そうなの?」
「姫様、信忠様にそう言っていただく様に頑張りましょうね。彩葉も応援致しますっ。」
「はははっ、松姫殿はそのままでよろしいですぞっ。疾風殿はこの俺にもっと大きな男になれと仰せなのです。
既に試練ばかり与えられてますでな。はははっ。」
松姫とその一行は、四国各地の新政実施報告を纏め、進行が遅れている地域には応援の人手と物資を回し、朝廷へと報告を送り自らも各地を巡って、民が困っていることを聞き取り、その地にしかできない産業を起こし、民衆から観音松菩薩様と崇められるようになった。
たまに傍に俺が居ても、民衆には単なる護衛の武士と見られているようだ。
なんだか知らぬが、いつの世も美女には、敵わないようだ。
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