第6話 伊賀流熊襲征伐『中国四国征伐』1

天正4(1576)年7月上旬 京都仙洞御所 

織田信長



 九州島津討伐から京に戻った俺は、新政軍ともいうべき北面の武士を4つの軍団に再編成した。


第一軍団 軍団長柴田勝家 与力丹羽長秀他

     水軍軍団長九鬼嘉隆 

 海路安芸の毛利家本拠地に攻め入る。

 戦艦3隻、新造船10隻、大型商船10隻他  

 兵員が20,000余。(うち、伊賀砲兵20門)


第二軍団 軍団長織田信忠 与力織田信興他

 四国攻め (阿波、讃岐、土佐、伊予)

 戦艦4隻、新造船15隻、大型商船5隻他  

 兵員が40,000余。(うち、伊賀砲兵30門)


第三軍団 軍団長羽柴秀吉 与力前田利家他

 中国攻め 山陽道

 兵員が12,000余


第四軍団 軍団長明智光秀 与力徳川家康他

 中国攻め 山陰道

 兵員が10,000余



 それは九州を立つ前に、島津攻めを終え、毛利の要求及び今後の方針について、藤阿弥と話した時のことだ。


「毛利家は、新政を理解しなかったようだな。」


「戦国大名として生き残れると、勘違いしたのでしょう。新政を理解できない者とは同盟を組めません。足並みが揃わぬ味方など敵とする方が何倍も楽です。」


「うむ、毛利は同盟に値せず、滅ぼす。」


「信長殿、毛利攻めに秀吉殿と光秀殿をお使いください。」


「なにっ、両名ともか。中国には秀吉、四国には光秀をと思うていたが。」


「それでは二人を戦国大名にしてしまいます。

 信長殿と戦える軍団を作ってはなりませぬ。」


「あの二人が背くと申すか。」


「人とは刀があれば斬るものを、鉄砲をもてば撃つことを求める生き物です。

 たとえ、謀反の気持ちなどなくても、過剰な武器を与えてはなりませぬ。」


「仮にもし、儂が討たれたらどうする。」


「暗黒の世となりましょう。俺が、忍びの者達が、天下人となろう者を暗殺し続けます故に。」


「藤阿弥が天下人になってはならぬのか。」


「一人の者が号令する天下など、戦国時代と変わりませぬ。いずれ謀反を起こす者を育てるだけです。」


「暗殺はいつまで続くのだ。」


「この世から、武士がいなくなるまで。」


「 · · ならば、儂が死ぬわけにはいかぬな。」



 故に秀吉と光秀には、戦艦や迫撃砲の部隊を預けなかった。投擲機による火炎瓶、焙烙玉があれば、陸上戦には十分であるしな。

 二人には毛利討伐を期待しない。引き付けるだけで良い。

 代りに柴田勝家に毛利の本拠である安芸攻めの陸上部隊を任せた。それも伊賀の疾風の腹心達に水軍を任せた上でだ。

 四国攻めには、若いが嫡男の信忠に過剰とも言える戦力を預けた。与力には、儂の最も信頼する弟の織田信興を付けた。

 四国攻略軍団は、織田家を護る軍団でもある。    




✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣



天正4(1576)年7月下旬 播磨国但馬国

羽柴秀吉



 信長様の命を受け、中国攻めに播磨に入った。既に播磨の別所長治、丹波の波多野秀治や赤松政秀、但馬の山名祐豊らは、先の将軍蜂起の際に、三好殿に葬られておる。

 残るかつての播磨守護・赤松氏配下の勢力であった赤松則房・別所長治・小寺政職らの降伏を許さず滅ぼしている。 


 さて、但馬攻めの内輪の軍議だ。弟の長秀蜂須賀正勝、竹中重治がいつもの顔ぶれだ。


「兄者っ、但馬攻めの後には宇喜多、毛利が控えておるやん。如何するんじゃ。」


「攻めん。攻めんで、睨み合う。どうも殿は儂に見せかけの毛利攻めを任されたらしいのじゃ。

 明智殿には儂の後詰をせよと言われていたがな、儂と合流させるのであれば、もう出陣しておらねばおかしいのじゃ。」


「やはり殿もそう思われまするか、もしかして、信長様は、四国攻めの軍勢で毛利を討伐なさるのではありませぬか。」


「(竹中)半兵衛、どうなんじゃ。」


「九州攻めに向われた柴田様の軍勢も腑に落ちませぬ。九州に居られる藤阿弥殿の軍勢だけでも、年内或いは来年には九州を制定されましょう。藤阿弥殿の軍略は群を抜いております故に。

 ならば柴田様の軍勢は九州ではなく、四国の長宗我部攻めか、或いは安芸に直接攻め入るためかと思われます。

 我らが但馬攻めに膠着したところで、明智殿が援軍なさり、毛利を引き付けさらに分散させるおつもりかと。

 そうであれば、これは藤阿弥殿の策でありましょう。今や勇名を馳せる羽柴、明智軍団を全面に出さぬなど、信長公のやりようではございませぬ。

 そしてこれは、殿と明智殿への警告でもありましょう。」


「警告とはなんじゃっ、儂は間違いを侵した覚えはないぞっ。」


「いつぞや、藤阿弥殿は某に本をくだされましてな。酒を慎み、滋養のある食を取られよと申されました。

 長く生きることで成せることが増やせると申されましてな。ははっ、余談でござる。

 その折、殿のことを一番にしてはならぬ、お方だと申されました。才も努力も卓越したお方故、出世を続けられるが一番になられたら、ただの凡人になるお方だと。

 殿がもし天下を取られたら、何をなさる。 

 ただ出世を望み続けただけならば、出世をさせてくれるお方なしには、何もできぬ者にならざるを得ないと。

 まあ、今回はそんなことではありますまい。


 大名になるな、ということでございましょうか。

 信長公とあのお方が作ろうとなされている世は、戦国大名などいない世でございます。

 もし殿が手柄を立て過ぎれば、大き過ぎる褒美を与えぬばなりませぬ。それは大名と同じ力を与えることになりまする。」


「それは儂が討伐されるということか。」


「はい、間違いなく、病死か事故死となりましょう。防ぐ手立てはありませぬ。

 あのお方は民そのものなのですから、この国の民を根絶やしにすれば、殿の生きる術もありませぬ。

 殿に、この半兵衛が諫言申し上げるならば『足りることを知りなされ。』ということです。今に満足なされ、周りの者を慈しみなされ。それが生きるということですぞ。

 あのお方は、こうも申されました。秀吉殿は信長公に認められる他に、何も成されておらぬと。信長公は不死身ではない。そのお方を護ることをいつ為されるのだと。」


「そうか、儂は主君をお護りすることを忘れておったのだな。信長公がいない世など考えられぬというのに。」




✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣



天正4(1576)年8月上旬 阿波国

織田信忠



 前年、三好三人衆の一人、篠原長房を討ち取り阿波を統一していた三好長治は、阿波全土の国人や領民に対して法華宗への改宗を強要し、国人や領民の支持を失った上に他宗からの反感まで招き、阿波一国の支配力さえ喪失しかねない状態に悪化していた。

 その強権を振りかざす長治の治政に対し、讃岐国の香川之景や香西佳清、長治の弟十河存保が離反、三好義継殿を介して新政への臣従を申し出ていた。

 のぶただ信長ちちの指示に従いこの臣従を受け入れ、三好長治を討ち取り、長宗我部元親を攻め滅ぼすことを命じられている。


 既に三好長治の居城勝瑞城を包囲しているのだが、一つ厄介なことがある。

 それは、大形殿と呼ばれる長治の母になる女性である。聞くところによると日本版楊貴妃なのだ。

 元の名を小少将といい、絶世の美女と評判で細川持隆の妻であったが、細川持隆は小少将に溺れ、防備を怠り酒池肉林の生活をしたそうな。

 小少将が産んだ細川真之めぐるお家騒動もあり、三好実休が謀反をし、細川持隆を自害させ勝瑞城を奪取した。そのため阿波方細川氏は滅亡した。

 その後小少将は三好実休の夫人となり、以降「大形殿」と名を変えている。

 三好実休が亡き後、大形殿はますます妖艶さに磨きがかかり、三好氏の家臣木津城城主篠原自遁と通じ、人目をはばからぬ乱倫ぶりとか。

 これに憤慨した上桜城城主篠原長房が自遁を戒めたが、反感を買い上桜城の戦いで攻め滅ぼされてしまった。

 奸臣にまどわされ、忠臣だった篠原長房を討ち取った三好長治は日夜酒宴にふけり、政治も混沌としている。


 問題は三好長治のことではない。女子供をできるだけ救う方針だが、この大形殿だけは生かしておけば、戦乱の種になる故、密かに始末せよと、藤阿弥殿から命じられているのだ。

 しかも家臣達にも叔父上にも気取られてはならぬという。父上や叔父上、家臣のいずれも色香に惑わされるから、俺が始末しなければならぬというのだ。それができなければ、松姫いもうとを嫁がせるのはやめるとまで言われた。絶体絶命の未来の義兄ハヤテからの命だ。




 のぶただは考えた。男が色香に参りだめなら、女に頼むしかないと。しかし、伊賀のくの一に頼む訳にはゆかない。何故なら藤阿弥殿の配下の手を借りれば、俺がやったことにはならないからだ。


 俺はまず、勝瑞城攻めを命じた。迫撃砲を打ち込み女子供が逃れる刻を与えた上、一斉砲撃で城を破壊炎上させた。追い立てられ打って出て来た城主城兵を待ち構えた鉄砲隊で討ち取った。


 大形殿は他の女子供らと共に、城下の寺へ落ちのび捕らえた。しばらくは寺に軟禁しておき、その間にまだ知恵の回らぬ4才の童女に和菓子を二つ渡し、一つは一番偉いお方に差し上げなさいと渡した。

 まもなく、俺の下に大形殿が急病で死んだとの知らせが来た。幼子にも大形殿が一番偉いお方と理解できていたようだ。

 ちなみに童女の方はなんともない。和菓子を渡した時に別の菓子とともに解毒剤を飲ませていたからだ。

 俺は亡き骸の傍らに行くと、毒を飲んで自害したのであろう。おそらく三好家亡き行く末を儚んでのこと。騒ぎ立てることならぬと申し渡した。


 後日、(未来の)義兄ハヤテ殿には一部始終が露見していて、松姫いもうとを使えば、のぶただも頑張れるのだなと、不気味に笑っていたのが怖い。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る