聖夜特別寄稿『三太の冬鹿狩と伊勢菩薩』

 それは雪国のとある村でのことだった。

 三太という10才の少年には、8才の妹と5才の弟がいた。母親は弟を産んだ時に亡くなり、父親は猟師をしているが1月前に狼の群れに襲われ片足に大怪我を負い、今も寝たきりでいる。


 三太達は、村外れに住んでいるが、村の者ではない。だから、三太達が困っていても、村の者達は助けてくれないのだ。

 昨秋も三太の家の畑は不作で、家にはもう粟が3日分しか残っていない。父親が狩りをして、猟の獲物で食べ物を交換しているが、その父親は動けないでいる。

 三太は自分が父親に代わって、猟をするしかないと覚悟を決めた。

 父親の大弓は使えないが、竹槍で菟や狐を獲ろうと考えていた。

 雪深いこの季節に獲物がいる場所は、山の奥にある温泉の湧き出た谷間だ。

 徒歩で二日はかかる。以前、父親に連れられて行ったことがあり、大体の場所は知っている。


 

 三太は、カンジキを履き、蓑で身繕いすると妹の菜実に猟に行くことを告げた。


「菜実、あんちゃんは猟さ出て来る。もう家には食べるもんがねぇ。何か獲って来るしかねぇのさ。

 あんちゃんが居ない間は、菜実が家を守ってくれや。父ちゃんは動けねぇから面倒みてくんな。

 新太、菜実の言うこと聞いて、手伝いすんだぞ。」


「あんちゃん、気いつけてな。あんちゃんが帰るまで菜実がちゃんとやっとくけ。」


「あんちゃん、早く帰ってけれな。」


「おう、じゃ行って来るけんな。」



 そう言って、三太は家を出た。竹槍を杖の代わりにして、カンジキを履いて一歩一歩、遥か山並みに向かって行った。

 腰には、1ヵ月前に村へ来た、伊勢巫女の姉ちゃんに貰った小刀がある。刃の反対側はのこぎりになっている。これで竹槍も作った。

 伊勢芋の種芋も貰ったが、春になったら、植える分で食べる訳にはいかん。

 あと、方位磁石や鍵縄という物も貰った。



 大怪我をした父ちゃんが帰って三日目。

 水場で会った村人から伊勢巫女のお医者が村に来たというので、父ちゃんの怪我を見て欲しくて、幼い弟と妹の手を引いて、村まで来たのだが、おいらには銭も何も無くて、声を掛けられずに途方に暮れていると、向こうから声を掛けてくれた。


「あら、親御さんはいないの。」


「母ちゃんはいないの。」妹がそう応えた。


「父ちゃん病気っ。」弟が負けずに言う。


 慌てて、「いや、病気じゃなくて怪我なんだ。狼にやられて。」


「まあ、どこにいるの。見るわ案内して。」


「えっ、でも銭が無いんで。」


「そんなのいいのよ、私達は神の巫女よっ、病人や怪我人がいたら、治すのが役目よ。」


 そう言って、家まで来てくれて、父ちゃんの怪我の手当をして、薬もくれた。

 

「まあ、酷い怪我だわっ。傷口が化膿してるじゃないっ。」


「父ちゃん、熱でずっと寝てるのっ。」


「三太くんっ、お湯を沸かしてっ。沸騰させるのよっ。それから、妹さんは鍋かなんか、膏薬を作るから入れ物を持って来てっ。」


 煮沸消毒した極小刃で、傷口を切除して膿を出し、医療用の焼酎で洗う。膏薬を塗り、さらしを巻いて止血をするのを待つ。

 排膿散及湯を飲ませて、三日間傷口の膏薬を取り替えながら、熱が下がるのを待った。


「熱が下がったようね。もう大丈夫だわ。」


「ありがとうごぜぃます、だいぶ楽になりやした。早く治って、また狩りに行かにゃ。」


「そうね、子供らのためにも元気にならなくちゃね。でも、無理しちゃだめよ。」



 父ちゃんの怪我を治してくれて、伊勢巫女の姉ちゃんは去って行った。

 そして言ってた。姉ちゃん達を育ててくれた疾風の兄ちゃんが、いつか必ず助けに来てくれるからと。

 だからそれまで頑張って暮すんだよって。そして、腰に差していた小刀をくれたんだ。びっくりしているおいらに、私達はこの村で最後なのよ。あとは伊勢に帰るだけだから、きっと、あんたの役に立つからあげるわって笑っていた。

 菩薩様って、こんな顔をしているんだなって思った。




 一日目は、風の当たらない斜面を掘って、雪の祠を作って、粟の小さいお結びを食べて丸くなって寝た。

 二日目は吹雪だったが、貰った方位磁石を頼りに俯きながら、ひたすら歩いた。夕刻に吹雪も止み、湯気が舞う温泉のある場所に辿り着いた。その周囲は雪がなく、岩場の間には草が生えている。ちらほら小さな獣の姿も見えた。奥へ進み、以前父ちゃんと入った温かい湯に浸かって、冷えきった体を温めた。

 その夜は、温泉の側で横になった。



 次の日、朝早く起きると、岩場の隙間の草を食べている鹿がいた。近づくとすぐに逃げてしまうし、どうしようかと悩んでいると、立派な角を生やした雄鹿が現れ、草を食べていた雄鹿と争い始めた。ニ頭は半刻余りも角をぶつけ合い、やがて先にいた一頭が去って行った。残った一頭は大型だが鹿どうしの争いで疲弊しているはずと思い、竹槍を構えて近づいた。見ると、立派な角の片方が折れて無くなっている。

 雄鹿はやっぱり逃げてしまったが、後には立派な角が落ちていた。

 おいらは、やっぱり弓でなきゃ何も狩れないと思い、その角と鍵縄の鉄線をほぐして、弓を作った。矢も細竹を見つけて、鹿の角を先に付けて作った。草を集めて山盛りの餌にして、うさぎが寄って来るのを待った。 

 そして岩陰から弓で仕留めた。餌に飢えているのが意外と狩れて、うさぎが5匹、狐が2匹、そして子鹿を1頭狩ることができた。

 おいらは竹を切り出し、焚き火で竹を曲げ、縄で括ってソリを作り、狩の獲物を乗せて帰路についた。



 家に着くと、妹と弟が飛び着いて来た。

 おいらが家を出て7日経つ。もう死んだのではないかと思っていたらしい。

 食事は、3日分をさらに節約して、昨日まで食べたそうだ。今日は何も食べずにいたとのことだ。

 さっそく、うさぎを解体して、温泉場で採ってきた野草と鍋で煮た。味噌で煮たうさぎの鍋は、空腹のおいら達には何よりのご馳走だった。



 次の日、家に商人が訪ねて来た。伊勢巫女の姉ちゃんに頼まれて、父ちゃんの薬を届けに来てくれたという。

 おまけに、春までの4人分の麦や蕎麦、粟漬け物などの食糧と大量の炭もくれた。

 伊勢巫女の姉ちゃんは、家に食糧がないことを知っていたんだっ。それで商人さんは、

急いで来たが、途中の猛吹雪で遅くなったそうだ。

 

 妹と弟には、綿入れという温かい上着と、飴という菓子もいただいた。そしておいらには、立派な機械弓ボーガンをくださった。

 伊勢巫女の姉ちゃんからの文には、この弓で立派な猟師になってね、とあったらしい。

 だっておいら、字が読めないから商人さんに読んでもらったんだもん。


 あの伊勢巫女の姉ちゃんは、やっぱり生き菩薩様だと思う。あっ、伊勢の菩薩様だから伊勢菩薩様かなぁ。




♤♡♧♢♤♡♧♢♤♡♧♢♤♡♧♢♤♡♧♢


 

 その頃、伊賀では。

『あら雪だわ。そう言えば、越後の三太くんに薬と私の贈物プレゼント、届いたかしら。

 忍びの特製小刀をあげちゃって、紙縒り姉さんにはしこたま怒られたけど、三太くんの話をしたら涙ぐんでたわ。疾風 にいには良くやったと褒められたもの。

 そのあと、なんとも言えない、悲しそうな目をしていたけれど。

 三太くん、また会う日まで頑張ってよっ。男の子なんだからっ。    by 伊代。』





【 サンタクロース 】

 サンタクロースの贈物プレゼントの起源は、4世紀の東口ーマ帝国の『聖ニコラオス』の伝説だそうです。

 その伝説とは、ニコラオスが偶然、三人の娘がいる貧しい家族が娘達を身売りしなくてはならないということを知り、夜その家に窓から金貨を投げ入れたそうです。

 金貨は、暖炉に下げてあった靴下の中に、入ったそうで、翌日、金貨を見つけたその一家は、身売りしなくて済んだそうです。

 ニコラオスという名前は、ギリシャ語だそうで、諸国に伝わった際にオランダ語では、『シンタクラース』といい、それが広まって『サンタクロース』になったとのことです。

 ただ、聖ニコラオスの日は、12月6日だそうで西欧諸国ではこの日がサンタクロースで、クリスマスには教会に礼拝に行くだけ、なんだって。




『 筆者の独り言 』

 クリスマスイブだから、皆の家にサンタがやって来るんだよねぇ? 今夜眠りについて目覚めたら、《伊賀忍者に〜。》への素敵な『励ましの言葉』のプレゼントが来てたり、しないかなぁ。

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