第四話 伊賀の軍備『戦略と装備』

 大型水車の動力を利用した木工製材所や、規格壁板プレハブパネル工房などの工房団地、植物燃料バイオアルコールの確保、通信手段の構築などの軍備の第一次整備が完了すると、本格的な武具や武器開発に着手した。


 鎧兜よろいかぶとについては、以前製作した楔帷子くさびかたびらに綿を内包して、より衝撃に強く改良した。

 槍は先端を刃渡り20cmの二股に分かれた刃とし、しなりと強度が最適な直径4cmの竹材で、2間半(4.5m)の長槍とした。

 刀は以前から製作した、黒錆を施した刃渡り45cmの直刀を全員に行き渡らせ、年長の子供や老人には、護身用に小型軽量の腕盾と十手、煙玉や火炎玉を持たせた。


 そして、螺旋銃

《ライフル》の制作が無事成功した。

 銃筒の螺旋ライフル溝に苦戦したが、専用のヤスリを作り、銃口にねじ込む方法で解決した。

 また弾丸は、黒色火薬より燃焼爆発がゆるやかな褐色火薬を使用し、撃鉄による撃発式(撃鉄の打撃で、雷管内部の爆粉が圧縮発火して装薬に導火、銃弾が発射される方式。) 

 弾丸薬莢は、銅と亜鉛の真鍮合金とした。


 ところで要となる鉄の生産だが、昨年帰郷して以来、大型の木炭高炉を建設していたが11月下旬に完成して、試運転と本格操業を経て、日産8tの生産を行なっている。



 俺が考える伊賀の防備戦術は、敵の軍勢が伊賀の領地に入る前に、事前情報とモールス通信網で把握し、敵の進路に有刺鉄線の柵と塹壕を掘った簡易陣地を構築して、銃と弓や焙烙玉の遠距離攻撃で迎撃する戦法だ。

 これには迅速な兵員物資の移動が要となるため、甲斐にならい直線の棒道を昨夏に領民総出でいっきに作り上げている。

 道幅の拡張やコンクリートの舗装は、今も冬場の賦役で実施している。




 伊賀が取るべき戦略は、過日の評定で父上や家臣の代官の中忍達と話し合って、方針を決めていた。


「大殿。それでは六角の勢力が衰えるまで、甲賀の臣従は見合せる訳ですな。」


「そうじゃ、野良田の戦で苦杯を嘗め、浅井に反撃せんとしとる六角に、今は伊賀に敵意を持たれるのは、得策ではないからの。」


「しかし織田や畠山は、豊かに富んだ伊賀や伊勢を欲に目がくらみ、手を出してこないでしょうか。」


「織田は、今川と敵対しておるし、今は美濃を攻めあぐんでおる。

 畠山は、雑賀や根来などの寺社勢力にまで支配力はないし、傘下の土豪も大義名分なくしては従わんじゃろう。

 ましてや、伊賀との交易で利を得てるのじゃ、すぐさま攻め寄せることはあるまい。」


「例の将軍家からの御内書の件、その後は、どうなっておるのでしょうか。」


「こちらが返答せぬものだから、真意を図りかねておるようじゃ。

 いずれ使者を遣わして来ると思うとる。」


「使者が来たら、どう答えるのですか。」


「ありのままじゃ。北畠が伊賀を欲して攻め寄せたので、伊賀の領民が一丸となって反撃したまでじゃと。

 北畠亡き伊勢は、越中一向一揆と同じく、我ら伊賀の一揆勢が治めておりますとな。」


「それで、将軍家が納得されましょうか。」


「どうじゃ、疾風。」


「皆様。将軍家は我らを将軍家の兵として、三好と戦わせたいのです。

 下手に忠誠など示せば、いいように使い潰されるだけです。

 将軍家は三好と争っておりますが、自前の兵力などわずかで、大名達の支援に頼っております。伊賀を攻める力などありませぬ。」


「なるほど。伊賀は天下の騒乱に加わらず、領民の平穏のためだけに備える訳ですな。」


「百地殿。新式銃の方はいかがですかな。」


「今のところ、200丁程が完成してござる。

 この分は藤林砦に100丁、百地の鉄砲隊に100丁を配してござる。

 今後、月50丁程の仕上りなれば、伊賀を先に伊勢にも順次配する予定にござる。」


「半蔵殿。甲賀の三十二家の方の扱いの方はどうなっておりますのか。」


「甲賀の各家から総勢180名が20名の伊賀者を小頭として、10名ずつの組で諸国へ行商と諜報に出ております。

 正月には戻るように命じており、家族の者も安心しております。

 それに里の者達には、10日に一度交代で藤林砦に来させており、その際に不足している食糧や物資などを聞き、帰りに馬車で荷とともに送り届けております。」


「おお、里の家族も帰宅の時期が分かっておれば安心じゃな。それに伊賀領を見れれば、いずれ甲賀が伊賀と一つとなったときにも、違和感はあるまい。」


「御曹子。次は何をされるおつもりですか。

 以前まではびくびくものでしたが、近頃は楽しみで、わくわくしてますんでっ。」


「そんなぁ、催促されても困りますっ。」


「「「「はっはっはっはっ。」」」」




【 護身具 】

 年長の子供と老人に持たせた腕盾は、左手に装着して刀や手裏剣から身を護るものだ。

 また十手は、非力な者が小刀よりも刀を受けるのに適しており、反撃の武器としても有用性がある。

 彼らには、一撃を躱して逃げることを徹底している。そのための煙玉や火炎玉だ。


 江戸町奉行所の同心配下の岡っ引(関八州は目明し)が、身分の証でもある『十手』を所持することはあり得なかった。所持を許されていたのは、同心だけだ。

 時代劇で岡っ引が所持しているのは、江戸時代の歌舞伎などの演出なのだ。

 

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