自分は何者か 

自分は、街を練り歩いていた。


どこに行こうとする訳でもない。


ただ、歩きたかった。


歩いていた。


そしたら何も無かった。


分かっていたさそんな事。


だって自分は


死んでいるのだから。


でも歩き続ける。


目的も無く。


それでいい。それで。


そしたら


きっと何かが


痛い


なに?


あぁ、これか。


熱を帯びた岩か。


ふーん。


また歩く。


どうでも良いよ。


痛くないもん。


歩く。


歩く。


あるく。


え、何あれ?


明るい色の青い空?


そんな訳無いじゃん。


ここはそういうところじゃない


でも青い


あれは、何かな


希望かな


行ってみたい


けど行けない


自分が行けなさそうだから


でも気になる


何気にそこへ向かって歩いてみる


青空は近づかない


そりゃそうだって思う


何だか行く気が無くなってきちゃいそかな


何だろうね


涙がでてくる


自分はもう、あそこへは戻れないのかな


何これ、涙じゃない


え、なにこれ


墨汁........?


何でこんなものが自分の目から....?


自分は人ではないのか


そういえば


自分が何であったのかさえも


既に定かではない


墨を入れる何かだったのだろうか


へえ、そうなのかな。


自分は物だったのか。


生きてなかったのか


何だろう


何だか気を失う


自分は


単なる無機物


価値が無い


そうか


それが自分なのかな


何だろう


涙がもっと溢れて


ううんこれ墨じゃない


涙が黄色に変わった


少し希望が見えた


何これ


黄色


バナナの皮じゃんこれ


何でだろ


何でこんなものが自分の目から


流れてくるんだろ


いい感じの甘い匂い


癒される


さっきのショックがなくなるような


これでいいか


「それでもまだ分からないのか?」



君は


誰?


「そうか。そんなのも分からないくらいには気がおかしくなっちまったのか」


自分が、おかしい?


確かにそうかも


さっきから変な事ばかりが自分に起こるし


君は、誰?


「その前に一つ聞きたい。お前は自分が生きていた時の事を覚えているか?」


自分が、生きていた時...?


ええと


何かをやっていた様な気もするけど


「何をしていたかまで思い出すのは、厳しいか?」


うん。厳しい。


分からない。思い出したくも無いような気もするなあ


「そうか....。やはりあの時の出来事は相当来ていたんだな。」


キテイタ....?何を....?


「いや。思い出したくもないなら無理に思い出そうとしなくて良い。質問を変えるが、お前は普段から何を着ていた?」


何を....?


普通に、色々着ていたような気がするよ。自分はあんまり自分の事に興味がないから覚えてない。


「そうか!ならビンゴ....いや、良いだろう。」


「お前はあそこへ行きたいだろ?」



青空!


「そうだ。あそこは青空だぞー。あそこへ行こうぜ。俺とな。」


自分だけでは行けそうに無い気がしていたけど、君とならなんだか行けそうな気がするよ。


「そうだろう?フフ。」


あの青空、何だろうなあ。


あの青い場所には何があるんだろう


美味しいご飯がいっぱいあるのかな


綺麗な人がいっぱいいそう


何か、優しそうな所っぽそう


この子もかっこいいし賢そうだし


安心していいかな


「ああ。良いぞ。」


僕の声筒抜け?


不思議な子だな


「ところで、お前は16世紀の時代を知っているか?」


16世紀...


かなーり昔な感じのイメージ


「はっ!それさえ言えれば充分だよ。」


何の質問だったんだろう


全く分からない....


その意図が全く読めない...


「青空が近づいて来たぞ?」


え?



本当だ


....................死にたい


「はっ!やっぱりそう言うと思ったぜ。だってお前は________だろうがよ。」


今自分は、青空の中にいる


死にたい


死んでるのに


助けて


死にたい


死んでしまいたい


「やっぱお前にはここはまだ早かったみたいだな....。よし、俺の中にいろ。」


うわ?!


急にこの子の中に吸い込まれて



何、ここ


真っ暗。


さっき以上に



何あれ


目?


こっち見てるよ


怖い


声をかけようか?


いや、無理。


どうしよう


そもそもここは


あの子の中


これ


どうなっているの


鬼とかか?


そんな訳は流石に無いよね


「おーい。出てきても良いぞ。」


え、いいの?


じゃあ出よう。どうやって?


うわ


また吸い込まれる


あ、光だ


「よう。」



青空だ!


綺麗!


「だろ?ここがお前の来るべき所だったんだよ。」


そうだったんだ。自分は、解放されたんだ.....?


「そうだぜ。良かったな。あ、あと少しやる事あるけどな。」


あと少し...?


「おう。お前、まだ自分が何なのかを思い出してねえだろ。」


自分は、何者なのだろう?


「まだ思い出せないのか...」


「ま、そんな簡単には思い出す事はできねえさ。何せガチガチに記憶を固められているからな。」


ガチガチに...?


ガチガチ.....


ガチ....ガチ....


ガ................


ガチガチに記憶を固められている


だから自分は、そこから抜け出そうと必死にもがいていたんだ。


「おっ、何か分かったみたいだな。」


ああ。何かを分かったけど、それ以上先の事が思い出せない.......


「ふーむ。では、これでどうだ?」


え、何するの?


................これは、家の中.....?


「今、お前の記憶から抽出したとある景色を見せている。それで何か思い出せないか?」


これは....


これは.......べ、弁護士..........


弁護士......反物..........蛙......


あ.........


う....


苦しい


思い出すのが苦しい


またあの青空が、やって来るような気がする


「....そうか。厳しいか。なら無理はされられないな。別の視点から行ってみるか。どれ。」


また、なに?


これは.....


子犬。かわいかったんだ。ふわふわで。


ずっとふわふわしていたかった。


なのに


それが許されなかったんだ。


自分はおかしくなってしまった


もうすぐ死のうと思っていた


自分は、生きている価値が無いんだって


ごめんなさい、お母さん


「良い感じに思い出されてきているみたいだな。」


自分は、不出来です


自分は、生まれるべきではありませんでした


最後に見たあの青空が、綺麗でした


自分は生まれて来るべきではありませんでした。お母さん、ごめんなさい。最後に見たあの青空が、綺麗でした。


「ふむ....。38%ってところだな。」


38%?何の数字だろう?


「それでは今度は、これでどうだ。」


....これは.....粒々..?あ....これ、砂だ。砂。助けてお父さん、流れてく


自分の体が、流れてく


自分は、ただ生まれてきただけなのに、何でこうならなければならなかったの.....?


「おっ。42%くらいだ。頑張れ」


ねえ、この街は、何?すごーくチカチカしている。


うっ


苦しい


「そこだ。そこを乗り越えればお前は全てから解き放たれる。」


.......................


.........みんな、何で、自分を放り投げるの?


嫌だったよ。生まれたばかりで、世界を希望の目で見ていた自分を


ただのモノみたいな目で見るその目が


熱かったよ。ただ寝ているしかなかったのに熱を加えられて


「ようしようし。47%だ。」


産まれたばかりの自分を


「頑張れ。その調子だ。」


産まれたばかりの自分を


墨汁の中に入れて溺れさせてるのに、それで白紙に貼り付けたよねえ


その度に服が汚れちゃって、毎回着替えていたけれど


結局また墨の中に入れられるから何の意味も無かったんだ、自分の着る服は全てが真っ暗だった。ただそれだけ


「良い調子だぞ!」


自分は、性別は無かったんだ。陰茎も無ければ子宮も無かった。


うっ


「ようしようし。辛かったよな...。」


有難う。そのなでなで、嬉しくて涙が出る。


もちろん、水の涙だよ。


自分は、死を、覚悟したんだ。何の為に産まれてきたのか分からずに。何も出来ずに。


身にされた事もいつかは痛くも痒くも無くなっていた


完全に、自分で自分を粗末なものだと認識をしていたんだ


自分は、産まれてくる前、お母さんの中に居た時.....


その母体は6つ有った。


自分のお母さんは


更にお母さんのお母さんの中にいたんだ。つまり、お婆ちゃん。お婆ちゃんも、お婆ちゃんのお母さんの中にいた。そのお婆ちゃんのお母さんも、そのお婆ちゃんのお母さんの中にいたんだ。そのまた上の母体が、一番最初のお母さん。


つまり、一つの母体の中で一気に5人も妊娠をしていたんだ。母体の中の赤ちゃんが、更に赤ちゃんを妊娠している状態だ。それが5回も連鎖している状態だった。


今の時代では確認はされているけど、相当珍しい妊娠障害。


赤ちゃんが、赤ちゃんを妊娠している。


自分はその中の一番下の子。この障害の影響で病気だから性別や性器自体が無かった。


だかららしかったんだ。自分が色々と、研究をされたの。


バナナは、おやつの時に大人の人が食べさせてくれたんだ。美味しかった.........。


とても、甘味が広がって、その時は幸せな気分になれた。


「67%だぜ」


でもやっぱり自分は不幸だった。自分だけじゃなく、一番上の産まれてきたお母さん以外は皆、研究にさせられて不幸だったんだ。


自分は自分が産まれてきた事を呪ったけど


うっ


「大丈夫だぞ。そこまで来たら、全てを思い出せる。ようしようし。」


お母さんは6人居たけど、みんな優しかった


みんなそれぞれ、自分に愛情をくれた。お父さんは、偶にしか遊んでくれなかった。


.............................


自分の名前は、「No.6」と言う。


そうだよ。それが、自分の名前だよ。名前らしい名前は無いよ。僕達は障害で産まれた子で、研究の為に使われるだけの存在だったのだから。


そうした日々を送る中で、一番綺麗だなと思ったのがあの青空なんだ。偶にある、酷な場所である研究所を出て空を見るその時。曇りや雨の時はショックだったけど、晴れの時は本当に綺麗だった。青くて所々に白い雲が綺麗で「あの雲の上には何も苦しく無い天国があるんだろうな」って思ってた。


実際に、ここは、天国なの....?


「それはまだ秘密な。今は君の事を、思い出してご覧。」


うん。自分はその時折に見えていた青い空が好きだったんだ。多分、僕の母体となった子のみんなも。


でも、とある時を境に怖くなってしまったんだ。


「そこ.... 辛いだろうが頑張ってくれ。撫でるぞ。」


うん。有難うお兄ちゃん。


刺されたんだ。足を。


うっ


有難う、お兄ちゃん。なでなで、気持ち良い。落ち着くよ。


確か、青空は綺麗過ぎると自分達が汚くなるとかいう事を言われて


「ようしようし。」


それなら青空が嫌いになりそうになったんだ。コンプレックスを持つ様になった。


うっ


でも、青空は綺麗だった。とても綺麗。それだから複雑な気持ちだった。綺麗なのに、何だか自分が惨めに思ったりする。綺麗なのに。


そもそも、どうして自分達がそんな事を言われなければならなかったのか


どうしてもそれが腑に落ちなかったんだ。


そう言った相手は単に日頃のストレスを


ぶつけただけだった。


でも自分達はそんなに軽くは捉えられなかった。


自分達は、心の中に刺さった。日頃から自己否定ばかりされる環境に居させられたから。


だから自分はコイツらが嫌い。青空は、相変わらず好きだった。


そういう境遇でも偶に、お家の外から遊びに来てくれる子犬がいたんだ。その子犬、好きだったんだ


可愛かったんだ、ふわふわで、自分の事を好きだって顔を舐めていた、凄く癒しだった。でも、その子犬も研究所の人から「研究の邪魔だから」って、体をバラバラに切られて死んじゃったんだ、凄く悲しかった。自分の癒しが無くなったから


研究所の奴らの自分達への攻撃は常に続き、終いには第一子以外はみんな父さんから、多分研究の痕跡隠蔽の為にとある地方の海外に連れて行かれて、その熱砂の砂流れに埋められて、自分達は命を終えたんだ。


第一子の子は普通に妊娠された何も障害が無かった普通の子だったから殺されはしなかったよ。ある程度の研究はされてはいたけど。


「良いぞ。」


「大分思い出してきたな。」


あぁ。自分達が死ぬ近い前に、部屋の中に女の人の弁護士が入ってきたんだ。多分、この研究所が悪い事をしているって勘づいた人だったのかなー。色々話していたよ。


というか、この女の弁護士の人が多分、自分達のお母さん。原来の母体。うん。そうだよ。


自分達が寒い時は反物で暖めてくれたんだ。部屋の中に暖房機が無かったんだ。多分自分達がぞんざいに扱われていたから。


いつもいるお部屋の中にある16世紀の雰囲気の絵画が綺麗で好きだったんだ


その絵画も青空が綺麗で


絵本を読んでくれた後に原来の母体のお母さん、その絵本を本棚に戻したんだけどその本棚に他にどんな絵本があるのかが気になって、見てみたんだ。そしたら生物の生態書?


みたいなのがあって。その時の自分はそれは何か変わった絵本だと思って見てみたんだ。そしたら色んな生き物の解剖図だった。ライオンや亀、うさぎや猫、色々な生き物の解剖の絵が掲載されていた。その中でも一番気になったのが、蛙の解剖図だった。


一番奇怪な形に見えた。手が曲がっていて


足も曲がっていて。


気持ち悪かったけど、怖かったけど、そこが興味を惹かれた。不思議な感じで。それが生きることの楽しみになっていた。ここで辛い事があった後もこの解剖図を見ることを楽しみにしていた。


死にたく無かったな。自分は生物学者になりたかった。障害持ってても元気に生きたかった。



「95%くらいだ。おいNo6、周りを見てみろ。」


わ!青空だ。綺麗...!


No.6「綺麗だね!青空!」


「そうだろ?今の君には何も怖い事が無い、綺麗な青空だ。」


No.6「うん!この綺麗な青空を、スバルと一緒に見られるのが一番嬉しいな!」


「ほう。お前、俺を思い出したのか?」


...............


「ま、95%だからな。まだ100では無いわな。」


スバル。名前は思い出した。この子。でもどんな子だったのかよく思い出せない。生前にどこで会っただろう。外国へ行った時もこういう子は見た事無かった。


外国.....?


そういえばここが死者の行くところだという事は、この子は....?


......??


「俺の事は気にすんなー あと、俺様は死んでは無いからな。誤解はするなよ。」


え、死んでいないの?それ。じゃあ何でここに居るの?


「それは君自身で後ででも理解をしてみろ。今はそれよりも、あともう少し、自分自身を思い出す事が先決だ。あと少しなんだぜ。あと少し。」


そうなの?特に何も...


「よし。じゃあ今からやるぞ。これで、全てを思い出せ。」


..........!!


これは


.....................え



え....................??????!!!!!!

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