風向きが

「あーあ、いい風」

 空はどこまでも広くて、青くて、いつも通り。

 感嘆よりもため息が出るくらい。

 気まぐれで魔王の元から飛び出したはいいものの、それはそうと退屈だ。


 だけれどその時、地上の方からこんな声が聞こえてきた。

「もう! どうしてアンタは毎日毎日バカなことばかりするの!」

 子供を叱る、母親の怒った声。

 あはは、懐かしい。

 千代子の母もあんな感じで、いつも子供に振り回されていた。

 実際の所、千代子は母としかコミュニケーションを取れなかった。迫害されぬよう、誰もいない所に住んでいたからだ。だが母はあまり子供と遊ばない人だった。魔法を教え込むこと以外には、本当に退屈な人。

 だからこそ、千代子は奇妙な倫理観を持ってしまったのかもしれない。

 退屈な日常よりも刺激ある非日常を渇望する、幼いそれを。


「全く! アンタはいつもお母さんをヒヤヒヤさせるんだから」


 その再びの怒号に、ピシャーンと千代子の頭の中で雷が鳴った。

 そうだ、子供を作ればいいんだ!

 そうすりゃきっと、退屈しないはず!


 ✳✳✳


 できれば勇敢で、剛胆で、無邪気で好奇心旺盛で……、とびっきりやんちゃな子供が望ましい。

 となれば、まずはそんな性格の父親を探さねば!

 そういう訳で千代子は世界中を巡り、理想の男を探すことにした。

 いやはやしかし、そんな都合のいい男がすぐに見つかるだろうか?

 いや、いる。

 魔王を倒さんとする、自称英雄だ。


「ねぇ、魔王を討伐する気なんだって? アタシと手を組んだら手伝ってたげるよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る