魔王と魔女

「そんで、魔王様はこれからどうするの?」

『我は長い間封印されていた。力も前より衰えている。よって、力を取り戻しつつ今の世界はどうなっているのかを見てみたい』

「オッケー。そんじゃ行きましょ」

 家から地図と空飛ぶ絨毯を取ってきて、魔王と魔女は世界を見て回ることにした。


 ✳✳✳


「あそこを見てご覧、桜だよ」

『おお、美しいな』


「ここは結構栄えてる都市。人がいっぱいだ」

『壊しがいがありそうだな』


「あ、麦畑だよ。切り取られていくね」

『麦とは何に使うのだ?』

「美味しいパンになるよ。後で食べてみようか」


「ほら見てあの大きなお城。あれが今の王族、ロマネスコ・カリフラワー」

『ロマネスコ・カリフラワー』

「自らを神の子と名乗ってる連中さ。アイツらのおかげで同じ血が流れていない魔法使いは差別対象。嫌な奴らだよ」

『滅ぼしてやろうか?』

「いやいや、今は無理なんでしょ? それよりもっと面白いところに行こう」


『あれは何だ?』

「嘆きの滝で御座い。人の飛び降りが止まないとかなんとか言われているおっかない場所さ」

『飛び降りか。道理で魂が集まっているわけだ』

「へぇ、魂が見えるの?」

『ああ。あの魂らを平らげれば、多少は力が戻るだろう』


「もぐもぐ。どう? もぐもぐ。美味しい?」

『ふむ……。悪くないな』

「良かったー。ねぇねえ、行きつけのパン屋さんは滅ぼさないでおいてほしいんだけどいい?」

『構わんぞ』


「そんで、あのクソでかいお屋敷はマカロニ・ウェスタン。ロマネスコと敵対しているとこですわ」

『ほほう』

「マカロニと仲良くできりゃあ、もしかしたらロマネスコを落とせるかも?」

『仲良く? 何故我がそのようなことをせねばならん。乗っ取ればいいだろう』

「乗っ取り! 魔王らしいお考えですこと」


✳✳✳


「この玉座、座り心地最高じゃん」

 魔王がマカロニ・ウェスタンの全てを喰い尽くした後、魔女は玉座がどれほどふかふかなのかを確認した。

 うんうん、良き良き。

 魔女はまぶたを閉じて、まどろみの向こう側に招かれていく。

 おっと。

 母の睨み顔が見えた気がした。


「あんた、何してんの本当に……」

幻聴かしら。頭の中に母の声が。

「あれを解き放ったということは、もうこの世界は終わりなのよ? もう、何もかもが全部なくなってしまう」

「なくなるなんてことはないよ。パン屋は残してくれるみたいだし」

「…………」

ため息が最後に聞こえた。


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