9 夢の中の世界へ
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ラルゴがコーダのアパートに着いた時、コーダは待ちくたびれて、野暮ったい部屋着を着てベッドで熟睡していた。金髪のかつらとパットはつけたままだ。
コーダの頭の上にサキュバスが蛾の姿で止まっていた。
「何やってたんだい。遅かったじゃないか。スケルツォ退治をあきらめて、もう来ないのかと思ってたよ」
「あきらめるどころか、奴を確実に呼び寄せる方法が見つかったんだ」インキュバスが答えた。
ラルゴとインキュバスは、ここへ来るまでに使い魔のモレンドに襲われた件についてサキュバスに説明した。
「やはり、私の思っていた通り、使い魔が働いていたんだね。で、どうやってスケルツォを呼び出すんだね?」
「これです」ラルゴは公園から持ってきたビンをサキュバスの前に差し出した。その中には、百匹のハエから採取したネバネバの粘液が詰まっている。
「何ともまあ、えげつない臭いだねえ。そいつがスケルツォを引き寄せるのかい?」
「スケルツォとモレンドの連絡に使われるフェロモンとかいうものがこれに含まれているみたいです」
「それをどうするんだね?」
「このアパートの扉に塗りたくっておこう」インキュバスが言った。「これだけの量のフェロモンがあれば、スケルツォはすぐに反応するはずだ」
「よし、すぐにそいつを玄関の扉に塗っちまいな」とサキュバス。「コーダが目を覚ましたら文句を言うだろうが、このまま寝かせといて今夜中にカタをつけちまおう」
さっそくラルゴは表に出て、ドアにハエのネバネバをぶっかけた。もし、その時誰かが通りかかったら、夜中に何をやっているんだと怪しむだろう。木肌の美しい白木のドアが黄色みをおびたネバネバでベタベタになった。汚らしいことこの上ない。コーダが目を覚まして、このドアを見たら卒倒するかも知れない。
「さて、これで本当にスケルツォは今夜中にここに来るだろうかね」ラルゴが戻ってくるとサキュバスはインキュバスに言った。
「間違いない。これだけフェロモンが強烈な臭いを発していれば、野郎はすぐ飛んでくるだろうぜ」
「それじゃ、こっちも用意しておかなければね」サキュバスはコーダの頭からフワリと飛び上がった。「坊や、そこのソファに座りな。私の鱗粉であんたをコーダの夢の世界に誘うからね」
ラルゴは言われた通りソファに座った。少し緊張していた。心臓の鼓動が速くなる。
「落ち着け。何も心配することはない」ラルゴの不安を察してインキュバスが言った。「俺はコーダの夢の中までついていってやれないが、これからやってくるだろうスケルツォも入れない。そこではお前とスケルツォに憑かれている男との闘いになる。俺はお前なら勝てると信じている。お前の童貞力はすごい。お前も自分の童貞力を信じるんだ」
「わかった」
サキュバスがラルゴの頭の上を円を描きながら飛んだ。飛びながら、皿に盛ったスパゲティに粉チーズを振りかけるように鱗粉を落としていく。
「目を閉じな」サキュバスにそう言われる前に、鱗粉が入らぬようラルゴは目を閉じていた。
「数を数えてみろ。一から順番に、ゆっくりとだ」インキュバスが言った。
「1、2、3……」
十まで数えぬうちにラルゴは眠りに落ちた。
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