4 謎の殺人事件
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休み明け、変わりなく出勤したラルゴは、昼休みになるといつもと変わりなく食堂へ行った。
「スパゲティ」ラルゴは何食わぬ顔でフェルマータの前に硬貨を置く。
フェルマータはラルゴを見て顔を赤らめた。夢に出てきた男はラルゴに似ていたような気がする。何でこんな男に抱かれる夢を見たんだろう。おごってもらうだけのボーイフレンドとしては無難で都合のいい奴だが、男としての魅力はプレストの方がずっと上だ。たぶん、こいつを素っ気なくふったのを申し訳なく思う気持ちがちょっと心の中にあって、あんな風に夢に出てきたんじゃないかな。たぶん、そうだ。
フェルマータは、テーブルに着いてスパゲティを食べているラルゴを見ていた。この前、デートした時のラルゴとは違って見える。自信に満ちて、落ち着いていて、ちょっと男らしい感じだ。私が思っていたより、あいつはすてきな男なのかも知れない。
ラルゴはフェルマータと言葉を交わすことなく、インキュバスはその日もう一度フェルマータに付いてアパートまで行った。今夜はプレストは来ないらしい。プレストから電話がかかってきて「虫歯が痛むので歯医者に行くから、今日は行けない」とのことだ。
「その分、お前がたっぷり可愛がってやれ」インキュバスはラルゴとフェルマータを再び夢の世界に引きずり込んだ。
今度の夢では、二人は劇団員という設定で、他の団員が帰った後、恋人役の二人は密室で稽古を続けているうちに熱くなって、本当にセックスに至ってしまう。
今回もフェルマータは大いに興奮し恥ずかしげもなく大声を上げた。
ラルゴも快感は覚えたが、今一つ気持ちが盛り上がらなかった。一時は自分の理想の女性のように思えていたフェルマータだが、夢の中で欲望をむき出しにした彼女と交わってみると、何だか下品な女に思えてきた。フェルマータとはもういいかな。もっと、いろいろな女性と楽しんでみたいな。彼女にふられて自殺しようなんて考えた自分がバカみたいに思えた。
それから先、ラルゴはインキュバスの力を借りて、既婚未婚を問わず、役場に勤めているさまざまな女性たちと夢の中でのセックスに興じた。。夢の中で会ってみると、まじめでお堅い印象を持っていた女性会計課員が雌豹のように奔放だったり、職場では男たちに対して怒鳴り散らす土木課の女性主任が性的には臆病だったりと意外な面が見られて面白い。
職場の外でも、屋台街で時々見かける妖艶なマダムや、いつもコインランドリーのイスに座ってガムを噛みながらマンガを読んでいるはすっぱな感じの店番の女の子などなど、手当たり次第にインキュバスの夢の中に引きずり込んでいった。
ラルゴの好みは基本的におっぱいの大きな女性なのだが、そういう女ばかりだと飽きてくる。ビフテキばかり食べているとあっさりした白身の魚が食べたくなってくるように、小さな胸の女もそれなりにいいものだと思えるようになった。同様に、整った顔立ちの美人ばかり相手にするのもつまらない。以前なら、こんなブスは相手にしたくないと思ったような子でも、寝てみると案外かわいく愛嬌があったりして楽しいものだ。どんな女の子でもいいところはあるものだとラルゴは実感した。
どんな女性が相手であろうと、夢の中のヴァーチャル・セックスであれば、妊娠させて面倒なことになることはないし、性病をうつされることもない。ラルゴは肉体的にはいまだ童貞でありながら、わずかふた月ほどの間に五十人を超える女性との経験を持つ性豪となった。
その頃、フォギータウンからかなり離れたトリルという村で妙な風邪が流行り始め、国中へ広がっていった。「トリル風邪」はくしゃみやせきで人から人へ感染し、感染すると高熱が出て、ひどい肺炎を起こす。感染者はどんどん増え、重傷で入院する人や死者も増えていった。
国王は「これは一大事だ」と大臣たちを集めて緊急会議を開き、国中にお触れを出すことを決めた。
翌朝、全国の市町村の役場前にバカでかい文字で書かれたお触れが張り出され、ラジオで臨時ニュースが流された。曰く、「用のない者は外をうろうろ出歩いてはならない。外に出る際にはマスクを着用せよ。ハグやキスはなるべく控えること」。
若者たちはこれで恋愛やセックスがしにくくなった。街で好みの異性を見つけても、トリル風邪をうつされるかもしれないと思ったら声をかけられない。相手がもし感染者だったら、キスなどしたらうつされるのは確実だ。
一方で、ラルゴとインキュバスにとってはトリル風邪など関係がない。お触れが出た後も変わりなく好みの相手を見つけてヴァーチャル・セックスを続けた。
トリル風邪のおかげで、週末に公園や遊園地でデートする若者たちの姿はめっきり少なくなり、ラブホテルは商売上がったりになった。
トリル風邪の脅威だけでも大変な事態なのに、さらに恐るべき悪夢がフォギータウンを襲った。金髪巨乳女性ばかり狙った連続強姦殺人事件が発生したのである。被害者は全て自分の部屋で暴行され殺されている。トリル風邪のおかげで皆自室にこもりがちなのだ。
いずれの場合も犯人は窓ガラスを破って侵入していない。玄関のドアのカギも壊されたりしていない。無理やり押し入った形跡がないのだ。犯人は合鍵を持っていたのか? あるいは被害者が自分でカギを開けたのか? 被害者は6人いるが、金髪で巨乳という以外に共通点はない。何のつながりもない。フォギータウン警察署の捜査は難航した。
そして7人目の被害者が出た。何とフェルマータであった。彼女も金髪巨乳だから狙われても不思議ではない。
フェルマータが死体で発見された日の翌日、町会議長が血相を変えて役場に乗り込んできた。プレストが家に帰っていないのだと言う。町会議長は役場の職員一人一人に「息子を見なかったか?」と尋ねた。誰も見たものはいなかったが、一人、フェルマータと仲のいい、食堂で調理補助をしているおばさんが「前日、プレストが今夜遊びに来るってフェルマータが言ってましたよ」と証言した。
これはいったいどういうことなのか。
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