第5話 五
最近私は誰かに付けられている気がする。
それに気が付いたのはほんの数週間前の事。私はいつものように電車で帰宅している時、窓ガラスに映っている人に目が留まった。
彼は私が会社を退勤した時にも後ろに居て、会社の最寄り駅から家に帰るための電車に乗っている時も居た。今も同じ車両に居て距離は約二メートル。
偶然かな?
最初はそう思って気にも留めてもいなかった。
この時間なら私と同じく仕事帰りの人なんてごまんと居る筈で、同じ方向に帰宅する人だって沢山いるはず。私と同じ地域に住んで同じ場所で働いている人もいるはず。
だからこれは偶然だと思っていた。
しかし今日は私は久しぶりの残業ということもあり少し気持ちが下がっていた。
もちろん今この時間に帰っているのだから文句など言うなよと思う人もいるかもしれないが、今日は残業プラス同期のあんな姿を見てしまっていたので余計にナイーブになってしまっているのは否めないだろう。
だからこそ、今日は色々気になってしまう。
私の後ろにいる彼に。
私はその時、今朝のニュースを思い出した。
『昨夜、午後十一時頃。〇〇区の交差点付近で女性がバイクに乗っていた二人組の男性に、背後からバックを盗まれる事件が起きました。警察によりますと——』
気づいたら私は持っていたバックを強く握りしめていた。
最寄り駅に着いた私は全力で駆けだしていた。鞄から定期券を取り出して改札を潜り抜け、駅を出たら真っ直ぐ家に向かう。でもこの時、一瞬私の脳裏を過ったことがあった。
自分の家を特定でもされてしまったら?
そう思った私は一旦、駅から離れた場所にあるコンビニエンスストアに入り、奥のデザートコーナーでスイーツを買う客を装った。高カロリーなものがずらりと並び購買意欲を駆り立てられる。
でも今日は違う。
遠くからパトカーの音がする。
私は十分ほどコンビニエンスストアで時間を潰し外に出た。
前後左右を見回して彼の姿を探す。それらしき影が見当たらなく私はホッと胸を撫で下ろした。そのまま私はいつもとは違うルートで家へと帰宅した。
「大体、彼が下りたかも見ていなかったよな」
私の気は完全に抜けきってしまいいつものようにイヤホンを耳にはめ音楽を流そうとした時、私以外の他の気配がある事に気が付いた。
私が振り返るとそこに――
「……い、いや!」
「こんばんは、さとう……!?」
彼の背後から数人の足音がして彼は急いで振り返る。
するとそこには数人の警察官の姿があり、彼は急いで走って逃げだした。
「貴女、大丈夫ですか? 彼に何かされませんでしたか?」
「あ、いや、あの」
女性警察官が私に近寄って私の背中を優しく撫でてくれた。その瞬間私の瞳から大粒の涙が零れその場に崩れ落ちる。
「こんばん、は! 佐藤さん!」
彼は景観に取り押さえられながら尚も私の名前を叫ぶ。そして男性警官と共にパトカーに連行されていった。
その後、軽い事情聴取が行われ私は家へと帰宅した。
その時、彼の名前を聞いた。彼の名前は――
高橋良治――
さて。
私は捕まってしまいました。まあいつかこうなることは分かっていたので別にどうでもいいですけどね。
しかし、これで少しはアナタたちの背後にある世界を気にしていただけたのではないでしょうか。
そして私の背後にいる存在。そうです今読んでいるアナタたち全員が今度は新たなストーリーテラーになるのです。
そんなアナタの後ろ。誰かいませんか?
今度、少し気にしてみるのはいかがでしょうか?
今度の被害者は――
アナタかもしれませんよ。
アナタの後ろの世界 香椎 柊 @kac_shu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
きたない手/因幡雄介
★3 エッセイ・ノンフィクション 完結済 2話
不文集最新/石嶺 経
★127 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1,102話
近況完全網羅備忘録最新/詩川
★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 17話
とある女子大生の日記最新/志鷹 志紀
★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 4話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます