7.冷え切った肉体

「そろそろか……」


 少年を山頂に残し一人下山したカアは、自室の書斎にてそう言葉を零した。

 彼女が見つめる先には、感覚がなくなって久しい自身の両腕があった。

 今はまだ動きさえすれど、その両腕は死人の様に冷え切っており、徐々に全身を蝕み始めていた。


 ソレは間違いなく、死の冷気であった。

 彼女の色臓パレッタから色が生成されなくなった現れだ。

 『色』に目覚め『色』に生きる人間は、色臓の活動が停止し体内に残った色を使い切ると死ぬ。

 

「時間が無い……少なくとも『際立ち』の入り口に立たせなくては……」


 彼女が急ぐには理由があった。

 『色』に目覚めた者には、近いうちに必ず乗り越えるべき『試練』と『運命』が課されるのだ。大いなる力の流れ或いは世界の意思によってそう定められている。

 何が試練で何が運命なのか、明確には分からないが様々な形で"必ず"それは来る。


 例外はない。


 強大な壁となるそれらを乗り越えられなければ、精神的"死"或いは肉体的"死"という結果で人生を終える事となる。


 だが、仮にもしソレを乗り越える事が出来たのなら、色の担い手として、真に強い存在として、この世界に在れる。


 その為には色の全てを修め、万全の体制で挑む必要がある。

 しかしそれであっても、乗り越えられる確率は五分。


「何としてでも乗り越えさせる。それが私の――――」


 彼女は感覚の無い両手でゆっくりと拳を握りしめた。


 今の彼女の願いはただ一つ、あの雨灰グライスがこの世界で強く生き延びる事だった。


 その為であれば、どんな手段でも、どんな犠牲であっても――――。














グライス編"中編"――完。


次回 グライス編"後編"

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