6.この世界について その2

 教会には、覚醒装置の他に、SP 細胞にスキルを書き込む為の装置が幾つかあり、それらは無償で貸し出されている。スキルの書き込みや削除の手数料のみ費用がかかる。


 ああ、利用は無償だと言ったがそうでもなかった。利用する際には装置に取り付けられた根を耳に突っ込んで、脳を直接読み取られるのだ。その情報は高濃度に液化され伸びた世界樹の根に滴り吸収される。


 そこで初めて装置の利用が可能となり、有機ネットワーク通称『覚醒.net 』へのアクセスが可能になる。余談だが、スキルの書き込みや削除は装置を介してのみ行われ、スキルの発動に関しては使用者の意思に反応して生体システムが自動的に登録済みの世界樹に申請を出し許可をされたものだけが発動できる。


 そもそも、スキルの源とは何なのか。それは、読み取られた幾万人の無意識であり、時間であり、飽和する知識そのものなのだ。集合した人のそれは、次世代の神とされた。


 先の話に出た脳を読み取られ液化した情報は、三大宗教の各聖地に聳える世界樹へと行き情報を細分化し各スキルなどの向上化に務める。宗教にによって世界樹から得られるスキルの数や特性などが違う。


 三大宗教とは『セル教』『ラア教』『リィン教』であり、共に宗教の名となった『聖典』と呼ばれる神々が残したとされる書物から広まっている教えである。聖典は現在では三つ見つかっている。

 聖典は予知書の側面も見せる。実を言うと、スキルという文化が浸透し始めたのは、聖典リィンが見つかった後の話であり。此処百年余りの急激な文明改革と言えるだろう。記録によると、それぞれの聖典に突如として新しい頁が加わり、そこには世界樹の設計図及びスキルの仕組みや理論などが書かれていたそうだ。

 しかし結局の所この技術を完成させるに至ったのは帝國のリィンのみで他の教会はこの技術の使用権を金銭によって得ている。本には世界樹のスケッチもしてあったが…… 複雑で歪で、裂けた針…… よそう、気分が悪い。


 閑話休題。


 それからまもなくして教会は連盟を発足し、スキルの調整や改定をするようになった。数年に一度、世界樹に蓄えられているスキルの使用記録などを見て、強力すぎるものは下方調整を受けたり、凶悪であったりした場合は廃止削除され、その隙間に新たなスキルが誕生する。


 このサイクルは、非常に素晴らしいと言える。世界樹の製法や技術者が漏れていなければ。力を一度手にした人間がそれを手放すのは容易ではない、歴史がそれを物語っている。スキルには未だ解決に至っていない問題点があった。それは、SP 細胞に一度書き込まれたスキルは改定後もその人間が装置に接続しなければそれは削除されず残り続けるというものだ。


 所謂犯罪組織はそれに目を付け不正に建てた世界樹で不正なスキルを取り扱っている。この世界樹の乱立は世界の断片化を加速させている原因の一つといったところだろう。一方でスキルやステータスに頼らず、手打ち手作業で行う技術者や生産者も各分野でまだ存在しており、スキルでの生産物を嫌う層に需要も在るが年々減少の傾向にある。


教会としては、それら特殊の技術を持つ人間にこそ、装置を利用してもらい、その人間から得た情報を元にスキルの性能を高めていきたいのだろう。大金を出して熱心に勧誘することも在る。


 一つの文化のありようとしては非常に興味をそそられる内容であった。



 だが―――――― 。



 本を閉じる。


「もう、本は良いの?」

「ああ。もう、良い…… そうだ、紅茶を入れて貰えないか?」

「紅茶ね。ちょっと待ってて」


 これらの情報を全て調べ終える頃には一年が終わろうとしていた。この地域は時期によって気候の変化は見られないので一年の感覚が曖昧に感じることがある。


 しかし、終わってみれば、これだけの情報が一年足らずだ。

 その多くは『ユグザ・レイティ』の著書によって知りえた。彼の著書を見つけてからというもの情報が加速度的に増していったのは確かで、不気味だった。


 彼の著書はよく集まり過ぎる。分かりやすくかみ砕かれた情報が、親鳥からヒナへ与えられる餌の様に。読み終えた端から順序良く、まるで本がこちらに向かって歩いてきている様だった。


意志を感じる。


レイティの意思を。


 しかし、頭ですぐにソレを否定する。

 なぜならこの著書は発行からすでに四世紀以上が経過している。それに、著者はこれらの本を書き終えるとほぼ同時期に病死している。


 『ゼロ』というステータスの数値が全て零へと消えてしまう病気だった。


 であれば尚の事その意思が続いているはずはない。

 そう思いつつ、オレは引き出しに閉まっていた本を取り出して改めて見る。



『時計と転生者』著『ユグザ・レイティ』



 出版されている彼の本を全て読み終えた頃だった。


 差出人不明の小包が送られ、中には数十ページにも満たないだろう枯葉で装丁されたこの薄い本が入っていた。


 一体この本には何が記されているんだ『時計』と『転生者』この二つの繋がりは何だ。


 分からない。


 だが、知的好奇心をオレはきっと抑えることが出来ない。


 本を開いた。


 その瞬間オレの意識は奈落へと落ちた。

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