5.この世界について

 あれから一年の間は、この世界に存在する『転生者』と『歴史』それから『数字及びステータスとスキル』について深く調べていた。


 あの男、スミス・フレッツェは肥え肥えしい豚だが、裕福であった為に、これらに該当する書物は少しだけあった。その点については感謝しよう。


 さて『歴史と転生者』からだ。本を読む限りでは、この世界の転生者はまるで神か救世主のように敬われ扱われるのが一般的なようだ。


 彼らの功績として科学に基づいた『技術革命』などあるが、尤な功績は『ステータス』だ。オレ達転生者の体を構築している『数字』の基礎を模して核を作り、それを人体に埋め込む事によって体細胞に数字を定着させ、色核を取り込むことによって、まるで『ゲーム』の様に誰もが強く賢くなれる。


 そして、覚醒装置によって『超常スキル』を無作為に獲得する。

この技術を開発した輪廻帝國は建国時に、力を皆平等に持てれば争いはなくなると世界四大国家にこれを売り込み、国力を得ることに成功した。


 しかし案の定、力を持つべきでない人間も力を得た為に犯罪率は増加し、また『ステータス』黎明期は、力加減が全く効かず。

 ステータスを高めてしまえば逆に日常生活が困難になってしまう場合もあったという。そう言った問題が起こる度に帝國は、スキルを無効化にする手立てやステータスを常に身体に有効化させない技術を見計らったかのように各国に売りつけ。


 着々とその国力を高めていった。当然すでに力を持っていた人間は、それらの行いを侵略行為として数字を排除しようとした。


 だが、一度力を手にした人間が再び無力に戻るという選択を、その勇気を、大抵の人間は持ち合わせては居ない。たとえ天から与えられた仮初の力だったと知っていても。前者は保守派と後者は革新派に別れて一度戦争の様なものが起きたようだ。しかし、圧倒的な数の差で、保守派は敗北し、今や数字の時代となっていた。


 そして、力を全ての者に与えた結果、独立を望む民族や犯罪集団が相次いで小国を作り、世界は断片化が進んだ。かつては大国として名を馳せていた国々は体裁を取り繕いつつも国家分裂により今も徐々に力を失い続けている。国境では今なお紛争が続いているようだ。此処ハシット僻地ではあるが、樹林が国境を遮っていた為実感しずらかったがソレが真実のようだ。


「なんだ、これは……」


 酷く落胆に近い怒りを覚えていた。

 輪廻帝國。転生者の造り上げた国が、力の有り様を変えこの世界を壊しかけている。時代の流れによって、淘汰されるべきものはある。


 だが、それは緩やかに時間と共に行われるべき事だ。

 いくら正しかろうと、大方の過程を飛ばして、身勝手な理想で上から塗りつぶす行為は破壊と呼ばれている。


「その本……そんなに酷い内容だったの?」

「この本だけじゃない、どれも酷いものだ」


 この時期は屋敷の書斎と教会が管理する図書館に籠もり、必要な本がなければ行商に頼み取り寄せた。金は教会が養育費として出してくるものから工面した。


 完全に余談だが、転生者の簡単な見分け方は、雲の形から時間が読めるか読めないかというものと影があるかないかというものだった。この世界は時計というものが一般的でないらしい。道理で見当たらないはずだ。


 影についてはよく分からない。影はまだオレの跡を付いてきている。


 次は『数字及びステータスとスキル』だ。


 今でこそ、スキルやステータスというものは受け入れられているが、記録や論文を見るに、それらに対して疑問や怒りを覚えている人間は少なくはなかった。急速に変わっていく常識や文化に恐怖や戸惑い覚えた人間も居た。

 

 逆に崇拝し歓喜する人間も居た。それらは言葉として文字として感情として本に収められていた。いかような縁があったのかは分からないが、確かなオレの知恵となり財産となった訳だ。感謝している。話がそれてしまった戻そう。


 


 筋力。知力。敏捷。生命。精神。これらがステータスを構成する要素であり、独立した五つの値に別れている。アラビヤ数字で表記され、それぞれが身体能力に飛躍的な増進効果をもたらしている。数字に比例した平等な力だ。一が十に、十が一に覆ることは決して無い。

 また数字とステータスと言う単語は混同して使われるが、『ステータス』とは基本的にこの五つを指し、『数字』とは力の名称だ。


 筋力の値が十で人は自立して歩行が出来るようになり、百を迎える頃には老衰を無いものとし、千を超えれば辛うじて巨岩を持ち上げ、万を超えればそれをも砕く。

 つまり、数字は積み重なる程に良い。

 だが、それらの数字の値は、生命から取れる『色核』と呼ばれる生命結晶によって不規則に値を増殖させる。更にステータスが体に根付くまでの十年の間は、例外を除き、核による値の増殖は微々たるものにしかなりえない。一から百を超える為にはおおよそで、三年は掛かる。


 さて、先程話題に出た例外が曲者だ。これによって、より格差は大きく広がっている。つまりは、転生者とその従者の話だ。


『ユグザ・レイティ』という著者が出した論文によれば、転生者は十年の縛りを受けずステータスを効率的に伸ばすことができ、尚且、核によって増加する値も通常の三倍である。そして、転生者はこの生体システムを持つ生命に対して印を刻む事で『従者フォロワー』として登録し、増加するステータスの値を転生者と同じ物にできる。数字至高の世間では、これも転生者崇拝がされている要素の一つとして上げられるのかも知れない。


 最後にスキルだか、これには『教会』並び『教会連盟』が大きく関わっている。


 前述の核を摂取する事で、特殊な細胞が体の中で蓄積、成長する。アルファベットで記されているソレはsacred patent と呼ばれている。直訳で、『神聖特許』。通称『SP 』または『SP細胞』と呼ばれているようだ。このSP 細胞には容量が存在し、スキルには量が存在する。つまりSP 細胞にスキルを書き込む事が可能だ。有用なスキルであれば在る程にソレは大きく重い。


 スキルとは、本来経験や知識の積み重ねによって得られる技術や言語化不可能な勘をインスタントに再現する事が出来る技術だ。例えば、【剣術】というスキルを憶えたのなら、ズブの素人であっても、正しい剣の持ち方振り方重心の置き方、体幹、足捌きなどを感覚的に行う事が出来る。

 しかし、それにも深度、すなわちレベルや―― いや、それよりも教会に設置されている『機械』について話を進めておくほうが先だろう。

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