第二章― 転生者 北条トキ ―
1.火種を宿す者
その男は、火を生むと言われる『太陽の樹』より産まれたとされている。
太陽の樹はハシットにて御神木として崇められ、それによって生み出された火は、悪しきモノを街から遠ざけ樹林の奥深くに押し込めている。ハシットという辺境にそれなりの規模の街と教会があるのは、それを管理する為であった。
樹は千年に一度一つだけ火の実を宿し実は種となり代替わりを迎える。立ち上がった巨人のような大木だ。無数に伸びる木の枝は規則性を持ち、肘を直角に曲げたかのような枝先で、その全てが中央に成る火の実の方を鋭く指している彼の光景は太陽の放つ線を思わせた。
しかし、十五年前。
その代替わりは失敗に終わった。
雨が降ったあの晩の事だ。雷が太陽の樹を貫いたあの晩の事だ。
貫かれた大樹はひび割れ、幹の内側から激しく燃えていた。
当時、代替わりを見届ける為その場に居た街長と教皇代理やそれらに仕える人間は、その光景を呆然と眺めているだけだった―― 炎の音の狭間に産声を聞いた一人の幼い侍女を除いて。
ただ一人、侍女だけが見た光景だった。
生まれて幾ばくかの赤子が、燃える木の内で肌を焼かず焦げずただ弱く泣いていたのだ。そして、雷の衝撃で砕けた火の実の一部が割れ目に落ち、赤子のこめかみにある霊紋へ吸い込まれる様にして消えた。
すると赤子は声を大きく泣きだし、慌てた侍女が意を決して赤子を抱き上げようと燃える大樹の割れ目に手を差し伸ばした。だが、火は何も焼かず、火の熱は人肌と表せる程で熱さを感じず、赤子の揺り籠のように揺らめいていた。
侍女が赤子を確かに抱き上げると、燃える大樹は雨音の中でやがて静かになった。
たちまちその場は騒ぎとなり、代替わりは失敗に終わったと人々は悲観に暮れたが、失敗の処罰を恐れた教皇代理は拾い上げた赤子を樹の生まれ変わりとして扱うように周囲に言いつけた。
『形は重要ではない。受け継いだという事実さえあれば、ヒトは納得するのです』
そうして、北条トキ、旧名『マイケル・フレッツェ』は教皇代理の命で『太陽の樹』の生まれ変わりとして街長の元で育てられることとなった。
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