「センパイ、受け取ってください!」


「よし! でっきたぁ〜!」


緑のたぬきを作るのは本当に簡単である。


まずスーパー、コンビニを始めとしてどこにでも売っているため簡単に手に入る。

お値段も193円(税抜き)とお手ごろ。

それに加えてお湯を入れて3分待つだけで完成という素晴らしさ。


これでセンパイの胃袋を掴めるのであれば安すぎて心配になってしまうくらいだ。


朝、いつもよりも10分早起きして作った緑のたぬきはスープ用水筒に入れて残りは私の朝ご飯。センパイと同じ食べ物を食べられる日が来るなんて…。幸せである。ありがとう、緑のたぬき。


「センパイ、喜んでくれるかな〜?」


ワクワクドキドキと心を躍らせながら私はバッグにスープ用水筒を入れて家を出る。目指すはセンパイの家。


もう見慣れた道を歩いてセンパイの家を目指す。冷めてないかな? と時折バッグの中を見ながらセンパイの家に着いた。


ピンポンを押さずにセンパイの家の塀に背をついてセンパイを待つ。数分してセンパイが「いってきます」の声とともに家から出てきた。私は塀から背を離してセンパイに挨拶をする。


「センパイ! おはようございます!」


「……おはようございます、結城さん」


「今ちょっと私の事見つめてましたね! 好きなんですか?!」


「毎回毎回よくもまぁ飽きずに待ち伏せしているな、と思いまして」


「センパイのタメ語! 素敵です! もっとお願いします!」


「これは癖ですので」


バッサリとセンパイはそう言うとスタスタと私を置いて歩き出した。それに負けじと私も同じスピードで歩き出す。センパイの長い足から繰り出されるスピードは中々のものだが必死に食らいつく。


「センパイ、センパイ! 私作ってきました!」


「何をですか? ダークマターですか?」


「失礼ですね! 違いますよ! 緑のたぬきです!」


私はそう言うとバッグの中からスープ用水筒を取り出す。私のもののため、色はピンクだから恥ずかしいだろうが我慢してもらおう。


「どうぞ!」


「生憎お昼はありますので」


「センパイ! 今日は買い弁の日ですよね! 私知ってるんですから」


「少し結城さんに恐怖を覚えたのですが…」


「お願いです! 今日このために早起きしたんです! 受け取ってください!」


私が渾身のお辞儀と共にセンパイにスープ用水筒に差し出す。するとセンパイは小さくため息を吐いて私がずっと差し出しているそれを受け取った。


「……分かりました。ありがとうございます」


「! ありがとうございます…っ」


「いえ。わざわざ早起きしてもらったので。これは洗ってお返ししますね」


「あっ、出来ればそのままでお願いします」


「…よからぬ事を考えていませんか?」


「……………いや?」


「間がありましたけど?」



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