「センパイ、赤いきつねと緑のたぬき!どっち派ですか!?」

ひよこ🐣

「センパイ、どっち派ですか!?」


「センパイ! 突然ですが赤いきつねと緑のたぬき! どっち派ですか!?」


バァァァンッ! と美術室の扉を開けて私は開口一番にそう言った。降り注ぐのは部員たちの「またお前か」の視線と、冷た〜いセンパイからの視線。もう慣れた。


「センパイ! どっちですかね!?」


タタタッ、センパイに駆け寄って左隣に座る。


私が再びそう聞くと持っていた鉛筆をスケッチブックの上に置き、私の方を見た。どうやらセンパイはスケッチをしていたようだ。スケッチブックの前にあるリンゴがとても美味しそう。


「結城さん。一応お聞きしますがどうしてそのような事を?」


「それを作って“私が作りました”って言うつもりなので!」


「それを宣言するのは新しいスタイルですね。緑のたぬきです」


「え! 緑のたぬきなんですか!? 赤いきつねじゃなくて!?」


私が慌ててスケッチブックに視線を戻したセンパイの腕を掴んで左右に揺らす。私が座っているのはセンパイの左側のため、利き手を揺らしているわけではないがかなり迷惑だろう。だが止めぬ。


ぐおんぐおん、と揺らされてスケッチが出来なかったからか(恐らくそう)、センパイはため息をついて再び鉛筆を今度は机の上に置いた。ごめんなさい、センパイ。でも許してくださいね。


「緑のたぬきにあるかき揚げが好きですね。浸した時の程よい柔らかさのかき揚げをお蕎麦と一緒に食べるのが好きです」


「そんな事言ったら赤いきつねだって! 油揚げがジューシーでうどんと相性抜群なんですからぁ!」


「そうですか。結城さんとは気が合いませんね」


「ちょ、待ってください! 嘘嘘嘘嘘。あっ、嘘じゃないですけど嘘です! 緑のたぬきも美味しいですよね〜、あはは! あー!あー! なんか私、緑のたぬきの方が好きな気がしてきました!」


「手のひらを返すどころか180度回転してませんか?」


じっ、と疑惑の目が向けられる。


いやいや本当ですって。緑のたぬきも美味しいですよね、赤いきつねの次に。


という本音を抑えて私はセンパイに改めて向き合う。


「それじゃ! 明日! 緑のたぬきを作ってきますね! 初めての手作りですよ! キャー! 照れちゃいますね!」


「ありがとうございます。遠慮しますね」


「ありがとうございます! 頑張って作りますね!」


「おやおや。聞こえていないんでしょうか?」


センパイ! その蔑むような微笑み! 素敵です!! もっとお願いします! ていうか! 結婚しましょう!


と、言ってしまったら最後。本気で避けられる気がするので心の内に留めておく。私偉い。



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