第446話「いやらしい」
「──じゃあ、そちらのバンブー君が陰ながらうちのジェフのフォローをしてくれたということなのね。ありがとう! きっとジェフも喜ぶと思うわ! まあ、私にとってはもうどうでもいいプロジェクトになってしまっているけれど、それは貴方の働きとは関係ないことだものね。
あそうだ、よかったらこれどうかしら? おすすめなんだけれど」
「お、酒か? 悪いな。遠慮なく……」
ジェラルディンは先日レアが教えたインベントリから新しい瓶を取り出してバンブに渡した。
見た目だけならワインのようにも見えるが、おそらくそうではあるまい。
だがこの場でそれを指摘してバンブに突き返させるのもジェラルディンが可哀想なので黙っていた。
バンブはかつては泥をも啜って命を繋いでいたとか言っていたし、それと比べれば上等なはずだ。
「しかし、さすがはレア様と同郷の異邦人だね。集団詐欺か。面白い」
「詐欺だったら教授の得意分野だよ。ゼノビアの配下って今地底王国で教授の配下とよろしくやってるんでしょう。それ以上の話は教授から聞いたらいいよ」
「待ちたまえ。詐欺が得意分野と言われるのは心外なのだが」
「おいおい、また脱線しかけてんぞ。次いこうぜ」
「おっと、そうだね。じゃあ次はわたしが」
自信がないというバンブだったが、思いのほか素晴らしい活躍だったと言える。将来性という意味ではトップクラスの快挙だろう。
次は、と見渡しても他にはバンブのように自己紹介でアピールしきれなかった地味キャラは居ないようで、先に話したいという者はいない。
であればレアの番でいいだろう。
どこから話せばよかっただろうか。
確か前回のお茶会は事象融合で森を吹き飛ばした時だったか。
「えっと、前回の後だと──。リヴァイアサンのエンヴィについては紹介したんだったかな。
そのエンヴィに命じて、東の海を調査させてたんだけどね。大エーギル海とか言ったかな。
調査の結果、大エーギル海の海底には魚人、マーマンの王国がある事がわかったんだ」
「へえ。そりゃまた興味深いな」
「それって東の、じゃなかった、ええと、この大陸からだと西か。ややこしいな。西の海にいるメロウの国とは違うものなのかい?」
「そっか、ゼノビアは知らないのね。大エーギル海にはメロウと仲が悪いマーマンの王国があるのよ。
その王と言えば、たしか海皇イプピアーラだったかしら。頭固くて小うるさいオジサンだったけど、戦力としては役に立ってくれたわね」
「メロウ? 人魚? そんなのいるのか」
中央大陸から見て東の海はマーマン、西の海はメロウが支配しているということのようだ。
そしてその2種は仲が悪い。
「ああ、メロウたちの王国については地底王国にあった文献に記されていたな。勢力としてはマーマンと同程度のはずだ」
「知ってんのかよタヌキ。言えよそういう事は」
つまり今はもう失われてしまった文献というわけだ。
そういえば実効支配した後すぐにお茶会でこちらに来てしまったため確認していなかったが、魔帝国セプテントリオンにもそういう文献が残されていたりするのだろうか。
寿命の長い者たちなので、地底王国よりも歴史的価値が高い文献も多そうである。
一度聞き取りの必要があるだろう。
「タヌキって何? 教授はタヌキなの?」
「ジェリィは今の姿しか見たことなかったっけ。その教授だけど、真の姿は実はタヌキなんだ」
「違うぞレア嬢。普段あちらの姿に変身しているだけだから、真の姿は今のこれだ」
「どっちでもいいよ。それよりまた話がとっちらかってるよ。とりあえず順番に行こう──」
*
マーマンの王国やメロウの王国の事。
そしてマーマンの王である海皇イプピアーラはもう滅ぼしてしまった事。
その戦利品のひとつがすぐそこに聳える珊瑚城である事。
またそれらに関連して、ブランから現在もマーマンたちはある程度まとまった組織として存続しているらしい事の報告があったり、教授の活動についての報告があったりもした。
その教授の報告からの流れで、レアはジェラルディンの始源城周辺や地底王国、それからメルキオレという青年と魔戒樹についてを報告した。
「──【黄金怪樹 サンクト・メルキオール】か。黄金龍の端末ね。ていうかレアちゃん、黄金龍の端末だの文字化けしたステータスだの、そういう情報はさあ……。お茶会とかじゃなくても適宜共有して欲しいんだけど」
「隠すつもりはなかったんだけど、話す機会もなかったし。これからは気を付けるよ」
黄金龍の端末といえば、あの火山での戦闘がハーピィたちのレア陣営としての初陣だった。
彼女たちも普段はポートリーの山岳地帯に住んでいる。
先ほどのバンブの魔物貿易に一枚噛ませてもらってもいいかもしれない。
「でも、そういうことなら私も先に話しておいた方がいいかな。
こっちでもその、黄金龍の端末と思われるエネミーと接触したよ。
名前は【黄金偽神 アクラト・バルタザール】。サイズ的にはそこまで大きくはなかったけど、『鑑定』ではっきり見えないのは同じ。ドロップ品も同じかな。魔戒樹の苗みたいな追加ドロップはなかったけど……。もう少し育ててから狩り取れば大悪魔の心臓くらいは貰えてたのかなあれ」
「はいはいはーい! わたしも戦いましたよ金ピカと! それはもう臭いのなんのって、鼻が曲がりそうで大変でしたけど! 名前はえっと、パトロール?」
〈いろいろ省略されていますよブラン様。【黄金腐蟲 ペルペト・カスパール】です〉
「そうそれ! 【黄金腐蟲 ペルペト・カスパール】!」
スガルをサポートにつけておいてよかった。
「黄金腐蟲は1体1体は大して強くもないしサイズもまあ普通に大きい程度だったけど、とにかく数がたくさん出てきてね。本人は不滅だとか言ってたけど、まあ不滅はちょっとフカしすぎにしても、鬱陶しかったのは確かだったなー。まさに増殖する爺って感じ!」
戦闘の様子を語ってもらったところによれば、大地さえ腐食させる液状のブレスや広範囲の空間に作用する毒ガスなど、恐ろしい能力もいくつか備えているようだ。
ブランはさらりと流していたが、例え抵抗不可の状態であっても真祖吸血鬼のブランにはっきりとしたダメージを与えるほどの猛毒となると、弱いキャラクターならおそらく即死だろう。毒に限って言えばライラに匹敵する状態異常攻撃能力を持っていると言っていい。
1体1体は大した事がないと言うが、少なく見積もっても準災厄級の戦闘力はあると思われる。
「ふむ。どうやら、世界各地で黄金龍の端末の生き残りが活動していたようだね。
当事者のジェラルディン様の話からすると、黄金龍の本体を封印した瞬間、世界中の端末はすべて死に絶えたということだったのだが、例外があるということなのか……」
「仮に例外があるとしても、こいつらが例外になったのには理由があるはずだよ。考えられるとしたら、新しくエネルギーの供給源となる宿主っていうか、そういうものに運よく寄生出来れば本体とのリンクを断たれても生存できる、とかそういうことなんだろうね」
「うーん……。
私が会ったアクラージオ博士はそんなペットの蛇にエサを与えられるほどエネルギッシュなタイプには見えなかったけどな。休眠状態だったとかそういう感じなのかな。
ていうか、何でタヌキは真祖に様付けなんだよ。流行ってるのそういうの。やっぱり私も様付けで呼んだ方がいい? レアちゃん様とか」
「ものすごくバカっぽいからやめてもらえる?」
何らかの要因によって本体とのリンクが途絶した後も端末たちが生存出来ていたとなると、レアが考えていたように封印が緩んでいるというわけではないのかもしれない。
となるとやはり、封印に関わった6種類のマナは用意しておく必要がある。
「蟲の王はどうするかな……。もう滅んでたんだよね端末のせいで」
「おっと、それもあった!
蟲の王さまって、なんかクィーン・アスラパーダって種族の事みたい! それってスガルさんの事だよね。だからそれについてはおっけーっぽいです! もともとオスだったみたいなよくわかんない話も聞いたけど、それは割と普通の事だってエンヴィちゃんが言ってた」
「……すごいなあの子。ええと、ブランちゃんだっけ。ジェリィの話より要領を得ないぞ……」
ゼノビアが眉間を押さえて呟いた。
「わりといつもの事だよ。慣れると何となく何があったのかくらいわかるようになるよ。
たぶん、蟲の王とかって奴はもともと男性型の魔物だったけど、クィーン・アスラパーダに転生することで女性型に変化したって言いたいんじゃないかな。
エンヴィっていうのはさっきもちょっと出てきたわたしの配下のリヴァイアサンの名前だけど、あの子は海で育ったから、雄性先熟の魚、例えばクマノミなんかの事を知ってたって事でしょう」
〈さすがはボスですね。その通りです〉
ちなみに引き合いに出されたジェラルディンは普通に頷いている。
蟲の王については知らない仲でもないはずだが、それが死亡しているというのに実に淡白な反応だ。
もしかしたら聞いているふりをしているが聞いていないのだろうか。
だとしたら、これまではゼノビアの性格のせいでジェラルディンも苦労したのだろうなという認識だったのだが、それは改める必要があるかもしれない。苦労しているのはお互い様、意外といいコンビだという事だろう。
「スガルが蟲の王として役割を果たせるとなれば、もう鍵は全て揃ったってことになるね」
北の極点。
要は北極だが、そこに黄金龍の本体が封じられている。
それを解き放ち、討伐する準備が整ったというわけだ。
「でも、実際に黄金龍の関係者と戦ってみた感想なんだけどさ。
本体って言うくらいだし、あれよりきっと強いんだよね。ウン百年前もジェラルディンさんたちが──」
「ジェリィでいいわよお姉さん!」
「ありがとう。ジェリィたちが、うん? ちょっと待って、お姉さんって何? どういう」
「そういうのいいから後にして」
「……まあいいや。
ええと、ジェリィたちが戦った時も封印するに留まったくらいなんだし、今の私たちだけで戦うとして、勝率としてはどのくらいあるのかなと」
黄金怪樹の戦闘力は高かった。
1体だったから時間制限付きでも大した問題にはならなかったが、あれが例えば、ブランの出会った黄金腐蟲のように大量に現れるとしたら。
そしてライラの出会った黄金偽神のように周囲のリソースを吸収して無限に成長していくとしたら。
驚異的な再生能力を持ち、大量に現れ、戦闘中でさえ強大化していく。
黄金龍というのがそうした性能のエネミーだったとしたら、確かに封印するしか対処のしようがない。
ジェラルディンから聞いたところではそこまでぶっ飛んではいなかったようだが、封印を解いてしまえば少なくとも端末という形で世界中に大量に現れるだろう事は確かだし、今回倒された端末たちの能力をもしフィードバック出来るとしたら、かつての黄金龍よりすでに強くなってしまっている可能性もある。
「──つまり、ライラはまだ時期尚早だと?」
「うん。ゲームのエンドコンテンツだと捉えるなら、そんなに急ぐ事もないんじゃないかなって。
どう考えたって、他のプレイヤーたちに先を越されるような恐れもないし」
「……俺も今回はライラに賛成だな。俺は直接その黄金龍の関係者とやらに接触しちゃいないが、聞いてるだけでも俺クラスの実力で力になれるとは思えねえ相手だ。
とりあえず戦える目処が立ったんだったら、次はこっちの勢力の強化に舵を切ってもいいんじゃねえかな。ていうか、俺にもちょっと時間をくれよ」
どうせ戦うのであれば必ず勝ちたい。
レアの陣営だけで勝てるとは限らないし、そうであれば仲間の意見は聞くべきだ。
バンブについては、元々彼に戦闘面で何かを期待していたわけではなかったが、この様子だとどうやら黄金龍との直接対決にも参加してくれるつもりのようだ。
教授は眼を逸らしているが、バンブに頭を掴まれて無理やりこちらを向かせられている。
そういうことなら、対黄金龍戦についてはマグナメルムの総力を結集して当たろう。
そしてそのために必要な事はすべて行なう。
バンブや教授以外にも、レアやライラ、ブランの配下にもまだまだ成長の余地があるキャラクターはたくさんいる。
もちろんそれら全てを参加させるというわけにはいかないが、各セクションのリーダークラスは参加させてやりたい。
そこにいるガスラークもその1人だ。
たとえ種族的にはゴブリンキングが天井なのだとしても、経験値を湯水のように注ぎ込めば災厄級にさえ届かせる事も出来るはずだ。
「──わかった。じゃあ、これからの目標は各人の勢力の強化だね。それも組織的な意味ではなくて、直接戦闘にかかわる部分でだ。もちろん、仲間を増やすという方向でも構わないけど。
それを踏まえた上で、残っている報告を終わらせよう」
これからは、これまで以上に戦力の拡充を考えていく必要がある。
そろそろMPCを本格的に取り込む件や、ジャネットたちをお茶会に呼ぶ事なども考えていくべきかもしれない。
「じゃあ、私も残りの報告をしようかな。
それに関係する、とまで言えるかどうかわからないけど、南方大陸で面白いおもちゃを見つけたよ。
これはきっとレアちゃんもブランちゃんも喜ぶんじゃないかな。
鎧獣騎って言うんだけどね。簡単に言うとベヒモスの廉価版て感じなんだけど、何を隠そう私が連れてきたこのエルフの研究者アンリ君こそその道の第一人者と言っても過言ではない存在で、このアンリ君さえいれば中央大陸でも量産は可能だよ」
「いえあの、1人で量産するというのはさすがに──」
「マジで!? ライラさんさすが! 今日イチかっけーっす!」
ベヒモスが羨ましいというわけではないが、そういうものには興味がある。
戦力の向上という意味でも素晴らしい。
「人手が必要だというなら、うちのスタニスラフを使うといい。手先が器用なアリもたくさんいるよ。礼はその鎧獣騎とやらでいいから、一番強いのをおくれ」
「おいおい、気持ちはわからんでもないが、本来は南方大陸でゲットできるコンテンツなんだろそれ。そんなもんを中央大陸で俺たちが量産するとなりゃ、何かしらの言い訳っつうかカバーストーリーが必要になるぜ。そういうのは考えてあんのかよ。
もし考えてあるんだったら、俺にもひとつ──」
「そのアイテムには私も興味あるな。量産の際にはぜひ立ち合わせてくれないかね」
プレイヤー陣には好評のようだ。
やはりそういう文化が広く根付いているせいだろう。
だが現地のNPC代表にはそれほどでもないようだった。
「──ふうん。南の大陸って行った事無かったけど、そういうのが発達してるのね。でも、別にそんなものに乗らなくても普通に殴った方が早くないかしら」
「はっはっは。世の中の全ての人々がジェリィみたいに頑丈なわけじゃないん──あいた! レ、レア様今の見たかい? もう一度席替えを要求するよ! やっぱり僕とジェリィの間にはレア様を挟んでおかないと──」
「おいまたドサクサに紛れておかしな要求してるなこの雌猫が──」
「仲良くしなよ。そろそろ拳でわからせるよ。あの魔族の国みたいに。
あ、そうそう。実はこの度、わたしもついに自分の国を持つことになったんだけど、その国の住民っていうのが全員高ランクな種族でね。まあシステム的にはまだわたしの国になったというわけではないのだけど──」
「あ! 住民で思い出した! 話変わるんだけど、極東列島に住んでた人たちが結構わたしたちに好意的で──」
「しかしよ、マーマンの国ってのはさすがにもう取り込めないよな。惜しかったが、西のメロウの王国は同程度の勢力なんだったか? できればそっちは何とか協力的に──」
「なんだ、人魚が好きなのか? いやらしいな! いやらしいこと考えてる奴がいるよ!」
「ばっ! そういうのじゃねえだろ! 真面目な話でだな──」
「まったく懲りないな君たちは……」
*
「ダーク・エルフとリグレス・ドワーフの国、って結構ハイスペックな国だと思ったんだけど、まさかブランにその上を行かれるとは……」
「別にわたしは精霊さんたちを拳でわからせたわけじゃないけどね」
〈はい。むしろ友好的な外交という意味ではこれ以上ないほど鮮やかな手際だったかと〉
スガルはブランのやり方にたいそう感銘を受けたようだ。
確かに、これまでレアの元でスガルが見ていた外交というと、砲艦外交とかそういうものばかりだった気がする。
「なんでブランちゃんが急に極東になんて行ったのかと思えば……。ジズも手に入ったか。これでマグナメルムの元に完璧な陸、最強の海、最高の空が──」
「それはもうわたしが言ったから」
「ぐ。で、先代ジズの遺体ってのはどうしたの?」
「まだ何も。アンデッド化しても元と同じレベルの魔物にはならないだろうし、どうしようかなって思ってるところ」
「そっか。そうだね。戦力として数えるのなら、出来るだけ良い状態で利用したいしね」
他に考えるべき事としては魔戒樹の処遇もある。黄金龍と戦う為にするべきことは山積している。
だが、ライラが言うように急ぐことはない。
仮に黄金龍の封印を解こうとするプレイヤーが現れなかった時のために、自動的に封印が
それに新規プレイヤーのことも考えれば、黄金龍がこの星に飛来した時のように、世界中が同時にその被害を受けるという可能性は低い。その分どこかに集中するかもしれないが。
「じゃあ、これ以降しばらくは各々で力を蓄えていく方向で活動していくということで。
バンブはどうする? MPCは」
「ああ、そうだな……。とりあえず3人、こっちに連れてきたいと考えてるのがいる。お茶会って形じゃなくてもいいが、面通しの機会は作ってもらうかもしれねえ。
最低限居て欲しいのはマグナメルム・セプテム、オクトー、ノウェムの3人だな。俺は繋ぎ役として、タヌキはどっちでもいいや」
「もちろん同席するとも。あと、レア嬢たちをその名前で呼ぶのなら私の事もウルススメレスと呼んでくれたまえ」
「お前それ気に入らないんじゃなかったのかよ」
「気に入らないとは言ってないよ。実際に名乗ってみると不思議な高揚感もあるしね」
「ああ……。わかるわそれ」
そういえば、教授はあの時しっかりと名乗っていたが、SNSで検索をかけても引っかからなかった。わかる、ということはバンブも名乗ったのだろうが、こちらも見ていない。
2人ともせっかくデビューを果たしたのに、どうやら名乗る相手が悪かったようだ。
「わたしの方は……。ジャネットたちをどうするか、かな。あの子たち、ちょうど最近何か長引きそうな仕事を始めちゃってるし」
お守りのライリーから報告が来ていた。ジャネットたちが首を突っ込んでいる件はレアも興味があるし、面白そうなのでそのまま好きに行動させるよう伝えてある。
状況次第では直接介入してもいいかもしれない。
その時にはライラも連れて行ったほうがより面白いだろう。
「いやー。ジャネットちゃんたちはあのままでいいんじゃないかな。何も知らない方がいい働きしてくれそう。私やレアちゃんはリアルも顔そのまんまだから意外とガチになってくれるかもしれないけど、それはそれで面倒が増えそうだし」
ライラがゼノビアたちをちらりと見ながら言った。
「リアル? ガチ? よくわからないけど、そういうことならとりあえず棚上げしておこうか。
ジェリィたちはどうする?」
「私はレアさんに付いて行くわ! と言いたいところだけど、せっかく中央大陸まで来たのだし、ジェフの顔でも見に行こうかしら」
「あ、じゃあわたしも同行しますよ先輩! 伯爵も先輩とレアちゃんの関係について気にしてたみたいだし!」
「あらやだ関係だなんてそんな」
ジェラルディンはブランと共に名もなき墓標へ行くようだ。
あの塔は亡き精霊王の墓標だということだし、ジェラルディンも精霊王とは面識があるはずだし、墓参りでもあると言える。
「僕はそのジェフ君とは直接の面識とかは無いし、どうしようかな」
「貴女もそろそろ地底牧場に帰って配下に元気な顔でも見せてあげなさいよ」
ゼノビアを蘇生させた時、当然ながら彼女の配下は全て死亡していた。
そしてそのリスポーンを待たずに始源城へ引き上げ、そのまま経験値稼ぎに突入し、西へ旅をし、今度は東の海を越え、だ。
いくらなんでも放っておきすぎである。
「そうだね。正式に教授の配下と連携する必要もあるだろうし、顔見せがてらそういう指示とかもしておいた方がいいと思うよ」
「ぐ、レア様とジェリィがそう言うなら……」
「ふむ。では私が同行しよう。マウリーリオやモデスタに面通しをしてやる必要もあるだろうし」
「誰だいそれ?」
「今貴女の地底王国を事実上運営している枢機卿と巫女だよ」
ゼノビアには教授が付いていくらしい。
「俺は、そうだな。やっぱり転生だな。同種のモンスターなんて他で見たことねえし、ノーヒントってのはだいぶきついが──」
「賢者の石使う?」
バンブにはこれからも頑張ってもらわなければならない。
賢者の石ならまだまだあるし、何ならグレートを譲ってもいい。
あるいはジェラルディンやゼノビアから情報を聞くのもいいだろう。
転生の手段までは知らないとしても、どういう種族かわかっていればヒントにもなる。
「──いや、それは最後の手段にしとく。とりあえず、前に話に出てた祭壇ってのに行ってみる事にするわ。
ライラ。確かさっき、大陸の色んなところで遺跡を見つけたとか言ってたよな。その場所教えてくれねえか。出来ればポートリー領内のをよ」
「えーやだ! と言いたいところだけど、回り回ってレアちゃんのためにもなることだし、しょうがないから付き合ってあげるよ」
「え、いや別に場所だけ教えてくれれば──」
「私もちょっと実験してみたい事もあるしね。だいたいの場所は地図に書いてあるけど、詳細な場所は私しか知らないし」
レアは目を疑った。
ライラとバンブとは、非常に珍しい組み合わせである。初めてではないだろうか。
なぜかガスラークが肩をすくめている。
結局彼は何のためについてきたのだろう。
「わたしはどうしようかな。やっぱり配下の強化かな」
新たに勢力に加わった魔族の帝国。
ウェルス北方の森を治めている白魔たち。
遺跡を守るモン吉。
ポートリーの山岳地帯を支配するハーピィのボス、カルラ。
ブランから投げ込まれた鳥の死体。
そして未知の可能性を秘めている魔戒樹の苗。
「……やることいっぱいだな……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます